第37話

 氷のドームの中からガキィン!と硬い鉄の様な物をぶつけ合う大きな音が聴こえ周囲に鳴り響く。


 音の正体はコウと盗賊の頭目の闘っている音であった。


 氷のドームの中にいるコウと盗賊の頭目は実力が拮抗しているため中々お互いに戦いの勝敗を決めきれずにいたが時間が経つにつれて少しづつコウが押し始めた。


(本当に何なんだこのガキは...!疲れねぇどころか更に動きが良くなってやがる!)


 盗賊の頭目は息が少し切れはじめ疲れが見えてくるのに対してコウは汗や息切れなどは一切見られない。


「ぐぉっ!」


 遂に拮抗していた戦いが崩れはじめコウの横薙ぎの一閃により盗賊の頭目は少し後ろへ仰反る。


 盗賊の頭目も追撃を避けるため後ろへ下がりコウから距離を取り息を整える。


「...一ついいか?お前は今まで盗賊として何をしてきた?」


 コウは盗賊の頭目に質問を問いかける。


 盗賊とて自身と同じ人間だ。

 

 もし今まで盗賊の生きてきたとして仕方無しに悪行を積むしかなかったとしたら多少の温情として殺しはせずともギルドへ突き出せば犯罪奴隷となり、罪を償わせようとコウは戦いの最中に考えていた。


「はぁ?何をしてきただ?商人やそこら辺のカスの冒険者を殺して金を奪ったな。女を犯すのも最高だったなぁ」


 コウはその返答を聞き少し残念そうに目を瞑る。


「あとはオメェみてぇな男のガキを殺すのもよかったぜ。ママァ〜パパァ〜ってな!」


 盗賊の頭目は思い出す様にニタリと顔を歪ませ思い出に浸っており、盗賊の頭目にとってはいい思い出なのだろう。


「そうか...もういい黙れ」


 多少の温情を与えようと思ったが盗賊はやはり盗賊として屑である事を理解した。


 コウは盗賊の頭目の話は聞くに堪えないのか一言盗賊に伝え自身の胸の奥底から怒りがふつふつと湧き出てくるのが分かる。


「お前をこれ以上生かしておくのは良くない様だ」


 この目の前の男を野放しにしておけば更に善良な市民などが食い物にされるのだろうとコウは思う。


「てめぇに何ができる!?お前が死ぬんだよ!」


 余裕そうにコウは自身を殺せると言い放ったため盗賊の頭目が叫びながらコウへ一気に近付き大剣を光に向かって振り下ろす。


「もうお前の剣には慣れた」


 しかしコウに振り下ろされた大剣は軽々とコウに弾き飛ばされ盗賊の頭目は大きく仰反りバランスを崩し更に剣を持っていた腕をコウに斬られる。


「ぎゃああぁぁぁぁぁああっ!俺の腕がぁ!」


 腕を斬られたためか盗賊の頭目は大きな声を上げ苦悶に満ちた表情をし腕からは血飛沫が出て地面を赤く染める。


 更にコウは盗賊の頭目へと追撃をするために斧槍を持ち直す。


「や...やめ...!」


 盗賊の頭目が残った腕一本を前に出しやめろと言いかけるがコウは制止を聞かず振り下ろしもう一本の腕を切り落とす。


「があぁぁぁぁぁああっ!」


 腕を両方無くし盗賊の頭目は必死に痛みを堪え頭を地面に押し付け救いをコウに求める。


「もうやめてくれぇ!頼むぅ!」


 コウは今までやってきた事を忘れた様に救いを求める盗賊の頭目を見て小さな溜息をつく。


「お前は今までの人達に助けてやめてと言われてやめたのか?」


 その一言に盗賊は絶望した顔になり、既に救いがないことを知る。


 今までしてきたことを考えると仕方ないことで自業自得ということになるだろうか。


「じゃあな。お前が今までしたことを悔いて死ね」


 コウは絶望した表情の盗賊の頭目の首を切り飛ばすと氷のドームがガラガラと崩れていき氷は溶け周囲の地面は水浸しになる。


「お頭が負けた!全員逃げるぞ!」


 周囲にいた盗賊たちは自身の頭目がやられたのを見て逃げ出そうとしており、1人でも生き残れるように全員がバラバラの方向へと逃げようとする。


「俺が残りも逃がすと思うか?」


 しかし残りの盗賊達も同罪ということでコウは元から逃すつもりもないため水浸しになった地面を凍らせる。


 盗賊達も足の裏が凍り付いたので靴を脱いで逃げようとするが脛辺りまで一気に凍っていくため完全に逃げることが不可能になってしまう。


「大丈夫だ。一瞬で地獄に送ってやる」


 この後、盗賊達の断末魔が周囲に響き渡るがすぐに断末魔は聞こえなくなり、1つの小さな盗賊団は1人の少年の冒険者によって消えたのであった...。




ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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