第35話
コウとフェニは東門からローランの街の外へと出ていた。
今回の昇格試験は盗賊を討伐する事なのだが、正直コウは気が進まなかった。
最近になってゴブリンを数多く殺し魔物を殺すことに慣れてきたのだが、今回は自分と同じ人を殺すのである。
自身が初めて人を殺したのはハイドと生活していた時なのだが、あの時に人を殺した感覚は最悪だったのを思い出す。
「はぁ...昇格試験を受けると言ったがあんまり気が進まないな...」
コウはボヤきながらも盗賊の根城があるという場所へ重い足取りで歩いていた。
フェニが元気を出してと言わんばかりに顔に羽を擦り付けており、そんなフェニを見てると気分が多少なりとも晴れマシになる。
そうこう言っているうちに既に周囲は岩場に囲まれており、サーラに聞いていた盗賊の根城にしている場所の辺りまで来ていた。
近くに火を焚いた形跡がありまだ火種が燻っていた為、先程まで誰かがここに居たのだろう。
小さい荷物が岩場の横に立て掛けてあるのでもしかしたら盗賊であり、そいつがまた荷物を取りに帰ってくるのではとコウは予想する。
暫く岩陰から待っていると何処からともなく小汚いヒョロヒョロとした男が荷物を取りに戻ってきた様で周囲を警戒しつつ何回も見渡しながら大事そうに荷物を抱え出す。
「どっからどうみても盗賊しか見えん...まぁ後ろからついていっていけば何者か分かるだろ」
その男にバレないように少し離れ岩場を死角にしながら後ろをついていくと大きな洞窟の入り口が目の前に見えてくる。
大きな洞窟の入り口には2人程見張りの男がおり、どうやら尾行していた男と話だしコウは気になったため聞き耳を少し立てると会話が薄っすらと聞こえてくる。
「この間の襲った商人の荷運びご苦労さん」
「あぁでもしょっぱいよなぁ...この前の商人はそこまで金も何もなかったしよぉ...」
「確かにな...女を連れてるわけでもねぇし最近お頭が女に飢えてるから荒れてるんだよな」
「まっ...しゃーねなあの商人はまだ成り立てぽかったしな」
どうやら商人を襲った荷物を運んでるらしい。
また商人を殺したという話も聞けたため盗賊だと確定した瞬間でもあった。
(まぁ結構早めに見つけられてラッキーではあるがこいつらは屑だな...)
まさかこんなに早く見つかるとは思ってもいなかったためこれは運がいいとも言える。
ただ現状見えているのは荷運びの男1名と見張り2名だ。
洞窟の奥に何人存在するのかわからないため無闇に洞窟へ特攻しても中の地形も人数もわからず確実に不利な状況になるだろう。
(そういえばハイドと最後に模擬戦した時、霧でハイドの位置を確認とかしてたし"濃霧"を使うか)
コウは思い出すように周囲に魔力を出し広げていく。
「濃霧」
コウが呟くと足元から霧が発生し洞窟の周囲に霧がかかっていき、洞窟の中にも白い霧がどんどん入り込んでいく。
「ん...?珍しく霧が出てきたな。早めに洞窟に戻るわ」
荷物を持っていた男は疑問を持たず霧が出てきたためすぐに洞窟内へと入っていく。
コウは魔法で出した霧の操作に集中し洞窟の地形と人数を頭の中で把握する。
(...人数はそこまで多くないな外の見張り2名と洞窟内は5人か)
特に洞窟内へと魔法を使っても動きはなくどうやらゆっくりしているようだ。
(まぁ洞窟内はそこまで広くないし問題なさそうだな。取り敢えず見張りをやるか...)
コウは霧の魔法を出したまま別の魔法を唱える。
「氷槍二連」
霧に紛れ鋭い氷の槍が空中に浮かび上がり見張りの盗賊の胴体へと真っ直ぐ飛んでいく。
見張りの2人は視界が悪いため気が抜けており、氷の槍に気づかずそのまま飛んできた氷の槍に胴体を貫かれ何が起きたのかわからず驚きの表情のまま意識を失い死んでいく。
それもそうだろういきなり霧の中から氷の槍が自身に飛んでくるのだ。
「...魔法を使ったとしてもあんまり気分は良くないな」
サンクチュアリなど自分の手で肉を裂く感覚や骨を砕く感覚を味わうよりはマシだがあまり気分のいいものではない。
コウは苦虫を噛み潰したような顔をして洞窟内に居るはずの残りの盗賊を討伐するために入っていくのであった...。
ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m
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