第32話

 コウは現在上流にあるというゴブリンの棲み家へと向かって走っていた。

 

 フェニは既に外套の中へと隠れており、胸の中でもぞもぞと動いている。

 

 男からは上流にあるとは聞いていたが実際の場所は聞いていなかったためとりあえずは川沿いをずっと進んでいると川沿いの横に洞窟が見えてきた。


 洞窟の周辺にはゴブリンの死骸が沢山あり、血や死臭などの不快な匂いを撒き散らしている。


「ここがゴブリンの巣かな?」


 血や死臭の匂いがきついため顔が歪むが大量の死骸が洞窟へと続いているため間違いないとコウは確信する。


 足元にある大量の死骸を避けながらコウは洞窟の中へと入ると案外広い空間となっていて壁は謎の石で周囲は明るく照らされており、奥からはガンガンと何か物をぶつけ合う音が聞こえてくる。


 その音はほぼ確実にCランクパーティが戦っている音だろうとコウは思い音の聞こえる奥へと急いで進む。


 奥までたどり着くと壁に男2人が倒れ込んでおり、もう1人の男は普段と見た目の全く違う2m程の大きさのゴブリンと戦っていた。


 壁に倒れ込んでいる者は息はしているみたいだが、かなり血を流しているためこのまま放置するのは良くないだろう。


 すぐにコウは収納の指輪の中にあるポーションを出し倒れ込んでいる者へと投げ傷がみるみる塞がっていき血の流れが止まる。


 とはいえ流れてしまった血までは癒せないので当分は動けないだろう。


「ぐぁっ!」


 もう1人の戦っていた男がこちらの近くにある壁まで吹き飛ばされて意識を失うとコウは吹き飛ばされてきた男にもポーションを振りかけ傷を癒やす。


「マタ イッピキ フエタナ」


 目の前にいる巨大なゴブリンが人語を発しコウは驚く。


「おぉ上位種になると喋れるやつがいるのかそれともゴブリンだけなのか?」


 コウはすぐにブレスレットへと魔力を流しサンクチュアリを元の姿に戻すと構え、いつでもゴブリンが襲ってきても大丈夫なように戦闘準備をする。


「まぁ何でも良いか...取り敢えず目の前のゴブリンを殺すとしよう」


「ニンゲン ガッ チョウシ ノルナ!」


 目の前の巨大なゴブリンが吠えた瞬間走り出してくると同時にコウは一瞬で周囲に氷の槍を8本展開しゴブリンへと放つ。


 放たれた氷の槍を巨大なゴブリンは1本ずつ棍棒で撃ち落としつつこちらに前進してくる。


「驚いたな。ゴブリンも曲芸みたいなこともできるもんだな」


 全て撃ち落とした後に巨大なゴブリンの棍棒がコウへと振り落とされるがサンクチュアリで難なく受け止める。


 ゴブリンもまさか受け止められるとは思っていなかったようで少し動揺したがすぐに気を引き締め更に力を込めてきた。


「はぁっ!」


 コウは押し返すように思いっきり力を込めると巨大なゴブリンは後ろへと吹き飛ばされるが棍棒を地面に刺してブレーキ代わりに勢いを押し殺す。


「ドウホウヨ!アツマレ!」


 巨大なゴブリンは大きな声を出すと近くにある穴からゴブリン達が出てきて弓や剣などを装備しているのが見える。


 20匹程巨大なゴブリンの周囲を囲み10匹は前衛、10匹は後衛と別れているようだ。


 目の前の巨大なゴブリンが合図を出すと同時に弓矢と前衛のゴブリンが向かってくる。


「力で敵わないなら今度は数か...まぁいいか」


 コウは目の前に水の壁を出しまず最初に弓矢を防ぐ。


 防いだ後はそのまま氷壁を水に戻して目の前にいる巨大なゴブリンの足元まで地面を水で満たす。


 巨大なゴブリンはびくともしていないが他の呼び出したゴブリンは全て壁際まで押し流されてしまう。


「凍れ」


 コウが一言呟いた瞬間に押し流された水が一瞬で氷になり、巨大なゴブリンの足元や押し流されたゴブリンが凍りつく。


 巨大なゴブリンは足元が凍ったせいかうまく動けず困惑し、他のゴブリン達に至っては凍って絶命している。


「ナンダ コレハ ウゴケナイ!」


「終わりだ!」


 動揺している巨大なゴブリンへコウは近づき首元に横薙ぎの一閃を繰り出すと巨大なゴブリンの首から頭が跳ね跳び血が壊れた蛇口のように吹き出す。


「ふ~...終わりか...増援のゴブリンが少なくて助かったな。これがもっと多くのゴブリンだったら流石に無理だ」


 実際増援は20匹程度だったが本来ならもっと数が多く出てくるのだが、今回はCランクパーティが雑魚を先に処理していたことやゴブリンの苗床となる存在が居なかったため数も多くなかったのだろう。


 奥に続く道があり、進んでいくと1匹の腹が丸くなったゴブリンが奥に居た。


「なるほど...ゴブリンのメスか...こいつが居たから上位種が生まれたのか」


 メスのゴブリンはその場から動けないのか目を閉じ死を覚悟している。


 コウも無駄に苦しませる趣味はないので苦しまないように一瞬で首を跳ねメスのゴブリンを殺す。


「よしこれで全部終わったな」


 コウは巨大なゴブリンの場所へと戻ると先程、最後に倒れた男が目を覚ました。


「うっ...俺は...」


「目が覚めたか。取り敢えずゴブリンは全て倒したから安心していいぞ」


 コウは目の覚めた男にそういうと男の目が大きく開き周囲を見渡す。


「お前さん見たいな子供が倒したのか...?ゴブリンキングへの成りかけの奴を倒したってのか?」


「俺が倒した。子供で悪かったな」


 少し不満そうにコウは答えると男は不満そうなコウを見てニヤリと笑う。


「いや悪かったそれにしても規格外の存在ってのはお前さんみたいなのを言うんだな...取り敢えず助かったありがとう。残りの2人も助けてもらって悪いな」


「気にするなついでだ」


 そう言いながらコウと男はこの死骸が沢山ある空間で談笑しながら残りの2人が起きるのを待ちつつ、ギルドの応援を待つのであった...。



ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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