第31話

「ん〜今日は何をするかな〜依頼って気分じゃないし」


 コウとフェニは昼前ぐらいに街の真ん中をウィンドウショッピングがてらぶらつきながら歩いていた。


 昨日は荷物を運ぶだけの仕事であり、実際は収納の指輪を使用してすぐに終わる仕事だったのでそこまで疲れてはいないが今日はゆっくりしようと考えていた。


 ただ休むにしてもこの世界には娯楽は少なく平民達は酒を飲むか買い物するかするぐらいしかないだろう。


 正直、現状友達もいないコウは休みにしたところでフェニと遊ぶぐらいしか選択肢がない。


「フェニは今日どうしたい?」


 肩に止まっているフェニに聞くと翼を毛繕いしており、コウと一緒に行動出来るのならばなんでも良いようだ。


「そうだ街の外に行って散歩でもするか?」


 コウは自身の生活する場所の周辺ならばある程度、探索を済ましているので、まだ残り見ていない場所となれば他の地区やスラム街か街の外周辺となっている。


 ただ街の外にも近くに小さな森や川が流れている場所もあり、今日は気分転換にそこへ行ってゆっくりするのも良いだろうか。

 

 フェニに確認しながら聞いてみると賛成なのか羽を動かしてコウの顔へと擦り付けてくる。


「よし。たまには外でリフレッシュだな」


 そのまま正門へと歩いて行き、手早く手続きを済ませて街の外へと繰り出すと昼前ぐらいのためか、かなり多くの人が街へ入るため行列が並んでいた。


 コウはその光景を見ると脳裏の記憶にフラッシュバックするよう日本に居た時もテレビで行列が並んでいる放送が流れていた事を思い出す。

 

 いつの時代、異なる場所でも行列は似たようなものだなぁとしみじみ思う。


 この世界に来た最初の頃は前の世界に帰りたい気持ちでいっぱいだったが、今となっては帰りたい気持ちも何故か薄れてかけてはいる。


 ただ唯一心配というか心残りなのは元の世界に残していった家族達の事だろう。


 それなりに幸せな家庭を送り、愛をもらいながら成長していったコウが煙のように消えていってしまっため、きっと心配で夜も眠れずに草の根をかき分けてでも探しているに違いない。


 元気に生きていることをこの世界から伝えられないのは少し残念に思ってしまう。


「まぁどうしようもないんだが...」


 そんなことを思いつつ、王都から出て道なりに進むと右手には高く積み上げられた土手があり、そこを上っていくとそれなりの大きい川が流れているのが見える。


 そして土手を下り、川岸から水を掬ってみると透明度が高く澄んだ綺麗な水のようだ。


 それもそうだ。この川には日本にいた時の様な排水などは流れておらず、そこまで大自然に人の手が入っていない状態で残されているからだ。


 よく見てみると川魚がゆらゆらと泳いでおり、まるまると肥えている姿を見ると昼前だからか少しだけ小腹が空く。


 そういえば昼飯をまだ食べていないことを思い出したコウは目の前の川魚を今日の昼飯にしてしまえば良いと思いついた。


 早速コウは水の中に手を入れ魔力を流して2、3匹泳いでいる川魚の周囲を魔力で包んでいき、そのまま魔力操作を行いながら水を空中に持ち上げて陸の方へ持ってくるとい川魚が取れてしまった。


「今日の昼飯ゲットだな。魚なんて久しく食べてないし美味しそうだ」


 ここ最近は肉ぐらいしか食べていなかったため久々に魚を食べられることに感動を覚える。


 王都ならば海が近いので鮮度の良い魚は食べられるがローランでは海から多少離れているために塩漬けされた魚ぐらいしか売っていないので中々食べれる機会は少ない。


 フェニにとっては今まで果実ぐらいしか食べてこなかったので今回初めての魚になるだろうか。


 コウはすぐにエラの部分にミスリルのナイフを差し込むと、エラを断ち切って次に血抜きを早めるために尻尾の部分も半分ほど切れ込みを入れる。


 そしてそのまま川の中へと突っ込むと澄んでいた川の水に赤い血が流れていく。


 数分もすると血が抜けきった為、元々入っていた薪を収納の指輪から出して効率の悪い火の魔法を使い準備をしつつ、コウは塩が入った小瓶を取り出す。


 血抜きが終わった川魚の内臓をナイフで取り出し血合いを取った後、塩を軽く振りかけて近くに生えている木の枝を折り、魔法で作り出した水で洗うと魚を枝に刺してパチパチと鳴っている火の側まで持っていく。


 残りの川魚も同じ手順で調理し、火を囲むように3匹のまるまると肥えた川魚がじゅうじゅうと油を垂らしながら焼けていた。


「美味そうだ...」


 暫くすると焼き魚の香りがふわりと鼻の間を通るので食欲がかなりそそられ、フェニもずっと焼いている川魚をジッと見つめて早く焼けないかなと思っているようだ。


「そろそろいいかな...?」


 コウは川魚を手に取り思いっきり齧り付いてみると丁度良い焼き加減で塩の塩梅も丁度良かったのか、かなり美味しく出来上がった。


 フェニの為に焼けている川魚を軽くほぐしてから木の器にのせ、地面に置くと早く食べたかったのか直ぐに啄みだした。


「最高に美味いな!何匹でもいけそうな気がする」


 自身で獲って焼いたため補正もあるだろうが、かなり満足な出来になっており、フェニも美味しそう焼いた川魚を食べている。


 ここまで美味しいと乱獲して収納の指輪の中に保存したくなるが川を見る限り、もうこの場所には泳いでないためまた取ればいいかと思いつつ、取り敢えずは目の前の焼けた川魚に集中する。


「ふ~...美味しかったな~フェニも美味しかったか?」


 草むらが生い茂る土手で自然なクッションの上に寝そべりながら隣にうずくまっているフェニに話しかけると「ピィ!」と大きな声で鳴き、返事を返してくる。


 暫く土手で寝ながらゆっくりしているとローラン以外の方向から金属を擦り合わせるようなガチャガチャとする音が聞こえてきた。


 コウは気になったので身体を起こして土手を上ると1人の男が腕を怪我しているのか抑えながら急いでローランへ向かっているのが見えた。


「おい。おっさんどうしたんだ?」


「はぁ...はぁ...俺は仲間と共にジェネラルゴブリンがいる可能性があると言われてギルドから依頼を受けたんだ!」


 どうやら先日、サーラがゴブリンの件で副ギルド長に話した際にCランクで十分だと判断されて依頼されたパーティのようである。


「そして川の上流にある洞窟にいるのを見つけて戦ったんだがそいつはえらく強いゴブリンロードだったんだ!」


 ゴブリンキングではなく、ゴブリンロードなら確かにCランク冒険者達でも対応できただろうが今回の相手はどうやらいつもと様子が違うらしい。


 「そんで仲間が食い止めているうちに俺が街のギルドまで応援を呼ぼうと走ってるんだ!すまねぇが後でな坊主!」


 サーラの言う通りBランク冒険者に依頼でもしておけばこんなことは起きなかっただろう。


 とはいえ今回の件については副ギルド長に責任がいくはずだ。


 目の前の男はかなり急いでいるのか事情を早口で説明してからすぐにまたガチャガチャと音を鳴らしながらコウを置いてローランの方へと走っていく。


(そんなに強いのか...でもCランクに上がる予定だったやつ弱かったしなぁ...)


 コウはつい最近、冒険者ギルドで受付をしている時にCランク予定の冒険者から絡まれて一蹴したことを思い出すと同時にもしかしたら今回のゴブリンなら自身で倒せるのではないかと興味を持つ。


「フェニ!今からゴブリンなんちゃらを倒しに行くぞ!」


「キュイ?」


「ちょっと自分の力を知りたくなったんだ。やばくなったら今いる奴らと協力して逃げればいいだろ」


 今まで自分がどれくらいの強さなのか把握できずにいたので今回のゴブリンロードならある程度自身の力を図ることが出来るのではないかと思ったコウは自身の力を知るためにゴブリンの棲み家となる川の上流へと向かうのであった...。



ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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