第42話

 数日前、小規模だが新たな盗賊団が小さな洞窟へと拠点を構えようとしていた。


「お頭ぁ!結構良さげな洞窟っすね!」


「おうよ最近俺ら以外の盗賊が使ってたらしいがもう一度別の盗賊が使うと思わないだろ」


 こうして小さな盗賊団の物資がどんどん洞窟の中へと積み込まれていく。


 だが盗賊達は知らなかったのだ...洞窟の中には既に新たな捕食者が棲み着いていることを...。


 コウとフェニは新たに盗賊が住み着いたという洞窟の近くへと来ていた。


「まさかここにまた来るとはな...まぁ戦う必要もないし良いんだが」


「キュイ?」


「いや何でも無い。ただの独り言だ」


 フェニは大きくなったせいかコウの外套の中に入れないためコウの左肩へと止まっている。


「じゃあまずフェニには偵察に向かってもらってもいいか?上空から洞窟の周りに人がいるかどうか確認してきてくれ」


「キュイ!」


 コウはフェニに少しだが戦闘や偵察など慣れさせるべく指示してみるとやる気のある返事を見せ、洞窟方面へと飛んでいく。


 フェニとしても初のコウから頼まれた仕事なので張り切っているようだ。


「まぁこの辺りは空を飛ぶ魔物も居ないことはわかってるし大丈夫か」


 コウとしてはこの辺りに空を飛ぶ様な魔物が存在すればフェニを偵察として出すことはなかっただろう。


 フェニが偵察から帰ってくるまで多少時間がかかるため近くにある木に腰を下ろし戻ってくるのを暫く待っていると上空からバサバサと鳥が羽ばたくような音が聞こえてきたため空を見上げた。

 

 羽ばたくような音の張本人は勿論フェニであり、偵察が終わって戻ってきた様だ。


「おかえりフェニどうだった?誰か居たか?居たなら左肩にでも乗ってくれ」


 戻ってきたフェニを腕で受け止め偵察の成果を聞くが左肩に乗らずそのまま腕に乗った状態だった。


「誰も居なかったのか?う~ん...洞窟で休憩してるのかもしれんな慎重に行くか」


 洞窟の周囲に見張りがないのは少々違和感を感じる。


 普通ならどんな小規模な盗賊団でも見張りの1人ぐらいは居るものなのだ。


 見張りが居ないのならば既に洞窟から別の場所へ移動し拠点を構えているか若しくは既にコウの存在に気づいており、待ち伏せをしているかもしれない。


 コウは慎重に洞窟の近くにある岩場へ移動し入り口を遠くから確認するがやはり見張りをしているような盗賊は見当たらないので以前使った"濃霧"を使うことを決めた。


 魔力を周囲に流し霧へと変えていき、洞窟の周囲は深い霧に包まれていく。


 洞窟の中へと霧がどんどん流れ込みコウは洞窟内を確認するが人の動く反応はなく盗賊の1人も見つからず疑問に思う。


(おかしい...なんで誰も居ないんだ?バレたから移動したのか?とりあえず洞窟内に入らないとわからないな)


 とりあえず洞窟内へとコウは入ることを決め洞窟の入口へと歩き近づいていく。


「本当に誰も居ないんだな...とりあえず盗賊の痕跡でも確認できれば良いんだがなぁ」


 コウとフェニは洞窟の中へと入っていくが光がないため、壁伝いに歩き前へと進み二手に分かれる分かれ道の場所までたどり着いた。


 前回、左の道の奥に盗賊は居たため同じように左の道へと歩いていくが一向に盗賊の声や物音は聞こえない。


 トラップなども仕掛けておらず無事に奥のそこそこに広い空間へとたどり着き見渡すと壁から光が発しており、外にいる時と同じぐらいの明るさで洞窟内は照らされていた。


「洞窟の中なのに明るい...この光っている壁どうなってるんだ?」


 コウは知らないがこの壁は"魔光石"というものであり、主にダンジョンなどに生成される壁になる石だ。


 基本的に採取すると光は失われただの石になってしまうので研究者からは光が失われない採取方法を今も研究されているらしい。


「それにしても盗賊はやっぱりいないな...ただ物資が置いてあるしどこかに行っているのか...?」


 コウは盗賊はどこかへ行って商人などを襲っているのではと考えているとコウの頭に水の様な液体が一粒降ってくる。


「ん?なんだ?」


 上を見上げると巨大な水の塊のようなものが壁に張り付いており、ズリズリと天井を這っていた。


 そして動きが止まったと思ったら天井の水の塊がコウの目の前へと降ってくる。


 水の塊の中心部に目玉みたいなものがあり、こちらをじっと見つめてくると同時に触手をコウに伸ばしてきた。


「ちっ!なるほどな!このスライムが原因で盗賊はいなくなったのか!というか濃霧でも存在がわからなかったぞ!」


 スライムとは一般的に森の掃除屋と言われている。


 動物や魔物の死骸、ゴミなどを食い尽くし下水処理などにも使われている魔物だ。

 

 基本的にスライムは人や生き物は襲わないのだが、今回のスライムは異常種のようであり、大きさも一般的なスライムとは違いかなり大きくなっている。


 コウは伸ばしてきた触手をサンクチュアリで切り飛ばすと地面に落ちた触手の塊が巨大なスライムの元へとズリズリと這いずり吸収されスライムは再度触手を生やす。


 まだまだスライムはやる気満々のようでコウを捕食の対象として見ているようだ。


「再生持ちとは厄介だな...フェニ!とりあえず外に出るぞここは狭くて不利だ!」


 コウはフェニとともに不利な狭い洞窟内から出るべく元の道を走り移動するのであった...。




ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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