第11話
「とりあえず魔法は禁止で武器だけの純粋な模擬戦にしようか。今回は身体能力をどこまで使えるか知りたいだけだしね。それじゃあコウの好きなタイミングで来ると良いよ」
男はそれなりに自信があるのか刃の潰れた剣を構え、余裕そうな顔をしながらコウに挑発するように言う。
そんな安い挑発にコウは少しムッとしながら乗ってしまい男へ偽サンクチュアリを穂先を向けていくが構えるのに慣れていないためゆらゆらと揺れている。
「じゃあ遠慮なくいくぞ!」
そして目の前の余裕そうにしている男に向かって一泡吹かせるため走り出し、手に持っている偽サンクチュアリを男に向かって身体を仰け反りながら大きく振りかぶって縦に振り下ろす。
初めて武器を使った割にはかなりの速度を出しヒュン!と風を切る音が鳴り、男に向かって振り下ろされるが男の持っている刃の潰れた剣でいともたやすく受け止められてしまう。
「っ...!」
受け止められるのは分かりきっていたことなのだが、ただ鉄のような硬いもの同士がぶつかった振動が起こることまでは想定していなかったため、コウは手にびりびりと痺れを感じ、顔を顰めてしまう。
目の前の男も振動が伝わっているはずなのだが、痺れを感じていないかのように余裕そうな顔をしており、受け止めた偽サンクチュアリを軽々と弾き返す。
偽サンクチュアリと一緒に弾き飛ばされコウは転がりながらも体勢を立て直し、再び目の前の男に向かって構えるがまだ手がビリビリと痺れている。
「初めての感覚だろう?武器と武器がぶつかり手に振動がきて痺れるのは。打ち合ってればそのうち慣れてくるだろうし頑張ってくれ」
体勢を立て直したコウはもう一度、偽サンクチュアリを握りしめると走り出し男に向かって今度は突きの動作をする。
男は突きの動作を確認すると今度は剣を横にして受け流し、受け流されたコウはそのまま男の後ろに滑り込むような形になった。
そして膝を付きながらも偽サンクチュアリを後ろにいる男に向かって横薙ぎの動作に変えるのだが、それも男にしっかりと受け止められてしまう。
「くそっ!」
「うんうん。もっと武器を振ると良いよ」
この男は後ろにでも目がついているのか?と心の中で思うが口に出している余裕はない。
そして再び剣で受け止められている男から力任せに弾き飛ばされ、コウは地面をゴロゴロと転がる。
結構な勢いで転がったものだが、どこかしら怪我などをしていないか自身の身体を確認すると擦り傷の1つもしていなく不思議と痛みもあまり感じない。
「君の身体は私が作ったからには特別なものになっている。身体能力は基本的に底上げしているし身体はかなり頑丈だからこんなことでは怪我をしないよ」
コウの疑問を見透かすように男が答えた。
確かに身体能力は高校生だった頃とは違いかなり足は早く、体力や筋力もあるのでレベルの違いを実感できているような気がする。
「もう一度だ...!」
コウは痛みもなく基本的に怪我をしない頑丈な身体というものを知ったため恐怖心は多少なりともあるものの再度、男に向かって偽サンクチュアリを振り始めるのであった...。
■
「はぁ...はぁ...」
コウは仰向けで大の字になりながら日が暮れ茜色に染まった空を見て休憩をする。
毛穴から吹き出た汗が肌を伝っていき、夕方の吹く風が汗と一緒に体の熱を奪っていくため何もしなくても涼しいがこれ以上身体を冷やすと風邪を引きそうだ。
コウは男と朝から夕方まで模擬戦をしており、昼も食べてはいないため今日は美味しいご飯が食べれそうである。
打ち合いに関しては大体2~3回出来るようになっているので、身体の動かし方や武器の動かし方もなんとなくコツを掴んできた気がする。
とはいえまだまだ初日ということもあるのでど素人に毛が生えた程度であり、
「うん。なかなか動きが良くなってきたね。私も色々な人と戦ってきたけどコウには戦いの才能があるよ自信を持つと良い」
男は半日もコウと模擬戦をしていたというのに息切れもしていなく、服についた砂などの汚れを手で払いながらコウに言う。
戦闘に関して男はやはり自信がそれなりにあったらしく、これだけ長時間身体を動かせるということは体力もかなり多いみたいだ。
(なんでこの男はずっとやってんのに息切れすらしないんだよ!)
コウは目の前の男に文句を言いたいが呼吸を整えるので精一杯で心の中で思うだけにした。
そして呼吸を整え終わったコウはようやくお腹がぐぅと鳴り、空いているのに気づく。
それだけ模擬戦に集中してたということだろうか。
「流石に私もお腹が空いたしそろそろご飯にしようか。さぁ先に風呂に入っておいで」
男はドアに手をかけて家に入っていくのでコウも一緒に入っていき、家の中を汚したくはないので自身の汚れた身体を洗い流すため風呂へ直行する。
風呂に入っているとあの男は何者なのか?何故あそこまで強いのにこんな辺境で住んでいるのか?という疑問がふと湧き出てくる。
「今考えてもしょうがないか...最悪あの男に聞いたほうが早いしな」
色々と考えるが答えにたどり着くわけもないし、このまま風呂場で長時間考えたとしてものぼせてしまうので、後でわからないことは聞けばいいやと思いやめる。
お風呂から出るといつもと同じ服だが、着替えも用意してあるので服を着てからキッチンのある場所に行くと既に料理が作ってあり、今日の夕食はパスタらしくこの世界には麺類もあるのかとコウは思う。
麺があるということならばもしかしたら米もあるかもしれないと少しだけ期待はしてしまう。
米といえば今まで主食にしてきたものであるためあるなら欲しいところではある。
食事を終えた後、コウはそういえばトイレについて聞きたいことがあったことを思い出したので食後の飲み物を飲みつつ、聞いてみることにした。
「あぁ。あれはねスライムの核をベースに私が作った物だよ便利だろ?普通は穴を堀り肥溜めを作るんだけどあれはスライムの処理能力を利用して作った魔道具で拭いたり水を利用する必要はない。因みに収納の指輪で持ち運びできるしいいものだよ」
聞かれた男は嬉々とし、まるで子供が自分の作った夏休みの工作を自慢するような顔でコウに色々と説明する。
どうやらあんなに便利なトイレを生み出したのはこの男のようであり、確かに便利ではあるのだが、何故この男がトイレにこんなにも情熱をかけたんだと思ったのであった...。
ここまで見てくださってありがとうございます!
そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m
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