第9話 幕間
葬儀の最中、公民館の周囲に風が舞った。
――ありがとうございます。じゃあ行ってきます。
天井からすり抜けて中に入る。ふっと降り立ったのは祭壇の前だった。多くの人がこちらを向いていて、人々の進む先には、自分が静かに横たわっていた。
――本当にしんじゃったんだ、私
しみじみと自分の顔を見つめる。
二度と戻れない、私の体。
「ユキちゃん、ユキちゃん、ユキちゃぁぁん!」
大きな声だ。少し驚いて祭壇の前を見ると、同級生の真凛ちゃんが白い棺桶に向かって何度も名前を呼びながら泣いていた。自分のためにこんなにも泣いてくれるなんて、不謹慎だけどちょっぴり嬉しいよ。そんな感想を持つのは今の体でここにいるからなのかな。決して触れない手を伸ばす。その涙に、せめてものお返しに。
――真凛ちゃんは、いっぱい長生きしてね。またね
そろそろ約束の5分が経とうとしていた。無理を言って連れてきてもらったんだから、約束は守らなくちゃ。名残惜しく公民館の中を見渡した。
――あっ
この体にも心臓がまだあるのだろうか。確かに強い鼓動を感じた。
入り口付近、扉に隠れるようにして忘れられない懐かしい男の子が立っていた。
――俊平君
なぜだろう、一番会いたかった人なのに、このためにここに来たのに、やっぱり会ってはいけなかったんだと痛感した。死にたくなくなってしまった。
目が離せなくなっていると、シロちゃんとマイちゃんが現れて俊平君に声をかけた。そして何やら言葉を交わした後、シロちゃんがなぜか俊平君を叩こうと振りかぶった。そこにマイちゃんが飛び込み、代わりに顔を叩かれてしまった。
――なんでっ!ダメだよ!
浮き上がりそうになる体を抑えながら、跳ねるようにすいすいと三人の元に走った。駆け寄ると、三人は泣いていた。
「ごめんなさい、みんな。ごめんなさい、ごめんなさい」
俊平君が呟くように言葉を漏らしている。つらい気持ちになった。
――俊平君は悪くない。みんな、誰も悪くないよ、だから泣かないで
四人は泣いた。それぞれがそれぞれのことを想って涙を流した。その想いは誰にも届くことなく雫となってこぼれ落ちていく。
――ああ、本当にもういかなくちゃ
浮かび上がり始めた体は半透明にきらめき、天井が近くなったところで、光の結晶がはじけるように消えた。
――これからは、私が守ってあげるから
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます