第39話

「コウと言う少年はいるかしら?」


 コウがDランクへ昇格した次の日とある人物が冒険者ギルドへ訪れていた。


 その人物とは前回コウとギルドの裏の部屋で話をしていた白薔薇騎士団の1番隊隊長のエリスである。


「コウさんならまだ来ていませんよ。何か用件があるならお伝えしておきますが...」


「いやそのうち来るでしょ?待たせてもらうわ」


 サーラはエリスがコウに用があるなら伝えようかとどうか聞いてみるもばっさりと断られてしまう。


 コウにとっては碌でもないことの可能性が高いため、サーラは少し不憫に思うが、出来ることはないので、諦めて通常業務に戻ることにした。


 そして暫く時間が立ち、冒険者ギルドの外から1人の青髪を持つ少年が入ってきて掲示板の前に立つと、いつも通り貼られた依頼をチェックしだす。


 勿論ギルドに入ってきたのはコウであり、エリスは待ちわびたようにコウへと近づいていった。


「やっと来たわね」


「ん?えっーと誰だったか...」


 コウはエリスの事を一切覚えておらず、エリスは少しだけ引きつってしまうが、子供の戯言だと思いグッとこらえ我慢する。


「この前も名乗ったと思うけれどもエリスよ。覚えてないかしら?」


 コウは頭の中でグルグルと記憶を辿ると、この前ゴブリンの時に多少絡まれ、更にはギルドの裏の部屋で話をしたことを思い出す。


「あー思い出した。それで俺にまた何の用なんだ?」


 何だか碌でもないことではないのだろうか?とコウは思いつつ、エリスの要件を聞き出すことにした。


「私のところの団長が貴方のことを気になってるみたいなのよね。しかも新人がゴブリンロードを倒したってことについて...」


 白薔薇騎士団の団長がわざわざコウに興味を持っているというのは驚きである。


 というかコウのやったことがどこまで話がいってるのかがわからないが、色々と高ランク冒険者達の噂の種にはなっているようだ。


「でも私は貴方が弱ったゴブリンロードを偶々倒せたってだけだと思ってるから模擬戦でもして貴方の実力を把握しておこうかなって思ってここにいるのよ」


 どうやらコウと模擬戦をわざわざしに来たようでやはり碌でもないことだと思い、コウはため息をつくしかなかった。


「どうせ模擬戦をやらないと帰らないんだろ?」


「あら?わかってるじゃないの。じゃあ早速ギルドの裏に模擬戦できる場所があるから移動するわよ」


 諦めたように質問すると当たり前のように拒否権はなく、そのままギルドの裏にある訓練場へと連れて行かれる。


 ギルドの裏にある訓練場に着くと様々な人が刃の潰された鉄の模擬剣で模擬戦をしていたり、弓の練習や魔法の練習をしていたりする。


「結構広いし多くの人が練習とかしに来ているんだな」


 広さで言えば学校のグラウンドの半分ぐらいの広さと言うと想像しやすいだろうか。


「さぁやるわよ。そこのあなたは開始の合図をしなさい」


 刃の潰れた模擬剣をエリスはコウの目の前に投げ、近くで素振りをしていた冒険者に合図をするように命令口調で話しかける。


「可哀想に...」


 コウは地面に刺さった模擬剣を抜きながら素振りをしていた冒険者に哀れみの視線を送った後に少しだけ距離を取って模擬剣を構える。


 エリスも少し距離を取ってから模擬剣を構えて素振りをしていた冒険者の合図をお互いに待つ。


 そして試合開始の合図として手が振り下ろされた瞬間にお互いに前へ動き出し剣と剣が交差し鉄がぶつかり合う重い音が響く。


(前に戦った盗賊の剣よりは軽いな。そういえばこのエリスとかいうこの女のランクいくつなのだろうか)


 初撃を受けたのだが、前回戦った盗賊より剣の振る速さではエリスのが早い。しかし一撃の重さはそこまでなくすんなりと受け止められた。


「中々やるじゃない!新人で私の剣を受け止められる人はいないわよ!」


 そのまま話しながら連続で斬りかかってくるが、全て受け止めたり受け流したりを繰り返す。


「よく喋る女だ!舌を噛むぞ!」


 何度か打ち合っていると、周囲にはいつの間にかギャラリーが多く出来ており、コウとエリスの模擬戦を見ていた。


「っ...!新人のくせにまだ打ち合えるのね!」


 どうやらエリスの剣の振る速度はこれが限界のようで焦りを感じているようだ。


 コウも段々と目が慣れてきたのか足元を動かさずエリスの剣を捌いていた。


「もう!なんなの余裕そうな顔して!いいわ...本気を出してあげる」


 エリスはコウから離れ模擬剣を地面に刺すと模擬剣にバチバチと電気のような物が走り出し電気が走っている模擬剣をエリスが手に取ろうとする。


「エリス!」


 すると急に後ろから大きな声で静止する声が聞こえてエリスの手がビクリと動き手が止まる。


「全く...何をしているんだお前は...」


 大勢のギャラリーの中から1人の女性が現れこちらに歩いてくる。


 見た目は短髪の黒髪で顔がかなり整った美人であり、何より特徴的なのが背中に大きな盾を背負っていた。


「副団長...」


 エリスは現れた女性を副団長と呼んでおり、同じ白薔薇騎士団の関係者だと予想できる。


「エリスお前は戻れ。そこの新人は済まなかったなうちの団員が迷惑をかけた」


 エリスは言われたとおり訓練場から出ていき、新しく現れた女性に頭を下げられる。


「いやまぁそれは良いんだが...というかあんたは誰だ?」


「あぁすまない私の名前はジュディという者だ。一応白薔薇騎士団の副団長をしている」


 女性の名前はジュディと言ってやはり白薔薇騎士団の人間であった。


 しかも副団長というのだから実質No.2の存在がわざわざ謝りに来たのだ。


「取り敢えずまた絡んでこないようにあの狂犬には首輪でも付けといてくれ...」


「本当に済まなかったエリスも悪い子ではないんだが如何せんあいつは暴走する癖があるんだ。しっかりと注意しておくよ。では少年また会おう」


 そう言いながらジュディはギャラリーを間を抜けて去っていく。


 ただまた会おうと言われてもそんなコネも何もないので、もう会う機会はないだろうか。


「なんなんだ...今日は...」


 それにしてもまだ昼前ではあるのだが、既に1日分の疲労感を感じ、今日はギルドに来るべきではなかったと悟る。


 そしてコウはギルドの掲示板まで移動し依頼を見るが、模擬戦をした後ということで既に美味しそうな依頼は根こそぎ取られてしまっており、何だか踏んだり蹴ったりな1日を過ごしたと思いながら足重く宿へと帰るのであった...。




ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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