三 途死伝説

三 途死伝説(1)

 いつになく大人げない態度を見せたあずさに詰め寄られ、ちょっとビビりながらもこども達が語ってくれたのは次のような話だった。


「――〝シラコ〟ってのは、夏にだけこの村に出る女の子の幽霊だよ。真っ白いワンピースに麦わら帽子をかぶってて、肌もすっごく真っ白いんだ。肌が白いのはあるびの・・・・? とかいう病気のせいで、毎年夏にこの村の別荘に遊びに来てたんだけど、その病気は日光に当たっちゃいけなかったのに、ある日、日が照ってるのに外に遊びに出て、それがもとで死んじゃったんだって。それで、幽霊になった〝シラコ〟は今も村の中を彷徨ってて、会うと遊び相手にするためにあの世へ連れていっちゃうんだって」


 ……なるほど。こども達の間で囁かれている、いわゆる都市伝説…いや、地理的には伝説? みたいなものらしい。


 まだ小学生だけあって、どうやらその辺をよく理解はしていないようであるが、俺が思った通り、やはりその名前はアルビノ――即ちメラニンが欠乏することで肌が白くなる遺伝子疾患の通称「白子」からきているようだ。


 アルビノの人間は、色素がないために肌が白く、銀髪・赤眼というその容姿からアニメや漫画などではカッコよく描かれることも多いが、現実にはいろいろと健康的なリスクを背負っており、その暮らしはけっこう大変らしい……。


 メラニンが異常に少ないアルビノは紫外線に弱く、皮膚癌になったり、目をやられるリスクが高いと聞く……今も幽霊になって彷徨ってる云々はともかく、「外に出て日光に当たったことで亡くなった」という設定はやけにリアルだ。もしかして、もとになった事件とか何かあったのだろうか?


 いや、そんなことよりも、その都市伝説で語られているシラコの容姿を聞いて、俺は薄ら寒さを感じずにはいられなかった……なぜならば、それは俺が見たあの少女・・・・と瓜二つだったからだ。


 それじゃあ、やっぱり俺が見たのはこの世の者じゃなかったという……いや、まさかそんなことが現実にあるわけ……。


「でも、駄菓子屋で俺達がシラコの話してたら、飯田のお兄ちゃんが〝そうじゃない〟とか、なんか違うこと言ってたんだ。なんて言ってたかよく憶えてないけど、お兄ちゃん、なんだかシラコのこと詳しそうだったし、だからみんな、実際にシラコに会ったことあるんじゃないかって。それで、命を奪われて遊び相手にされたんじゃないかって……」


 俺の思考を遮るように、先程、ボールを渡してやった子が真人の死との関係についての補足説明を加える。


「飯田のお兄ちゃんが亡くなった場所も、シラコがよく出るってウワサの山だったしね。そこにあるお花畑がシラコの遊び場の一つだって言われてるんだ」


 さらに、さっきは彼を嗜めていた女の子まで、話を聞く内に興が乗ってしまったのか自身も細かな情報を追加する。


「そうなのか?」


 こども達から視線を上げ、友人4人の顔をそれぞれ見回しながら確認するように尋ねてみたが、皆、なぜか目を逸らして曇った表情で首を横に振る。


「いや、初めて聞いた。その……シラコの話自体もな……」


 皆の感想を代弁するようにして、幸信がなんだか歯切れの悪い口ぶりでそう答える。


 なんだ? 何か変な反応だが……ともかくも、精進落しの時の態度から見て、真人の死にそんなウワサが流れていたことを知らなかったのは確かなようだが、村で語られている都市伝説なのに、こいつらもまったく知らなかったというのか?


 それなのに、どうして真人だけはそのシラコについてそんなに詳しかった? まあ、あいつは県内に残っていて、一番村の近くにいたからなのかもしれないが……けど、もし真人が本当にシラコとなんらかの関わりがあるのだとしたら、それがあいつの死んだ理由と……。


「ええ~知らないの~? 他の人にも訊いてみなよ~。大人もみんな知ってるよ~」


 俺の疑念を強化するかのように、失礼な男の子が生意気な口調で俺達無知な大人をあざ笑う。


 その後、話に飽きたこどもらが遊びに戻って行ってからも、〝シラコ〟の都市伝説に取り憑かれた俺達は、そのことが頭から離れなかった……。

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