第63話

「コウ選手そろそろ2試合目の試合なりますので準備をお願いします」


 コンコンとドアをノックされ、部屋の外にいる運営側の人間からそろそろ試合だと言われたのでコウ手早く入場口へ向かう準備をする。


 フェニにまた待つように伝えるが不満そうに先程まで座っていた椅子へ飛び移ると大人しく目を閉じて眠りだしたのでコウは軽く謝りながら部屋のドアを開き入場口へと向かう。


 今回の大会はトーナメント方式なので次の対戦相手はあのダグエルという老騎士だろう。


 ダグエルという老騎士の試合を少しだけ見たが対戦相手は若手の騎士であり、手ほどきをしているような感じの試合だったため正直なところどれくらいの強さなのかはわからない。


 能ある鷹は爪を隠す。


 まさにそんな言葉を使うのが正しいと言える様な風格を持った人物であり、どれだけの技量と力を隠しているのだろうかコウにとっては楽しみでもあった。


「2回戦!3試合目勝者ツェリ!」


 試合会場から審判の判決する声が聞こえてくると歓声が上がり会場内に盛り上がりを見せた。


 先程まで戦っていたのはジャンだったようで悔しそうにしているがすぐ笑顔に変わり、勝者の女性と軽く握手してこちらに向かって歩いてくる。


「おっ コウじゃないか!いやぁ~負けちまった!やっぱ闘技大会だけに強い人が多いし勉強になったぜ!」


 ジャンは負けたことは悔しかったらしいが勉強になる面も多かったらしく闘技大会へ参加した事自体はかなり満足しているようだ。


「じゃあコウは次の試合も頑張れよ!俺は負けちまったからサラと一緒に王都でも観光してくるわ!」


 そう言いながらジャンはコウに声援を贈るとそのままコウが来た道へと歩いていく。


「皆様お待たせしました!では2回戦4試合目コウ対ダグエル入場!」


 ジャンと別れた後、少しだけ待つとようやく審判から名前を呼ばれたので試合会場の中心部へのんびり歩いていくとコウの対戦相手であるダグエルも奥にある入場口から出てこちらに歩いてきていた。


「コウ君だったかな?宣言通りに来ましたな」


「まぁ相手があれだったから...この試合はよろしく頼む」


「うむ、お互いに良い試合にしようか」


 コウとダグエルはお互いに試合会場の中心部で少しだけ会話を交えた後に握手をかわし、数歩離れた場所に立ってお互いの武器を構える。


「では2回戦4試合目コウ対ダグエル試合開始!」


 ダグエルの武器は一般的な武器屋で見られるような長剣であり、装飾品なども付いていなく両手でしっかりとグリップ部分を握りずっしりと構えている。


 コウもサンクチュアリを構えるがダグエルの構えに隙は無くどこから攻撃しても受け止められて切られてしまう...そんな見えない圧力が目の前の老騎士から発せられていた。


 そんな相手を見ていると圧のためかサンクチュアリを握る手に汗がじわりと滲む。


「ふむ...こないのかね?ではこちらから行きますぞ」


 そう言いダグエルはコツコツと足音を立て向かってくるがコウが瞬きをした瞬間、既にダグエルはコウの目の前に来ており、風を切りながら長剣を振り下ろしていた。


「くっ...!」


 間一髪コウはダグエルの初撃を避けることに成功するが追撃として振り下ろした長剣が下から上に向かって振り上げられる。


 コウは下からの追撃をサンクチュアリの持ち手部分で受け止めるが老騎士から蹴りが飛んでくる。


 その蹴りは胴体へとしっかり入れられ吹き飛び地面をごろごろと転がってしまい身体は砂埃まみれだ。


 体勢を直し胴体に入れられた蹴りの痛みを我慢しつつ、コウは更にダグエルからの追撃を避けるため水球を3つ程連続でダグエルに向かって放つが長剣で全てを撃ち落とされ、その光景を見た観客からの歓声が盛り上がる。


(どんな曲芸だよ!)


 コウは次に氷壁を作り出すとそのままダグエルに向かって押し潰す様な形で倒れていく。


「上質な魔力で練られた素晴らしい魔法だが....はぁっ!」


 ダグエルは長剣に力を込め、縦に振るうと透明な斬撃が飛びスパッと氷壁が真っ二つに切れた。


 その間から隙を突く様にコウは飛び出し、長剣を振った直後のダグエルに向かってサンクチュアリを縦に振るう。


「甘いっ!」


 しかしダグエルは振り切った長剣の柄の部分でコウのサンクチュアリを弾き、軌道をずらされ地面へと刺さると同時に地面へと刺さった。


 ただ追撃する様にサンクチュアリを軸にしてコウはダグエルに向かって蹴りを入れるがそれもしっかりと手ではたき落とされる。


 すぐにサンクチュアリをコウは地面から引き抜こうとするがダグエルがそれを見逃すわけもなく、引き抜いた瞬間にサンクチュアリへ向かって長剣を振られると態勢が整っていなかった為に手からすっぽ抜けて弾き飛ばされてしまった。


「さぁ手元に武器はないぞ少年!」


 コウに向かって最後の追撃として長剣を横に振られるが収納の指輪の中にある筈の過去に盗賊達から奪った剣を一瞬で手元に出し、ダグエルの長剣を受け止めようとするが粗悪品のため受け止めた瞬間に剣をぽっきりと折られてしまう。


「なんと!」


 剣を折られた為に追撃が来るとコウは思ったがダグエルは剣を構えたままコウを見て少しだけ驚きの表情をしていた。


「最初は似ている指輪だと思ったが剣が一瞬で手元に出てくるのは収納の指輪か...?君はどこでそれを手に入れた?」


「これか?ハイドじゃなくて...父さんからの贈り物だ」


「ハイド君の息子か...しかし...いや目の前にいるから現実なのであろうな」


 コウは手を前に突き出し、指輪を見せながら誰に貰ったかを伝えるとどうやらダグエルはハイドの事を知っているようで驚いている。


「それにしても縁というものは面白いな...うむ、今日はいい出会いが会ったので満足した!審判すまないが私は棄権させてもらう」


「えっ?あっはい!2回戦4試合目ダグエル選手棄権のためコウ選手の勝利となります!」


 ダグエルは審判へ棄権するようにいうと審判は驚くがすぐに判定を言いコウの勝利となった。


 試合会場の観戦者も優勢だった筈なのに何故ダグエルが棄権するのかわけが分からず全員が頭にクエスチョンマークが付いているようだ。


「はぁ!?まだ全然戦ってないぞ!」


 コウはまだまだ戦い足りなかったのかダグエルへと文句を言うが帰る気満々なようだ。


「今日は満足したので帰らせてもらうぞコウ君!」


 すたすたと1人でダグエルは入場口まで歩き出てってしまったので試合会場では審判とコウがその場へと取り残される。


「どんだけ自己中なんだあの爺さん!」


 こうしてコウの叫びも虚しく試合には勝ったものの不完全燃焼のまま試合は終わったのであった...。




ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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