3章 過去との決別
第1話 希の近況報告
どもです!
はじめまして!
名乗ったら説明はいらないかもだけど、瑞樹 志乃の妹やってます。
突然こうして出てきたのは、お姉ちゃんの話を聞いて貰いたくてです。
本人には言う気はないんだけど、私は小さい頃からお姉ちゃんが大好きなんだ。
小学生の時まで、ずっとどこへ行くのもついて行ってた位に、いつもお姉ちゃんにベッタリでした。
可愛くて、誰にでも優しくて、友達も沢山いて……そしてモテてました。
そんなお姉ちゃんは、私の自慢だったんです。
まだ私が小学生で、お姉ちゃんが中学に進学した後も、相変わらずお姉ちゃんの周りには沢山の人がいて、毎日楽しそうにしているお姉ちゃんを見て、私も嬉しかった事を覚えてる。
……でも、中学3年生になって少ししてからだったかな。お姉ちゃんの様子が急に変わってしまったんです。
本人は私達家族の前では、いつも通りに振舞っているつもりだったんだろうけど、私にはすぐに分かったんだ!絶対に学校で何かあったんだって。
ウチは共働きで両親が忙しかったから、いつもお姉ちゃんが家の事を率先してしてくれてた。
それはお姉ちゃんの様子が変わってからも、いつも通りこなしてたんだけど、これまでは私が手伝おうとすると、今日はこんな事があったって色々な楽しい話を聞かせてくれてた。
私はそんな時間が好きで、益々お手伝いをしようと頑張ってたんだ。
でも、お姉ちゃんの雰囲気が変わってからは、学校での話をしてくれなくなって寂しかった。
勿論、私から訊いた事もあるんだけど、その度にやんわりと話を逸らされてしまってた。
お姉ちゃんの雰囲気が変わってしまってから、急に猛勉強を始めたっけ。なんでも上野高校に進学予定だったのに、いきなり数段上の偏差値を誇る英城学園を受験したいと言い出したかららしい。
進路指導の先生や、お父さん達に反対されたらしいんだけど、絶対に合格するからって頑として譲らなかったんだって。
いつもお父さん達の言う事はキチンと聞き分けてたお姉ちゃんが、あんなに反発したのは初めてだと思う。
そして見事に英城に受かって、晴れてJKになったお姉ちゃんは、また雰囲気が変わって見えた。これは私だけじゃなくてお母さんも気付いてたみたい。
以前と比べて、楽しそうに笑うようになった。
学校であった事を話してくれるようにもなった。
一見すると、昔のお姉ちゃんに戻ったように見えたんだ。
――でも……私には違和感があったんだ。
ん~……なんていうか、楽しそうに笑えているんだけど、どこか何かに怖がっているというか怯えているように見えた。
それでも、以前と比べたら笑顔が増えたんだからと、ひとまず安心出来た。
◇◆
そんな時お姉ちゃんが卒業して私が2年生になってすぐの頃、3年の先輩にしつこく付きまとわれるようになった。
先輩という特権を駆使して、あの手この手で私にアプローチを仕掛けてくる。まぁね!私も可愛いし?モテモテだったけど、正直まったくタイプじゃない。
でも一応先輩だし波風が立たないように立ち回ってたんだけど、ある時去年のお姉ちゃんに何があったのか、その先輩が知っているという情報を耳にしたんだ。
1年の時に調べようとした事があったんだけど、3年生全体に厚い壁があって、誰かが徹底的に末端にまで秘密を洩らさせない脅迫めいた圧力がかけられいるようで、断念するしかなかった。
だからこれはチャンスと思うのは当然で、うまく立ち回ればあの時お姉ちゃんになにがあったのか掴めるかもしれない。
とはいえ、単純に色仕掛けなんてしようものなら、あの先輩の事だ。
きっと笑えない結果になってしまうのは、目に見えている。
どうしたものかと悩んでいる時、偶にしか学校にこない
有紀は所謂、逸れ者ってやつで学校に来ない日の方が多く、周りの生徒からは怖がられている女の子だった。
でも、どういうわけか有紀とはウマが合った私は、学校での彼女の数少ない友達だったのだ。
他の友達に話す気はなかったんだけど、有紀には聞いて欲しくなって相談してみたんだ。
すると驚く話を聞く事が出来た。
それは、有紀がその事を間接的にだが、耳にした事があるというのだ。
私は縋る思いで、当時の詳細を教えて貰おうと頼んだんだけど、有紀はどうせなら全部一気に知った方が早いだろうと、その場での詳細な説明をしてくれなかった。
そして有紀はある提案を私に持ち掛けた。それは付きまとわれている先輩を指定した場所に、指定した時間に連れて来いというものだった。
その時、有紀にどうするのか訊いたんだけど、希は知らない方がいいとだけしか話してくれなかったんだ。
どうしてもお姉ちゃんの事を知りたかった私は、少し不安もあったけど、有紀の提案に乗る事にして、早速先輩に連絡を取ってみた。
私にゾッコンな先輩からしてみれば、散々煙に巻いていた私の方からの誘いに乗ってこないわけがない。
有紀が指定した日の放課後に、頭の悪そうな顔をぶら下げて、先輩は正門前に現れた。
先輩は嬉しそうに、すぐに私をどこかへ連れて行こうとしたけど、上手く言いくるめ、有紀が指定した場所へ向かうように仕向ける事に成功した。
え?どうやったかって?
簡単ですよ! 手をギュッと繋いで、甘えた声と上目遣いで誘えば一発でした!
ホント……男って馬鹿ばっか!
有紀が指定した場所は、遊具も何もなく人気ひとけが殆どない小さな公園だった。
そこへ着くと先輩が、まさか外で!?とか言ってきた時は、身の危険を感じたけど、私はすぐに飲み物を買ってくると先輩から離れて、近くにある自販機へ走った。
買ったのは私用の珈琲と、有紀が好きなミルクティーで、ここまでが有紀に指示されていた事だ。
飲み物を買った私はすぐに元の公園に戻ると、そこには先輩の姿はなく代わりの有紀が立っていた。
ニヤリと笑みを浮かべている有紀に、頼まれていたミルクティーを手渡すと、話は明日話すからと、希はもう帰れと告げて公園の奥へ姿を消してしまった。
翌日、有紀は学校へ来なかったけど、お昼休みの時間に放課後、近所のコンビニで待っていると連絡がきた。
そこでふと先輩の事が気になった。
昨日までなら、昼休みまでに2回は私のクラスへ通ってきたはずなのに、今日は1度も顔を見ていないからだ。
まぁ、あんなしょうもない奴の事なんて、どうでもいいか。
ホームルームを終えた私は、真っ先に有紀と待ち合わせているコンビニに急いだ。何か友達に呼ばれた気がしたけど、今は完全にスルーさせても貰おう。
コンビニに着くと、有紀はすでに着いていて缶珈琲を啜っていた。
有紀の名前を呼びながら駆け寄っていくと、有紀の表情がいつもと違う事に気付く。
私はどうしたのか訊くと、有紀はその事に返答する事なく、場所を変えようと告げて歩き出した。
そのまま何も話す事なく連れてこられたのは、昨日指定された小さい公園だった。
私達は、唯一1つだけ設置されているベンチに腰を落とす。
有紀は視線を自分の靴に落としたまま、落ち着いて聞いてくれよと、私に念押ししてから、去年お姉ちゃんに起こった全貌を話してくれた。
その話を私は最後まで何も言わずに聞き終える。違う――何も言葉が出てこなかったんだ。
主犯者は平田――。
腸が煮えくり返るという言葉の意味を、初めて知った気がした。
とにかく平田が憎い。殺してやりたいと思える程に。
そして自分の保身の為に、平田の言いなりになっていた奴らも許せない。
平田は上野高校に進学した事は知っている。
お姉ちゃんにあんな事しておいて、のうのうと高校生活を送っていると思うと吐き気がする。
こんなに他人に対して、怒りの感情をもつなんて生まれて初めてで、私はこの感情をどうしたらいいのか戸惑っていると、有紀が一言口を開いた。
「気持ちは解るけど、変な気を起こすなよ――ウチは希にそんな事をさせる為に、動いたわけじゃないから……」
有紀のこの一言が、今でも私の中に鮮明に残ってる。
有紀は高校に進学せずに卒業した。
後で知った事だけど、有紀の家庭はかなり複雑で、父親がコロコロと変わり、今の父親に義務教育までしか学費を出さないと言われたらしい。
そんな家にいたくなくて、中学を卒業するのと同時に家を出ていってしまった。
卒業式の日にバイバイと言った有紀の存在と、あの言葉が暴走する私の感情をギリギリのところで、ずっと思い止まらせてくれていたんだ。
携帯も解約したみたいで、卒業してから有紀とは会うどころか声も聞けていない。もう会う事は叶わないかもしれない。
でも――私は有紀の事を忘れる事はないと思う。
そんな恩人の言葉で抑えていた憎悪を抱えたまま、高校に進学した私だったけど、最近になってどうしようもなかったはずの憎悪が、少し小さくなる出来事があった。
それは高校生になってから、ずっと仮面を被り続けていたお姉ちゃんに変化があったからだ。
そう感じたのは、ゼミの夏期講習の勉強合宿から帰ってきてからの事。
帰ってきたお姉ちゃんが「楽しかった!」と話す笑顔が、いつもの仮面ではなく、あの事件に巻き込まれる前の笑顔でもない。
私でも知らない笑顔を見せてくれたからだ。
気になった私は、しつこい位に合宿での出来事を訊いた。
凄く良い友達が出来たとか、苦手だった英語の偏差値が上がって、諦めかけていたK大への道が見えたとか、お祭りで花火が綺麗だったとか、お姉ちゃんは楽しそうに話してくれた。
でもね――私が訊きたい事はそれじゃないんだよなぁ。
勿論、その合宿での話をしてくれるお姉ちゃんの楽しそうな顔を見て、私も嬉しかったよ?
だけどね?私が訊きたいのは、あの男の人の事なんだよ。
あの日、お姉ちゃんが合宿から帰ってきた日。
私は高校に入学して、まだ付き合いの浅い新しく出来た友達と親睦を深める為に、遅い時間まで電話で話してたんだ。
そんな時、家の前から話声が聞こえてきた。
その声にお姉ちゃんの声が混じっている事に気が付いて、私は電話をしたまま窓から外を見たんだ。
すると、家の前にお姉ちゃんと見知らぬ男の人がいた。
2人は何やら楽しそうに話をしている。残念ながら、ここからじゃ話している内容は聞こえなかったけど、その時男の人に向けるお姉ちゃんの笑顔がいつもの笑顔じゃなかったんだ。
一緒にいる男の人は、私達のような高校生じゃない。
もっと年上で落ち着いた雰囲気の、大人の人だった。
門灯の照明だけで、顔はあまり見えなかったんだけど、わりと整った容姿をしているように見えた。
そう!私はあの男の人の話を訊きたかったんだけど、結局お姉ちゃんの口からその人の名前が出てくる事はなかった。
知れないと益々興味をそそられる。
きっとお姉ちゃんの、仮面を剥がすきっかけになった人のはずなんだから!
その証拠に、今お姉ちゃんの部屋を覗いてるんだけど、さっきから枕に顔を埋めて、足をパタパタと暴れながら「会いたい!会いたい!会いたーい!」って連呼してるんだもん。
あ、因みにこっそり覗いてるわけじゃないよ?
ノックはしてないけど、お姉ちゃんの部屋のドアを全開に開けて、入口の真ん中で腕も組んで仁王立ちしてるのに、悶えるのに夢中なお姉ちゃんが全く気付いてないだけ。
――さて、どうやって驚かせてやろうかなぁ。
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