第25話 仲間達との誓い……そして自分へのけじめ act 4

「あの、すみません」


 1人O駅に向かう瑞樹を見送っていた加藤は、後ろから聞き覚えのない声で話しかけられ振り返ると、そこには20代後半くらいのスーツ姿の男が立っていた。


「はい?」


 見覚えのない男に警戒しながら返事をすると、加藤の様子を察したのか、男は少し慌てた様子で口を開いた。


「怪しい者ってわけじゃないからね? えっと、この団体って天谷社長のゼミの合宿帰りであってるかな?」

「え? はい、そうですけど」


 男はホッとした仕草を見せて、ゼミの並びにあるビルを指さした。


「やっぱりそうか。あそこからバスがここへ入っていくのが見えたから、そうじゃないかと思ったんだ」

「はぁ……」


 話が見えない加藤は困惑気味に相槌を打つと、男は駐車場をキョロキョロと見渡し始めた。


「でさ! この中に間宮って奴がいると思うんだけど、どこにいるか知らないかな? 電話で呼び出そうと思ったんだけど、あいつの携帯充電が切れてるみたいでさ」

「あ! 間宮先生の知り合いの人ですか!」


 男の正体が間宮の知り合いだと分かった加藤は警戒を解いて、眉間の皺を戻した。


「間宮……先生?……ははっそっか、今あいつ先生だったんだっけな! あいつが先生とか……クックックッ」


 間宮の知り合いだという男は、手を口に当てて吹き出した。


「間宮先生なら、打ち上げをするお店に向かったみたいなので、ここにはもういませんよ」

「そっかぁ……土産とか電車で持って帰るの大変だろうから、ここで受け取って少しでも荷物を減らしてやろうと思ったんだけど……まぁ、いいや! ありがとうね」


 男は残っている生徒達から加藤に視線を戻して、礼を言って指さしていたビルに引き返し始めた。


「あ、あの! 間宮先生が今は先生って、どういう意味か聞いてもいいですか?」


 立ち去ろうとした男を呼び止めた加藤は、男の言葉が気になりそう話しかけた。


「ん? どういう意味って、間宮から何も聞いてないの? あいつはさ……」




 ◇◆




 O駅のホームで、まだ気持ちの整理がつかずにいた瑞樹は、あのキーホルダーを取り出して、球状の飾りを指で転がしながらベンチに座っていた。

 どれだけ考えても、避けられている原因に心当たりがない瑞樹は、1人溜息をつく。


 そんな時、瑞樹のスマホが震えだす。


 着信者を確認すると、加藤から電話がかかってきていた。


 正直今は誰とも話したくない気分だったのだが、相手が事情を知っている加藤なら電話にでないわけにはいかず、軽く深呼吸をしてから通話ボタンをタップした。


「もしもし? 愛菜? どうしたの?」

「あ! 志乃! 今どこにいるの!?」

「どこってO駅のホームで、電車を待ってるところだけど?」

「よし! 間に合った!」


 加藤の声に焦りと安堵が混じっている。


「間に合ったって?」


 加藤の言っている意味が分からない瑞樹は、首を傾げながらどういう事なのか説明を求めた。


「志乃! 今すぐこっちに引き返してきて!」


 だが、加藤は瑞樹の質問を無視して、用件を一方的に投げかける。


「ちょ、ちょっと! 先に一体どういう事なのか説明してよ!」


 瑞樹が再度強く説明を求めると、加藤は今日中にあの事を間宮に話さないと、もう話すチャンスがないかもしれないと答えた。

 間宮はゼミの講師なのだから、明後日以降なら、いつでも会えるはずだと話す瑞樹に、加藤は衝撃な事実を話し始めた。


「志乃と別れてから、間宮先生の知り合いの松崎って人に声をかけられて話したんだけど、間宮先生って本当は講師じゃなかったの!」

「……え?」


 困惑している瑞樹に、加藤は詳細を話し始めた。


 間宮はゼミの講師ではなく、天谷のゼミを担当しているIT関連の営業マンで松崎とは同僚だという事と、今回の合宿では天谷の要請を受けて講師として同行していただけという事。


 そして明日からは会社員に戻って、ゼミには殆ど出入りしなくなる事を伝えた。


「……」


 瑞樹は絶句して、言葉が出てこなかった。


「もしもし? 聞いてる? 志乃って間宮先生と連絡先の交換ってしてたっけ?」

「……ううん……してない」

「やっぱか! 松崎って人に教えて貰おうとしたんだけど、本人の許可がないと教えられないって断られたんだ。間宮先生に確認して貰おうともしたんだけど、携帯のバッテリーが切れてしまってるみたいで……」


 加藤は言葉に焦りを滲ませながら、これから一緒にゼミに戻り打ち上げ会場の場所を聞いて、間宮に会いに行こうと提案した。


「……ありがとう、愛菜……でも、もういいよ」

「は? 何言ってんの!? 諦めたとか言わないよね!」


 加藤は語尾を荒げて、瑞樹を問い詰めた。


「これ以上誰かに助けて貰ったりしたら、この先も自分では何も出来ないような気がするんだよ」


 合宿で間宮と再会してから、瑞樹はいつも誰かに助けて貰ってここまで来た。

 皆の気持ちは勿論嬉しかったが、同時に助けられないと何も出来ない自分に嫌気がさしていた。


「自分の間違いにケジメをつける為なのに、そんなの変じゃない……だから、せめてここから先は私だけで何とかしたいんだ。もし会えなかったら、それが運命だと思うから……」

「――」


「気持ちは本当に嬉しいんだよ……でも、愛菜には分かって欲しいって思う」

「……そんな言い方されたら、もう何も言えないじゃん……ズルいよ」

「ごめんね、愛菜……助けて貰ってばかりなのに、我儘言って……」


 電話越しに謝っていると、ホームに待っていた電車が滑り込んできた。


「……わかった! 志乃がそういうなら、私は見守る事にするよ。でも、何か手伝える事があったら、絶対に遠慮なんかしないで言ってね!」

「うん! ありがとう。じゃあ、電車が来たから行くね」


 加藤にそう告げて電話を切った瑞樹は、重い荷物を引っ張り電車に乗り込んだ。



 (――私にけじめをつけさせて貰えるように、運命の神様に期待しよう)



 ◇◆



「あ! いたいた! 間宮先生!」


 打ち上げ会場に天谷が指定した店の前で、ポツンと1人で待っていた間宮の元に、奥寺達が駆けつけて声をかけた。


「一緒に行こうって言ってたのに、どうしたんですか? 駐車場を探し回りましたよ!」

「そうでしたね……うっかりしてました。すみません」


 後頭部に手を当てて、約束をすっぽかした奥寺達に謝った間宮は、苦笑いを浮かべていると、店の中からスタッフがひょっこりと姿を現して、講師達に準備が出来たと店内に招いた。


 打ち上げ会場に、講師やスタッフが全員揃った事を確認した天谷は、グラスを片手に挨拶を始めた。


「長期の合宿お疲れ様でした。皆さんの労をねぎらう為に、細やかではありますが、打ち上げとしてこの場を用意させて頂きました。今夜は沢山食べて、飲んで疲れを癒して下さい」


 天谷はグラスを講師やスタッフ達に向けて「お疲れ様!」と音頭を取ると、全員グラスを高く持ち「お疲れ様でした!」と応え、グラスに注がれたそれぞれの飲み物を飲み干して、拍手したのを合図に打ち上げが始まった。


 この後、正規雇用の合否発表がある事は、事前に告知を行っていて全員周知しているはずなのだが、各テーブルから重い空気を感じるどころか、笑い声を聞いた天谷は頼もしそうに、講師達を眺めていた。


 それは間宮達のテーブルも同様で、現地でよく酒を酌み交わしていた奥寺達と談笑しながら、料理に舌鼓を打っている。

 そこへ各テーブルへ、講師達の労をねぎらって回っていた天谷が、間宮のテーブルを訪れた。


「皆さん、お疲れ様でした!」

「お疲れ様でした!」


 天谷を奥寺達が迎えて、グラスを突き合わせた。


「合宿はどうでしたか?」

「はい! 凄くいい経験が出来たと思います!」


 奥寺はこの8日間を振り返り、満足そうに合宿の感想を述べると、藤崎もクスっと笑みを浮かべて、奥寺に続くように口を開いた。


「そうですね……誰かさんの影響で、純粋に生徒達の為に講義を行えた合宿だったと思います」


 そう話した藤崎は、ニヤリと間宮に笑みを向けた。


「ふふふ……だそうですけど、間宮先生はいかがでしたか?」

「えぇ、生徒達と講師の方々が真剣に合宿と向き合っておられたので、僕はその流れに乗せて頂いたって感じでしたね」

「それはこちらの台詞ですからね!」


 間宮が目の前にいる講師達を、誇らしく見渡しながらそう答えると、奥寺が苦笑いを浮かべながらツッコミ、藤崎も両手を腰に当てて続く。


「ホントですよ! 私なんて初日に叱られたんですから!」


 藤崎は自虐ネタで間宮達の笑いを誘ったが、天谷はこの場に似合わない表情で口を開いた。


「確かに間宮先生に影響を受けたかもしれませんが、それでも実際に変わられたのは、皆さんが努力した結果ですよ……詳細を知らなくても、最終日の生徒達の顔を見るだけで、十分に伝わってきました。許されるなら、今年は全員採用したい気持ちです……ですが経営事情もあり選ばないといけない事を許して下さい」


 天谷は経営者としての立場を訴えかけ、深く頭を下げた。


「い、いえ! 初めからそういうお話だったんですから、社長が謝る必要はありませんよ!」


 頭を下げる天谷に村田がそう声をかけると、ありがとうと言い残して天谷は次のテーブルへ向かった。


 実際苦渋の決断を迫られる事は、嬉しい悲鳴なのだろう。


 だが天谷の人間性を理解している間宮にとっては、辛い気持ちだというのも嘘ではないのだろうと、天谷の背中を見送りながら心中を察した。


 間宮達はその後も、合宿の事を振り返りながら美味い酒を飲んで談笑していると、マイクを通してスピーカーから天谷の声が響き渡り、講師達は秘書の西山と並んで立っている天谷に体を向けた。


 いよいよだと、ついさっきまでの笑顔を消した講師達は、手に持っていたメモに視線を落としている天谷に、真剣な眼差しを送った。


「あまり引っ張るとお酒が美味しくないでしょうから、これより今年度の正規採用合格者の発表に移らせて頂きます」


 会場の雰囲気が一瞬で変わり、ピンと張り詰めた空気が会場全体を支配する。

 講師達の緊張感が伝染したのか、関係ない間宮も思わずゴクリと喉を鳴らした。


 天谷からマイクを受け取った西山が、メモを確認しながら口を開く。


「それでは正規雇用者の合格発表を、科目順で私から発表させて頂きます。呼ばれた方は、バッジを社長の方からお渡ししますので、前の方に出てきて下さい」

「はい!」


 講師達の返事を受けた西山は、ついに採用者の結果を話し始めた。


「それでは、まず数学担当から発表します。数学担当採用者 奥寺 勇先生!」

「はい!!」


 大きな拍手と共に、奥寺は引き締まった表情で、大きく返事をして胸を張って天谷の元へ向かった。


「続いて、国語担当……」


 数学担当の発表を皮切りに、順序良く次々と採用者が発表されていく。


 歓喜に喜ぶ者、覚悟していたとはいえ、不採用を告げられてうなだれる者と様々だったが、西山はこんな光景に慣れているのか表情を変えずに淡々と発表を続ける。

 そして最後の英語担当の発表を残すのみとなった時、藤崎の両手は拍手をする構えを作っていた。

 間宮が採用されると確信していた藤崎は、誰よりも早く気持ちを込めて、大きな拍手を送って祝福するつもりだったのだ。

 思えば、自分を負かした相手を祝福する事になるなんて、合宿が始まった頃は想像もしていなかった。


 でも、採用者が間宮なのであれば、藤崎は誇らしいとさえ思えた。


 悔しい気持ちがないわけでないだろうが、来年この悔しさをバネに目標とする人と一緒に仕事が出来るように、頑張っていこうという気持ちが大きいのだ。


「では、最後に英語担当を発表します」


 発表される前から、周りの講師達は間宮に視線を向けている中、西山の口から発せられたのは、意外な名前だった。


「英語担当採用者 藤崎 真由美先生」


 西山の口から、何か聞こえた時点で藤崎は両手を力強く叩き、大きな拍手を送った。


 だが、すぐに拍手をしているのが自分だけで、周りは誰も拍手を送っていない事に気付く。


 間宮が採用されるのは、合宿に参加した講師なら当然だと誰でも思っていたから、拍手など必要がないという事なのか。


 もしそうなら、許し難い行為だと、藤崎は胸の内がざわざわと震えだした。


 当然の結果を得たのは、本人が努力を怠らなかった結果であって、決して楽をして得た権利ではないのだ。


 他の講師達に文句の1つでも言ってやろうと、拍手をしている手を止めた時、周囲の視線が合格者の間宮ではなく、自分に向けられている事に気付いた。


「おめでとうございます。藤崎先生」


 後方からそう声をかけられた藤崎は、ゆっくりと何かを確かめるように振り向くと、そこには驚き過ぎて目を大きく見開き、口を鯉のようにパクパクと動かしているだけで言葉が出ていない村田と、ニッコリと微笑む間宮が立っていた。


「……え?」


 (おめでとう?何を言っているんだろう……。めでたいのは間宮先生であって、私じゃないでしょ!)


 藤崎は状況が全く飲み込めず、間宮の名を言ったであろう秘書の西山を見た。


「藤崎先生、前の方に出てきて貰えますか?」


 藤崎と目が合った西山は、他の合格者と同様に前に出てくるように促してきた。



 (合格したのは間宮先生じゃなくて……私?)



 ようやくその事を自覚し始めた藤崎は、前に出てくるように言っている西山に背中を向けて、間宮に詰め寄った。


「何故、私がおめでとうなんて言われないといけないんですか!?」

「何故って、藤崎先生が採用されたからじゃないですか」

「こんな結果おかしいですよ! 間宮先生だってそう思うでしょ!? どう考えたって英語の担当者は間宮先生一択だったはずです! これは一体どういう事なんですか!?」


 藤崎は声を荒げて、間宮に問いただした。


 藤崎が取り乱すのは無理もなかった。


 藤崎だけではなく、講師達全員が満場一致で英語の担当者は間宮だと、誰も疑わなかった事からみても、あまりにも不自然な結果だったからだ。


 だが間宮だけは、当然だと言わんばかりに笑顔を絶やさない。


「この結果はどこもおかしい所なんてありませんよ。藤崎先生が合格したのは当然の結果です」

「これのどこが当然なんですか! まさか私に同情して採用を辞退したんじゃないですか!? そんな事して私が喜ぶとでも!?」


 藤崎は間宮の胸に、人差し指を突き当てて睨みつける。


 間宮は少し驚いた顔をしたが、直ぐに笑みを零しながら、突き当てられた藤崎の指を優しく触れて下ろし、その手を両手で包み込むように握った。

 手を握られた藤崎は、顔を赤らめ恥ずかしそうに身を縮め、虎から猫へ変身してモジモジと黙り込んだ。

 藤崎が大人しくなったところで、間宮は藤崎越しに見える天谷に視線を移して口を開く。


「社長! もう話してしまっても、構いませんね?」


 藤崎が間宮に詰め寄った様子を可笑しそうに眺めていた天谷は、間宮の訴えにコクリと頷く。


「えぇ、勿論です。もう隠しておく必要はありませんから」


 天谷の言質を取った間宮は、再び顔を赤らめて俯いている藤崎と向き合った。


「藤崎先生、僕は貴方に同情して辞退なんてしていません」


 間宮がそう話しかけると、藤崎は上目遣いで間宮を見上げた。


「藤崎先生が採用されたのは、合宿での内容を考えると当然の結果なんですよ」

「い、いえ! 合宿の内容からいったら、間宮先生が……」

「何故!」

「え?」


 間宮の話を否定しようとした藤崎の言葉を、間宮が途中で遮った。


「何故、僕が採用されなかったのかですが、理由は簡単な事です」

「簡単な理由?」

「えぇ。それは僕が始めから、採用試験の対象者ではなかったからですよ」

「――は?」


 当事者である藤崎を含めた講師達全員が、ハトに豆鉄砲を喰らったような顔で言葉が出ず、唖然と立ち尽くしていた。


「ど、どういう事なんですか!? え? 間宮先生も1次面接をパスして、最終採用試験を受ける為にこの合宿に参加したんですよね!?」


 間宮の衝撃発言に思考が追い付かない藤崎は、合宿に参加していた経緯の確認をとると、間宮はゆっくりと首を左右に振った。


「いいえ、違います。僕は天谷社長に合宿の間だけ、講師として同行して欲しいと頼まれただけなんです」

「……へ? 頼まれた……だけ?」

「はい。僕の肩書は、IT機器を開発から販売まで一貫して行っている、RAIZUという企業の営業マンなんですよ」

「え? 営業? は?」

「天谷社長は、僕の大切なお得意様なんです」


 間宮が自分の正体を打ち明けると、事情を知っている天谷と西山を除く全員が驚きの声を上げた。

 周囲の反応を楽しむようにクスクスと笑みを零していた天谷が、間宮の告白に詳細な説明を付け加えようと、再びマイクを構えた。


「間宮先生から……ってもう先生はいらないわね。ゼミで使用しているタブレット端末や、OSに電子ボードに至るまでここにいる間宮君から購入したものなの! その間宮君がウチに売り込みに来ていたから、購入を検討する条件として、今回の講師の件を引き受けて頂いたんです」


 天谷の説明で、ようやく事情を理解出来た講師達だったが、藤崎だけはまだ腑に落ちない表情で天谷に問いかけた。


「で、でも、何故その事を隠していたんですか? 秘密にする理由が分からないんですが」


 その疑問には村田も同意のようで、黙って頷き天谷の返答を待った。


 その質問を事前に予想していたのか、天谷は合宿の初日に間宮を呼び止めて頼んだ内容と同じ事を、藤崎と村田に話て聞かせた。


「……なるほど、僕達に油断させない為に……ですか」


 村田が納得したように頷くと、天谷が話を続ける。


「これは私の一存で間宮君に頼んだ事なの。だから彼には非はない事だけは分かって欲しい」

「……間宮先生がそんな事をして影で笑うような人ではない事は、よく分かっているつもりですから」


 藤崎は黙ったままの間宮を見つめて、自信をもってそう言い切った。


「でも何だか始めから最後まで、天谷社長と間宮先生の掌で踊らされていた気分ですね……」


 自虐的な笑みを浮かべながら、溜息交じりにそう零す藤崎の表情は悔しそうだった。


「いえ! それは少し違いますよ、藤崎先生」

「え?」

「掌で踊らされていたのは、僕も同じですから……ですよね? 天谷社長」


 間宮がそう告げると、会場の人間の視線が天谷に集まった。


「ふふっ、どうしてそう思うのかしら?」

「それは僕に嘘をついたからですよ。面接で2人しか合格基準をクリア出来なかったからと言いましたが、本当は初めから2人だけしか合格させる気がなかったんじゃないですか?」


 間宮の推理に、天谷に視線を集めていた講師達が騒めき始めた。


「そうですね……その通りです」

「どうしてそんな事をしたのか、聞かせて頂けますか?」


 天谷は目を閉じて笑みを浮かべながらそう答えると、藤崎が天谷の考えを聞かせて欲しいと嘆願した。


「分かりませんか? 先程順番に感想を聞いて回ったら、殆どの方の口から間宮君の名前をあげていましたが?」


 天谷にそう投げかけられた講師達は、1つだけ思い当たる節があり目を見開いた。


「もしかして……私達講師の為って事ですか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る