第18話

 時は流れコウが旅立つ昼前ぐらいの時間になった。


 太陽は空の真上に位置し、天候は良く旅立ちの日としては上々だろう。


 コウは普段食事をする場所に呼ばれハイドを待っており、少しするとハイドが手に色々と物を持ってやってくる。


「コウが旅立つから餞別に魔道具を渡すよ」


 ハイドは机の上に3つほど机の上に置いていく。


 1つ目は収納の指輪、2つ目が群青色の外套、3つ目がランタン。


「その指輪って収納の指輪だろ?いいのか?」


 この収納の指輪自体かなり高価なものとハイドから聞いており、中々手に入らないものでもある。


 まさか貰えると思っていなかっため驚きながら聞く。


「なかなか手に入らないものだけど私にはもう必要ないしね。まぁ収納の袋持ってるしコウは私より魔力が多いから有用に使ってくれるだろ?」


 前に一度説明されたが収納の指輪は嵌めた者の魔力に比例して収納容量が増えていく。


 また使用者は現在ハイドとなっているがある手順を踏めば使用者を変更することもできる。


 収納の袋は自身の魔力は関係なく固定された収納容量だ。


 ハイドの魔力的に容量が収納の袋と同じぐらいになってしまうためどちらでもよいのであろう。


「じゃあ次だね。この外套は魔力を込めると認識阻害や空調、自己修復、耐熱耐寒、機能を持っている外套なんだが魔力の消費量がそれなりだから気をつけてね。あとはそこら辺の金属よりは圧倒的に固いから防具としても完璧だよ」


 実際に着て魔力を込めてみるがコウにとっては気にならない程度の消費量だっためかなり良い物を貰ったなと思う。


「3つ目がランタンだね。このランタンは下に開く部分があるからそこに魔石を入れると光るようになっている。あとは虫除けや入れた魔石のランクに応じて魔物避けになったり点灯時間が伸びたりする便利な物だよ」


 これもまたかなり便利な物であり、野営の時に普通は光を使用している際、魔物が襲って来る可能性があるため見張りをしないといけないのだが、このランタンを使えば嵌め込んだ魔石のランクに応じて結界が張られ、周囲の魔物には強い魔物がいると錯覚させることが出来る。


 そのためランクの高い魔石を使えば魔物は基本的に寄り付かなくなるので見張りなどの必要がなくなるのだ。


 ただし使用する場所の生息している魔物以下の魔石を使ってしまうと自身よりも弱いと錯覚して寄ってくる可能性もあり、逆効果になってしまうため注意したほうがいいとのこと。


「色々くれるんだなどれも高そうな物ばかりだし」


 実際はどれも高いどころか売れば平民レベルの生活ならば一生を暮らしていける程の物だ。


 ダンジョン産であり、なかなか手に入らない物でもあるから高額になるのも仕方がない。


 多くの冒険者にしてみれば涎を垂らし喉から手が出る程に欲しがる物だろう。


「可愛い子の旅立ちだからね。それぐらいはするさ」


 これではまるで可愛い愛娘が初めて海外旅行へ行く際の心配性なお父さんである。


「さぁ指輪の使用者の変更をしようか。まず指輪を付けて付けた指を前に出してくれるかい?」


 コウは指輪を付け指をハイドに向かって差し出す。


「よしよし。今度は私がコウの指先から魔力を指輪まで流すから動かないでね」


 そういいながら某映画のような感じでコウの指先にハイドの指先を付け魔力をゆっくりと流して来る。


 その魔力は暖かく心地の良いものであり、記憶には無いが何故か懐かしさを感じるものもあった。


「指輪まで魔力を流したから今度はこの状態のままコウも指輪に向かって魔力を流してくれるかい?繊細な操作だから頑張ってね」


 コウは指先に集中し魔力を指輪まで流すと指輪が光り出しコウの魔力が吸われていく。


「はいこれで引き継ぎは大丈夫だね。指輪に集中すると何が入っているか頭に浮かんでくるだろう?大体必要な物は入れといたんだ」


 頭の中に食料やそれなりのお金、ポーション、水色の透き通った綺麗なナイフ、この家の場所がわかる磁石、いつも使っているトイレなどが入っているのが浮かんでくる。


 いつも使っているトイレがコウにとっては1番嬉しい物だろう。


 異世界とはいえ中世に近しいため本来は清潔なトイレは中々無く布などで拭く可能性があるのだ。


 コウはあまり汚いのは好きじゃないため1番嬉しいのであろう。


「頭がごちゃごちゃするな。でも助かるありがとう」


 色々と入っている物を確認しハイドに感謝の言葉を言う。


 まぁコウにとって1番嬉しかったのがトイレなのだが。


「気にしなくていいよ。そろそろ行くだろう?この森は危険だけど外套を使えば認識阻害のおかげでこの辺の魔物は気付かないと思うし真っ直ぐ行けば出られるはずだ」


 真っ直ぐ行くと言ってもコウの実力でも2日は掛かるけどねと笑いながらハイドは言う。


 2日掛かるならそれなりの距離なのだろうし森を出たとしても街へ行くまで更に時間が掛かるのがわかる。


「まぁなんとかなるだろ。じゃあそろそろ行く」


 ハイドに旅立つ事を告げ家を出て門前まで歩いていく。


 門の前に立つと門がギィッと音を立てて開いていき目の前には大森林が広がっていた。


「じゃあ気をつけてね。外は危険だし信頼出来る人を探すんだよ。体調にも気をつけてねしっかりご飯を食べるんだよ」


 まるで子供が1人で旅行に行く際に注意事項を色々とハイドは説明してきてかなり心配しているようだがコウの旅立つ事は止めることはしない。


 何故ならコウの意思を尊重しているのだから。


 ただコウはそんなあたふたして心配そうな表情をするハイドを見て少しだけ笑ってしまう。


「わかってるよ。行ってきます"お父さん"」


 そう言いながら外套に魔力を込め、恥ずかしさを隠すようにフードを深く被りながら目の前の森の中へ走り出していく。


 ハイドは見えなくなったコウに行ってらっしゃいコウと呟いて家の中に入っていく。


 家の中に入った後、自分の部屋に戻りベッドの上で横になるとハイドはコウに言われた事を何度も咀嚼するように思い出す。


「お父さんか...」


 コウに出会って約3ヶ月間で初めて言われなんとも言えない気持ちになってあまりの嬉しさに口元が緩みにやけニヤニヤとしてしまう。


 こんな姿をコウに見られたらなんと言われるか分からないぐらいだ。


「コウ...最後にお父さんと言ってくれてありがとうこれで自分の人生に悔いは無いさ」


 ハイドはコウを呼び出した時点でかなりの寿命を削ったが、今となってはかなり幸せだったと思い目を閉じる。


 もし自分が長生き出来たとしてコウがこの場所に戻って来た時は土産話やもしかしたらコウには良い仲間や恋人ができていたかもしれない。


 それを聞いたり見たりをできないのは残念だと感じるが致し方無いのである。


「生まれてきてくれてありがとう。自由にそして幸せに生きてくれ」


 コウには自由にそして幸せに生きて欲しいと願いながらハイドはベッドへ横になり意識を失っていく...もう2度と起きることのない深い眠りに...。




ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る