第25話 2人きりの部屋で……

「……おかえりなさい。間宮さん」


 そう言った少女は文字通りずぶ濡れだった。

 マンションのエントランスとロビーから漏れる明かりが少女を照らす。

 前髪から滴り落ちる雨雫が煌めき、神秘的に映る。

 その雨雫を人差し指で弾くように払いながら、少女は俺を迎えた。


「――み、瑞樹……か?」


 状況が理解出来ない。

 この時間ならまだ打ち上げの真っ最中のはずだ。

 それに打ち上げの後は、加藤の家でお泊り会をすると加藤達から聞いている。

 だから瑞樹が今、目の前にいる事に現実味を感じなかった。

 瑞樹は俺がその後、何も言わないからか、頬に張り付いた髪を指先でクルクルと回しながら、黙って俯いてしまった。


「何でずぶ濡れのお前が、こんな所にいるんだよ」


 俺はようやく言葉を絞りだした。


「間宮さんのマンションに向かっている途中で、凄い雨が降ってきてさ……。雨宿りする場所も見当たらなかったから、鞄を頭に乗せて走ったんだけど、あの雨だと意味なかったね――えへへ」

「いや! そうじゃなくて、お前はクラスの連中と打ち上げに行ったんじゃなかったのか?」

「うん……行ってたよ。でも、30分位で抜けてきちゃった」

「何でそんな事……つか、俺に用があるのなら、駅で待ってるとか電話するとか、色々方法があっただろ」

「携帯の充電がいつの間にか切れてたから、駅で待とうと思ったんだけど、前に待ってたら間宮さんに叱られたんだもん……」


 口を尖らせて、瑞樹はそう俺に訴える。

 それは合宿最終日の事を言っているのだと直ぐに気付き、そういえばと苦笑いを浮かべるしかなかった。


 駅から半分の距離を歩いていた時、突然の豪雨に見舞われたらしく、駅へ戻るよりこのままマンションまで走った方がマシだろうと判断したらしい。

 丁度今晩は加藤の家でお泊り会の予定があった為、着替え等を入れて持ち歩いていた大きめのバッグを傘替わりにしたのだが、あまり意味がない程の豪雨だった事は、瑞樹の姿を見れば容易に想像がついた。


「皆で頑張った文化祭の打ち上げなのに、何で抜け出したりしたんだ?」

「――う~ん。まぁ……そうなんだけどね」


 何だか言い辛そうな顔でモジモジとしている瑞樹を見て、全身ずぶ濡れだった事をハッと思い出して、俺は彼女の返事を待つ事を止める。


「とにかく家まで送っていくよ」


 俺はそう言って再び傘を広げて通りに出ようとすると、不意に袖をギュッと掴まれて軽く引っ張られた。


「……嫌っ!」


 袖を引っ張る瑞樹は、少し眉間に皺を寄せてそう一言だけ口にする。


「いやって言っても、そんなに濡れてるんだから、早く温めないと夏場っていっても風邪引いたら大変だろっ」

「だって! 間宮さんに聞いて欲しい話があるんだもん!」

「話しなら日を改めていつでも聞くから、今日はもう帰った方がいいって」

「駄目! そうしたらきっと決心が鈍るから、今日じゃないと駄目なの」


 何が彼女をそう突き動かすのか、俺には分からない。だが切実な想いが溢れ出るような目で見られていると、無下に突き放す事が出来なくなった。

 とはいえ、現状早く体を温めないといけない事は間違いない。

 だから……俺はかなり意地悪な提案をしてみる事にした。


「分かった。どうしても今日じゃないと駄目だって言うのなら、俺から1つ条件がある」

「……条件?」

「その前に確認したいんだが、その聞いて欲しい話ってここで話すつもりなのか?」

「え? う、うん……そうだけど?」


 アホなのかと思った。

 いくら真夏だと言っても、ここまでずぶ濡れのままここで立ち話なんてしたら、受験の大事な時期に風邪を引くかもしれないと危惧するのが普通だろうに……。


「やっぱりか……。条件って言うのは、話をする前に俺の部屋に来る事だ」

「え? えぇ!? ま、間宮さんの部屋に行くの!?」

「そうだ。俺の部屋に来て、まずシャワーを浴びて体を温める事! 受験の大事な時期に風邪なんて引いたら、笑えないからな」


 完璧だ。

 こんな無茶な条件をのむはずがない。

 1人暮らしの男の部屋に入り、しかもシャワーまで浴びるなんて、そんな危険しかない事を瑞樹に出来るわけがないんだから。

 無理だと言わせて、気持ちよく家に送り届けよう。


 俺はそこまでの完璧なシナリオを描いていたのに――。


「ん~。今晩は愛菜の家に泊まるに行く予定だから、丁度着替えは持ってるし、確かに風邪は引きたくないし……」


 あ、あれ?何か想像と違うくないか?


「うん! わかった! それじゃお邪魔してシャワーお借りします!」

「……は?」

「うん?」

「いやいや! 俺一人暮らしなんだけど」

「うん。知ってるよ?」

「俺……男なんだけど」

「は? 当たり前じゃん! 何言ってんの?」

「シャワーも浴びろって言ってんだぞ!?」

「え? うん。 だから風邪を引かない為にでしょ?」

「そうだけど、警戒するだろう! 身の危険を感じるだろう!?」


 俺は身振り手振り、瑞樹の判断はおかしいのだと訴えた。


「あぁ、それは怖いし、警戒して拒否るよね普通。でもね……」

「……でも?」

「間宮さんだしね。純粋に私の体調を心配して言ってくれてるの分かってるし、私、信じてるもん」

「あ……そ、そう」


 なんだろう。

 信じてくれてる事を素直に喜べない自分がいる。

 いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。


 完全に狙いが外れた。

 瑞樹が部屋に来るなんて想定していなかったから、今度はこっちが慌ててしまっている。

 これじゃあ、どっちが年上なのか分かったもんじゃない。

 瑞樹はもう部屋に来る事に迷いがないのか、お泊りグッズが入った鞄の中身を確認している始末だ。

 俺から言い出した事なんだし、こうなったら腹を括るしかない……のか?


「じ、じゃあ案内するから、い、行こうか」

「あ、うん!」


 即答で返事して、中身を確認していた鞄を閉じて、俺の後ろをトコトコとついてくる。

 オートロックを解除してロビーに入ると、瑞樹は物珍しそうにキョロキョロと周囲を見渡しているが、足を止める事はない。


 マジで来るつもり……なのか?


 奥の突き当りにあるエレベーターから5階まで上がった俺達は、そのまま自宅である503号室前に到着したが、瑞樹が怯む様子が未だに感じられない。

 ルームキーであるカードを取り出して、スキャンしようとした時、もう一度瑞樹の様子を伺う。

 やはり瑞樹は警戒してるわけでも、不安がっているわけでもなく、寧ろワクワクしている様にさえ見えた。


 そんな瑞樹を見て、ある種の諦めが付いた俺は鍵を開錠して玄関のドアを開けた。


「……どうぞ」

「お邪魔しま~す」


 やはり警戒心ゼロで、躊躇なく玄関を潜り、中に入って来てドアを閉める。

 閉まった事を確認して俺が鍵をかけると、いつもなら気にもしない『カチャン』という音が妙に耳に残った。


 俺が先に靴を脱いで廊下に立った時、後ろから「あっ!」と瑞樹が声を上げるのを聞いて、土壇場で怖くなったんだなとホッと安堵して振り返る。


「ど、どうした?」

「靴やソックスまでビショビショだから、このまま上がったら床が濡れちゃうよ」


 ガックリきた。

 自分の身の心配より、床が濡れる心配をしてる瑞樹に、俺は思わずズッコケそうになった。

 脱衣所に向かい、そこからタオルを取り出した俺は、ソックスはここで脱いで足はこれで拭けとタオルを手渡した。

 瑞樹は言われた通りに濡れた足を拭き、バッグを持ち直して奥にあるリビングに入って来た。


 俺の部屋に女子高生がいる事に、とてつもない違和感を感じた俺だったが、ここまできたら風邪を引かさないように体を温める為なんだと、自分に言い聞かせた。


「ここが間宮さんの部屋かぁ」


 リビングに入ってきた瑞樹は、目をキラキラさせて部屋を見渡している。

 何だかそれが照れ臭くなった俺は「風呂はこっちだから」とさっさと浴室に案内する事にすると、バッグの中は着替えばかりだったからなのか、バッグを担いだまま俺の後についてきて、そのまま脱衣所に入っていった。

 俺はバスタオルを準備しながら、脱衣所に設置している乾燥機付きのドラム式洗濯機の電源を入れて、ドラムの扉を開いた。


「バスタオルはそれを使ってくれ。とりあえず脱いだ服は片っ端からここに放り込んで、ドアを閉めてからこのボタンを押したら、洗剤とかが勝手に出て洗濯と乾燥をしてくれるから」


 瑞樹の自宅ではどんな洗濯機を使っているのか知らないから、一応簡単に使い方を説明すると、自動で洗剤と柔軟剤が投入される事に興味津々のようだった。


「うん。何から何までごめんね……ありがとう。それじゃ、シャワー借りるね」

「あ、あぁ……ごゆっくり」


 俺は瑞樹を見ずに脱衣所を出て行き、リビングに戻り盛大に溜息をついて、ソファーに倒れ込む様に体を預けた。


「――何考えてんだよ……あいつ」


 そう呟いていると、浴室からシャワーのお湯が流れる音が聞こえてきた。

 まさか女子高生にウチのシャワーを使わせる事になるなんて、考えた事もなかったな。


 ――何だか、とても駄目な事をしている気がしてならない。

 落ち着け!相手は高校生の子供なんだ。

 そんな相手にそわそわとみっともないぞ!


 きっと瑞樹は俺の事を兄の様な感じで慕ってくれているんだ。

 そうでなければ、1人暮らしの男に部屋に上がり込み、無防備にシャワーを浴びるなんて、普通に考えれば有り得ない事だ。

 俺の事を信用しているからこその行動なんだから、その信用を裏切るわけにはいかない。


 よし!気持ちを落ち着かせる為に、じっくり珈琲を淹れて瑞樹に御馳走するとしよう。


 ◇◆


 シャワーを出しっぱなしで、頭からお湯を浴び続ける。

 温かいお湯が全身に流れているはずなのに、さっきから小刻みに体の震えが止まらない。

 寒いからじゃない。本当は怖いんだ。

 子供扱いされるのが嫌で、部屋に誘われた時から意地を張って落ち着いた態度をとっていたけど、本当は怖くて怖くて仕方がなかった。


「大丈夫だよね……うん。心配ない! だって……間宮さんだもん」


 自分にそう言い聞かせながら、私は震える体を両腕でギュッと抱きしめた。

 何故こうなったんだろう。

 私は間宮さんに聞いて欲しい大事な話があってマンションまで来ただけなのに、突然のゲリラ豪雨に降られてずぶ濡れになったのは想定外だった。


「まさか、間宮さんの家でシャワーを浴びる事になるなんて……」


 頭の先からつま先まで雨を浴びた体に、使い慣れないシャンプーとボディソープを使い全身を洗い始める。

 何だかいつも間宮さんが使っている物を自分の髪や体に触れさせている事が、羞恥心に拍車をかけたようで、私は1人真っ赤になりながら邪な事を振り払う為に、泡と戯れた。


 でも何故だろう。

 さっきまで不安しかなかったのに、段々落ち着いてきたような気がする。

 このシャンプーやボディソープから、間宮さんの匂いを感じたからかなぁ。


 脱衣所へ戻って用意してくれたバスタオルで、髪や体の水滴を拭き取る。

 ある程度拭き取った後、お泊りセットが入った鞄を広げて下着と部屋着を取り出そうとした時「あっ」と声が漏れた。


 ◇◆


 コポコポと耳障りの良い音と共に、拘りの豆の香りが立ち込める。

 俺の自慢の珈琲の完成が間近かに迫った時、浴室から出てきた瑞樹がリビングのドアをノックする。

 わざわざノックなんて必要ないのにと思いながら「どうぞ」と声をかけると、瑞樹はドアを半分だけ開けて顔だけひょこっと見せて、何だか恥ずかしそうにそのままモジモジとして動かない。


「どうした?」

「……あ、あのね。着替えなんだけど、バッグに中まで雨が染み込んじゃってて、持ってきた部屋着やパジャマも濡れてしまってて……」


 あの雨で傘代わりに頭に乗せていたんだ。

 中までびしょ濡れになるのも、当然といえば当然かもしれない。

 幸い下着はビニール製のポーチに入れていたらしく、事なきを得たらしいが、他は全て全滅だったと言う。


 なるほど。だから顔だけ出しているのか――ん?という事は、今瑞樹は下着姿でそこにいるって事か!?

 瑞樹が何を言おうとしているのか察した俺は、慌てて寝室に向かい着る物を取りに行こうとして、珈琲を淹れるのを中断させた。


「そ、そうか。えっと、部屋着に使っているスウェットを用意するから、浴室で待っててくれ!」


 俺は確かにそう言ったはずなのに、瑞樹は更にドアを開けておずおずとリビングに入ってきてしまった。


「えっ!? ちょっ!?」


 俺は慌てて手を目元に当てて視界を塞ごうとしたけど、咄嗟の事で指の隙間から瑞樹の姿を見てしまった。


「――えっ!?」


 指の隙間から見た瑞樹の姿に、電気みたいなものが走った。

 結論から言うと、瑞樹は下着姿ではなかった。


 ――なかったのだが。


「あ、あのね。このワイシャツが洗濯機に残ってて、乾いてたから勝手に借りたんだけど……駄目だった?」


 瑞樹は洗い終わって乾かして取り込んだ時、一枚だけ見逃していた仕事着のワイシャツを着て現れたのだ。

 180センチ近い俺のサイズに合わせたワイシャツを、恐らく160センチちょいの瑞樹が着ると、シャツの裾が膝下まで伸びていた為、肌を隠すのには十分な長さだった。

 以前、仲間内で飲んでいた時に、仲間の1人が裸にエプロンと男物のワイシャツだけ着させるのは、男のロマンだよなって話していたのを思い出した。

 その時は、それのどこが男のロマンなんだと俺は否定したけど、目の前にいる瑞樹の姿を見て、仲間が言っていた事を、肯定出来てしまった。


 襟首のボタンは二つ外しているが、その他のボタンはキッチリと下まで止めていたから、露出的にはワンピースのそれと変わらないと思う。

 袖は長過ぎるのか、かなり袖を折って捲っていて、その袖口から白くて細い手首と、小さい綺麗な手が伸びていた。

 体型が隠れてしまうサイズのワイシャツだったが、床に設置しているスポットライトの照明が当たると、薄っすらと瑞樹のしなやかな体のラインが浮かび上がり、なんというか……色気を感じてしまった。


「あ、あぁ……それは別に構わないんだけど……寒くないか?」


 正直目のやり場に困り、思わず目を逸らしてしまった。

 高校生の子供と思っていた女の子に、色気を感じるなんてどうかしてると思う。


「ん、大丈夫だよ。シャワーありがとう」


 薄いピンク色に上気させた顔で、にっこりと微笑み心配ないと答える瑞樹に、戸惑ってる俺の方が心配だ。


 濡髪をバスタオルで拭きながら、ストンとソファーに腰を下ろした瑞樹を見て、俺が警戒心のない無邪気さがこんなに残酷なものなのかと、心の中で叫んでいるなんて、この子は思ってもいないのだろう。


 あんなに綺麗な藤崎先生の誘いですら、拒む事しか出来なかったのに、どうしてこの子は自然に俺に中に入ってこれるのだろうと、ふと疑問に思った。

 俺が妹のように、女として見ていないからだと思っていたけど、今こうして色気を感じてしまっている以上、この仮説は覆されてしまったからだ。


 ――なら……どうして。


 そんな思いに耽っていると、サッパリした瑞樹がキョロキョロと部屋を見渡し始めた。


「何ていうか、大人の部屋って感じだね」


 男物のワイシャツ一枚の濡髪少女が、部屋を興味深げに見渡してそう告げる。


 なんだろう。

 とてつもなく悪い事をしている気がするのだが……。


「物が少ないだけだ。あまりゴチャゴチャと物を置くのが嫌いなんだよ」


 俺はそう答えながら、淹れたての珈琲をカップに移して、瑞樹の前にあるテーブルの置いた。


「これで完全に温まるだろ」

「ありがとう。夏なのにホット飲むとか――間宮さんも相当な珈琲好きなんだね」

「もって、瑞樹もそうなのか?」

「うん。遅くまで勉強してる時とかは、季節関係なくホットを飲むんだ」


 そう言うと、瑞樹は立ち込める湯気をすぅっと吸いこんだ。


「ん~! いい香りだね。これって相当上等な豆なんじゃないの?」

「おっ、分かるか? これは拘りの配分でオリジナルのブレンドなんだよ」

「自分でブレンドしてるの!? それは考えた事なかったなぁ。今度珈琲豆の事教えてよ」

「あぁ、マニアックな豆トークをしてやるよ。でも……その前に、そろそろ本題に入ってもいいか?」


 俺がそう提案すると「そうだね」と一言告げ、口と喉を潤す為に珈琲を一口飲んだ後、カップをテーブルに戻した。


 カップを戻した瞬間、部屋にさっきまでなかった緊張感が漂い始めた。


 これから話してくれる話は、つまりそういう事なのだろう。


 俺は気を引き締めようと、別に俺が何か話す訳でもないのに、軽く咳ばらいをして、瑞樹の口が開くのを待った。


「あのね……間宮さんに聞いて欲しい事があってね」

「うん」

「でもね……話をした後、私を見る間宮さんの目が変わってしまうんじゃないかって、怖かったの」

「そっか」


 瑞樹が話をする度に、恐らく無意識なのだろうが、声が僅かに震えだしている。

 何故そこまでして、俺に話をする気になったのか気になったが、ここまで口を挟まず相槌を打っていた。

 だが、どうしても一つだけ気になった事があり、俺は口を開いた。


「あのさ。もしかして、今からする話って、加藤に話した事ないか?」

「え? うん。合宿に時にね……でも、何でその事知ってるの?」


 やっぱりか。

 加藤は昔にあった瑞樹の事を知っていて、その事は絶対に他人が話す事じゃないと判断したのだろう。

 でも、どうしても俺に助けが必要だったから、無茶な頼み方なのを百も承知で会いに来たって事か。

 それだけ、これから聞く話は瑞樹にとって辛い過去なんだろうという事だけは、しっかりと胸に刻む事にした。


「瑞樹の過去の事をなるべく伏せたまま、色々と頼まれたりしたんでな。きっと加藤も色々と葛藤しながら、俺に話してたんだろうなって思ってさ」

「あぁ、浴衣デートの時の事とか?」

「そうそう。理由を訊いても、私からは話せないの一点張りでさ。ホントあの時は参ったよ」

「ふふっ……ごめんね。愛菜に昔の事を話しちゃったから、あの子にも色々と気を遣わせてしまったんだ。そのせいで間宮さんにも沢山迷惑かけてしまって……本当にごめんなさい」


 瑞樹は苦笑いを浮かべた後、頭を下げてきたけど、俺は謝って欲しいなんて微塵も思ってないから、黙ったまま瑞樹を見ていた。


「だからってわけじゃないんだけど、こんな私にも信頼出来る仲間がいるんだって、今日の文化祭で知る事が出来て勇気を貰えて、間宮さんに聞いて欲しくなったんだ――私の過去に何があって、間宮さんの事をあんなに傷つけてしまったのか、聞いてくれますか?」

「――あぁ! 俺で良かったら、聞かせてくれ」



「うん。ありがとう――あれは私が中学3年生の時の事なんだけど――」

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