第5話

 食事も終わり、皿も洗い終わった男はタオルのような布で手を拭きながら椅子へ座ると、コウに「勉強の時間だよ」と言い話しかける。


「さて食事も終わったことだし、まずは死の森などの一般常識から勉強していこうか。魔法はその次にしておこう」


 まずはこの世界についての勉強。


 勉強と言われるとあまり気は進まないがこの世界で生きていくためにはまず必要なのは知識だとコウはそう考える。


 無知は罪なり、とある偉い人は言いました。


 ここはどこで、どんな場所なのか?お金の稼ぎ方や国のルールなど知らないとこの先、苦労するのはわかっているのだから。


「まずは死の森についてだね。死の森というのはアルトマード王国の北東の方角にある森なんだ」


「...」


 「ちなみにここは魔力が豊富で異常なほど魔物が強い事で有名でね。高ランク冒険者ですら敬遠するような場所で基本的に誰もこないし誰も探索しないような場所だよ」


 死の森とは誰も入らない場所であり、入るものは一攫千金を狙う者かただの自殺志願者だと言われる森である。


 そんな森にこの男は住んでいるのでもしかしたら男はかなりの実力者なのか?それともただの自殺志願者なのだろうか?どちらなのかは分からないが前者であることを祈るしかない。


「なんでそんな危険な森に俺達はいるんだ?もっと安全な場所はないのか?」


 コウはこんな森に居たのかと思い目の前の男に向かって安全な場所へ行けないのかと顰めっ面で聞いていく。


 それはそうだ。コウはまだこの世界に来て少しどころか起きて数時間しか経っていない。


 ましてや平和な世界から来て精々虫を殺したことがあるぐらいで命のやり取りすら経験もしたことのない高校生だったのだ。


 なのにこんな危険な場所にいてはすぐに死んでしまうのではないかと思う。


「済まないが事情があってね。こんな森に引き籠もって生活しているのは申し訳ないと思うが君の安全は保証しよう。あとは住んでいる場所だが、私の知り合いに手伝ってもらって作った場所なんだ。そう簡単には魔物にも見つからないし他の人にも見つからないように工夫はしてあるよ」


 男はコウの身の安全を守ることにかなりの自信があるらしい。


 それは男が強いのか?それともこの家がそれほどまでに安全なのかはわからないが確かに危険な森と言われている場所なのに家が襲われたり壊れる様な気配は一切ない。


「...本当だろうな?」


 コウは疑いながらも男に本当に安全な場所なのかを確かめるように聞くと自信満々に「勿論」と返事が帰ってくる。


 もし安全じゃなかった場合はすぐにでも別の生活できるような場所を求めるしか無い。


 しかし安全な場所に移動するにはこの死の森を抜けないといけないため、結局は現状目の前にいる男が安全と言ったこの場所で生活をしていかないといけないと思い溜息をつく。


「まぁそんなに悲観的にならないでおくれ。これでも最高の素材で出来た家だ。5年はここで生活しているが魔物にバレたことも無いし大丈夫だよ。ただ結界の外にはまだ出ないで欲しいかな?」


 今の話が本当ならば、5年も生活して一度もバレたことも無いということは基本的には安全なのだろう。


 勿論、外には出るつもりは毛頭ない。


 また結界という物については全くわからないのでコウは質問しようと口を開くが今後、男からまた説明があるだろうと思い喉の途中まで出かけた質問を飲み込む。


「とりあえず死の森については大体わかってもらえたかな?」


 死の森についてはある程度は理解したつもりなので次の一般常識を知るべくコウは頷く。


「次はお金の稼ぎ方についてだね。多くの人は農民として頑張っているだろう。力がある者は冒険者ギルドという場所に行って魔物を倒したり素材を集めて売ったりしている者もいるし商才がある者は商売とかね」


 冒険者ギルドと聞くとコウは少しだけ興味を持つ。


 それはそうだ漫画やゲームのではよくあるものだが、実際にあるとなるとなれば男心をくすぐるので少しだけワクワクはする。


「その様子だとコウは冒険者になるのかな?大丈夫だよ。君には力があるからね」


 この世界には魔物が存在する。


 魔物というのは一般人からしたら脅威だ。


 ゴブリン程度だったら別に倒せる農民も存在するだろう...しかしそれ以外の魔物はどうか?


 例えばオークやオーガなどは農民ごときでは倒せない。


 しかしそれらの驚異を排除もしくは素材や食料として狩ってくる者が冒険者と言うものだ。


 それ以外にも戦争に参加したり、要人を護衛したり様々である。


「俺に力なんてあるはず無いだろ。前では平和な世界で生活していたんだぞ。動物を殺したことはないしな」


 コウは殺したことがあるのは蚊やゴキブリなどの虫ぐらいであり、日本に住んでいた以上動物を殺すといった行為をしたことはなく、そんな場面に出くわしたことも無い。


「動物すら殺したことがないのは良いことだと思うよ。そんな簡単に命は殺めたりするものではないしね」


 コウの言葉について目の前の男は良いことだと認める。


 この世界では命は軽いものだと思っていたが、目の前の男の価値観はどちらかというと元いた世界寄りだろうか。


「あとコウに力があるのは確かだよ。その身体を作ったのは私だよ?かなり高性能な身体だ。ちなみにコウ自身に魔力もかなり豊富にあるし自信を持つと良い」


 コウは自分の身体は身長や見た目が変わったぐらいで力があると思ってもいなかったし魔力とかが豊富と言われても魔力自体がどんなものかもわからない。


「力や魔力とがあると言われても全くわからないんだが...」


 コウは自分の手を凝視し、集中するが魔力とかいう特別な力はなにも感じはしない。


「まぁ魔力とかは後でね...さて今日の最後の勉強としようか。次は実技だしささっと説明していくよ」


「お金に関しては大体は銅貨、銀貨、金貨、白金貨、王金貨の5種類があって銅貨10枚で銀貨1枚だと思ったほうが良い。屋台や飯屋は平均的には銅貨5枚ぐらいかな?ちなみに1日生活するのに銀貨5枚あれば3食は食べれて宿にも泊まれるだろうね」


 コウは大体1銅貨100円ぐらいだと想像すると大体の計算も合ってくる。


 物価に関してはそこまで違いは無いのかもしれない。


 そして説明を終えた男は椅子から立ち欠伸をしながら身体を伸ばし肩が凝っているのか首を回していた。


 先程、男が言ったように座学は終わり次は実技の授業なのだと理解する。


「さて...座学も疲れたろうし次は実技と行こうか。さっき説明した魔法や魔力について庭で覚えていこう。また生きていく為にコウの武器というか使いやすい得物でも探すとしよう」


 そう言いながら男は外に出るための扉へと手を掛け、ギィっと音を立てながら開くと、扉の奥へと一歩踏み出すのでコウも男の背中を追いかけるように付いていくのであった...。



ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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