第10話

 男が外に買い出しに行き、コウが一人暮らしのような生活をして約3日が経過した。


 そして今日も既に太陽が東へ傾き、空を覆う黒い柵の隙間から見える空は茜色の空に変化しているのでいずれいつもの夜が近づいてくるだろう。


 もう少しであの男が帰ってくる...そんな事を思いながらコウは庭で魔法の鍛錬をしていた。

 

 この3日間コウがしていた事といえば遊べることもなく、暇すぎたため魔法の鍛錬をひたすら繰り返し、魔力が尽きては横に転がりをしていた。


 そのおかげで今では魔力をある程度まで操り、様々な形の水や氷へスムーズに変化させることが出来るようになっていたりする。


「魔法は色んな事ができて楽しいな」


 ということで、コウは手のひらに正六角形で出来た氷の彫刻を作ったり、作り出した物を浮かばせてくるくると回転させながら遊んだりと、男が帰ってくるまで時間を潰すことにした。


 また魔道具で生み出した十字架の形をした武器については一切触っておらず、これに関しては変な癖が付かないように男が帰ってきてから武器の使い方を教わればいいとコウは考えていた。


 そして魔法を使って色々な形の氷を作り出しながら遊んでいると庭の周りを囲っている黒い柵の一部がぐにゃりと曲がるのでなんだろうと見ていると黒い柵の奥にいたのは買い出しに行った男の姿があり、やっと帰ってきたのかと思いつつ近づいていく。


「帰ってきたのか。本当に3日丁度だったな」


「ただいま。やっと帰ってこれたよ...やっぱり我が家は安心するね」


 男は仕事帰りのサラリーマンの様に疲れ切った表情をしながら早歩きで家の前に向かい、ドアに手をかけるがこの男が手ぶらなのにコウは気づいた。


 この男は食料など生活に必要なもののため、買い出しのため外へ出ていたのだが、手には何も持っておらず家の中に入っていくので疑問を覚える。


「何も買ってこなかったのか?手ぶらのように見えるが」


 コウの疑問に男はなるほどと思ったのか疲れている筈なのにわざわざ手にある指輪を見せつけながら理解できるようにわかりやすく説明をしてくれた。


「あぁそれはこの指輪のおかげだよ。収納の指輪って言ってね。ある程度の物を収納できるんだよ。容量は本人の魔力量に応じて増えていく便利なものなんだ」


 この男は本当に色々と便利な魔道具を持っているなとコウは呆れてしまう。


 もしかしたら持ってないものはないんじゃないかと思うほどだ。


「とりあえず食料を入れたらちょっと仮眠させてもらうよ...。少し疲れてるんだ申し訳ないね。コウの武器の鑑定や模擬戦は明日にしよう」


 そんな事を言いながら指輪から次々と食料を出してはせっせとこの数日間で減った空に近しい保存庫に入れていく。


 コウもそこまで武器の鑑定や模擬戦については急いでいないため頷き、大丈夫だと伝えると男は階段を上ってコウの部屋の隣へ入っていく。


「じゃあ俺もやることやって早めに寝ようかな」


 もう夜になりつつあるのでコウは明日に備えるため夕食を早めに作り、食べて風呂等を済ませると柔らかなベットの上でごろごろとするのであった...。


 木材で出来た小窓の隙間から朝日が漏れており、身体を起こして軽く伸びをする。


 コウが起きてリビングまで行くと丁度良いタイミングで男が朝ごはんを作り終えた感じのようだ。


 今日の朝食は塩漬けされた魚を焼いた物のようで机の上に湯気がふわりと浮かぶ出来立ての料理が机の上に用意されていた。


「コウおはよう。昨日はすまないすぐに眠ってしまったようだ」


 男は頭をポリポリと掻きながら申し訳そうな顔をする。


 コウとしては別に食料や生活に必要な物を危険な森と呼ばれる場所を移動しながら持ってきてくれたので不満はないし、特段気にしてない旨を伝えるとほっとした表情をしていた。


「じゃあ朝食を食べた後にとりあえず武器の鑑定をしようか。性能がわからなければ扱えないしね」


 コウも自分の武器がどのような能力があるのかについては全く触っていないため、今回の鑑定というのはちょっぴり楽しみだったりする。


 早めに鑑定してもらいたいのでコウはささっと朝食を済ませて片付けると2人は一緒に家の外へ出て行く。


「さて...コウの十字架の武器を出してくれないかい?」


 男の言う通りコウは十字架のブレスレットへ魔力を流し、大きな十文字槍に近い武器へと変化させると肩に担ぐ。


「これでいいか?で...どうすれば良いんだ?」


「とりあえず武器に魔力を流した状態でこのスクロールにも魔力を流してくれ」


 男から茶色の用紙で出来たスクロールを手渡されたので魔力を流すとひとりでに宙へと浮き、見たこともない文字が何も書かれていない場所へ浮かび上がってくる。


 コウはこの世界の文字はまだ知らない。


 言葉だけは耳についている魔道具のおかげで話したり聞いたりは出来るが文字までは理解できなかった。


 異世界ということならば文字ですら日本語に変換して見えるようにしてくれる眼鏡のような魔道具もあるかも知れないが目の前の男からそんな便利そうな物を渡されないということは持っていないのだろう。


 まぁ実際そのようなものが存在するのかどうかは知らないのだが...。


 ある程度、文字が浮かび上がると鑑定が終わったのか宙に浮かんでいたスクロールが地面にぽとりと落ち、男はそれを拾って食い入るように長々と文字が書かれたスクロールに目を通していく。


「ふむふむ...なるほど面白いね。コウの武器の名前はサンクチュアリというらしく能力は3つあるね」


 目の前の男は指を三本立てながら能力があると言われ1つずつ説明される。


 1つは重量制限。

 

 サンクチュアリを作成した本人には重量を感じさせない仕様になっており、他の人が持つとかなりの重さの武器となっているので余程の怪力の持ち主ではなければ持ち運び等はほぼ出来ず、また魔力を流していないブレスレットの状態でも重量は変わらない。


 2つ目は自動修復。

 

 自動修復機能が付いており、例え刃こぼれを起こしたとしても魔力を込めればたちまち修復し、刃こぼれなどを気にせず使えるので武器の手入れをする必要がない。


 3つ目は神聖能力。


 死霊系に対しての特攻武器であり、魔力を流すことで刃の穴の部分から本人適正に応じた属性魔法が出すことが出来る。


 例えばコウが使うとなると水や氷に適正があるためどちらかの属性魔法を出すことが出来るだろう。


 そして今回の鑑定の結果、かなり良い武器が手に入ったということでこれは日頃の行いが良かったのではないかと考えてしまう。


 男も自身の愛用武器を生み出す際にこの魔道具である透明な謎の棒を使ったのだが、生み出された杖もここまで能力の良い武器が出たわけではないため、少しだけ羨ましそうな表情をする。


「まぁよかったじゃないか。変な能力付いていなくてかなり当たりの部類だよ。よし...次は実力を測るために軽く模擬戦をしていこうか」


 男は庭にある倉庫から刃の潰れた剣と粘土のような物を持ってきて男が魔力を流すとグネグネと粘土の形が変わり、コウのサンクチュアリそっくりに変化し、男はコウに手渡す。


「コウの武器はこっちで使ってくれ。本物を使ったら危ないし普通の武器で打ち合ったらすぐに壊れちゃうだろうからね。とりあえず始めようか」


 そして男から潰れた剣を向けられたのでコウも男に渡された偽サンクチュアリを初心者なり構え、人生初めての模擬戦が始まるのであった...。



ここまで見てくださってありがとうございます!


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