第17話

「まさかお願いが模擬戦だったとはね」


 ハイドは少し残念そうに頭を掻きながら言う。


 コウから初めてお願いがあると言われハイドは父としてある程度のことは願いを叶えるつもりだったのだが、しかし蓋を開ければただの模擬戦であった。


 そういった事もあって夕方頃2人は庭に出て模擬戦用の剣を持ち出し剣を構え向かい合っていた。


「当たり前だまだハイドに模擬戦で勝っていないからな。旅立つ前に勝って最後だけ勝ち逃げするぞ」


 コウは今までハイドに1勝もしておらずギリギリで勝てそうなときもあったのだが、今まで人生においての戦闘経験の差で負けてしまったこともある。


「まぁいいんだけどね。言っておくけどわざと負けたり手加減する気はないよっと!」


 ハイドはコウに向かって走り出し剣を縦に振る。


 ガキィン!と大きな音を鳴らしながらコウは難なくハイドの剣を受け止める。


 手が痺れそうな程の振動が手に伝わるがコウは今までで何度も打ち合ってきたので多少慣れてきた振動を気にせず剣を押し返しコウも剣を振るう。


 何度か打ち合った後コウは少し後ろに下がりハイドから距離を取る。


「埒が明かないな。新魔法を使ってみるか。濃霧!」


 コウは足元に魔力を溜めて魔法を唱えると足元から白い霧なような物が発生し周囲を包んでいく。


 一瞬で1mも先が見えないような深い霧に包まれハイドはその場から動かないようにし音に集中する。


「厄介な魔法だね。視界を潰すとは嫌な魔法を覚えたものだよ。まぁ音に集中すれば!」


 ハイドの後ろからコウが突然、霧を突き抜けてきて剣を振るうが上手く受け止められてしまう。


「やっぱ駄目か!」


 コウはそう言いながら剣を押し込もうとするがビクともしない。


「音があるからね。火球」


 ハイドは片手から火の球が打ち出されコウの腹に直撃しそうになるがギリギリ回避に間に合う。


 ハイドの火球を回避した後また策を練るためにコウは深い霧の中に逃げ紛れていく。


(音も聞かれるならばそれも潰せばいいだけだ!)


夕立ゆうだち


 コウが霧に紛れた後にどこからか魔法を唱える小さな声が聞こえると同時にポツポツと雨が降ってくる。


 30秒もするとかなり強い雨が降ってきて霧と重なり、周囲の視界と音を完全に遮断し、何処から奇襲するのかわからない状況へと変えた。


「音も雨でかき消されるのはちょっと困るかな」


 ハイドは苦笑いをしながらも剣を構え集中する。


 もう一度コウは後ろから奇襲するがギリギリハイドに剣を再度受け止められてしまう。


「悪いね完全に人読みだよ」


 コウはハイドにそう言われるが口元が笑っており勝利を確信するような表情をする。


「悪いなハイド俺の勝ちだ。氷縛」


 コウが魔法を唱えた瞬間にハイドの足先から凍っていき、下半身が氷に包まれる。


 ハイドは上手く足に力を入れられず剣を弾き飛ばされ首元に剣を突きつけられると両手を挙げて降参のポーズを取った。


「はぁ...参った降参だよ」


 降参の声とともに霧が晴れ雨も上がり氷漬けになっていた下半身も足先から氷が溶けてゆく。


「いや~まさか負けると思わなかったよ。というかあの魔法はなんだい?ズルじゃないかい?」


 霧が出て視界を奪われたと思ったら雨が降ってきて音も奪われ、更には剣を交えた瞬間に足先から氷に包まれるのだ。


「勝ち負けにズルもクソもあるか勝てばいいんだよ勝てば」


 初めてハイドから1勝を取れたため満足そうにコウはハイドに言う。


「まぁいいか...最後くらい負けてあげないとね」


 そんな負け惜しみを言いながらハイドは家に入っていきコウは外でハイドに初めて勝ったという愉悦感を感じ、ゆっくりしてから家の中に入っていったのであった...。



ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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