第22話 仲間達との誓い……そして自分へのけじめ act 1    

 合宿最終日 早朝




 瑞樹はスヤスヤと静かに寝息を立ててぐっすり眠っていると、ジワジワと体に何かが乗っている様に重くなり、寝苦しくなってきた。

 それにお腹周りが妙に冷える感覚がある。


 瑞樹は我慢出来なくなり、瞼を開けて冷えるお腹周りに視線を向けると……。


「……え?」

「むにゃ……これだけあれば当分生活に困らないねぇ……へへへ」


 やたらとハッキリとした口調で寝言を言いながら、気持ち良さそうに眠っている加藤が、瑞樹のパジャマを捲りあげ両手で胸を鷲掴みして、顔を胸と胸の間に埋もれさせていた。


「ひ、うひゃい!!」


 驚き過ぎた瑞樹は、言葉にならない言葉を発した。


「ちょ、ちょっと、愛菜! 何してるのよ! てか、私の胸掴んでどんな夢見てるのよ! どうりでお腹が冷えると思った!」


 それから慌てて加藤を体から引き剥がしながら、必死に起こそうと声をかけたのだが、加藤は寝惚け眼で「ちぇ~!」と呟きながら、眠っていたソファーに体を預けて、また夢の中に落ちて行った。


「はぁ……はぁ……ホントに寝てたの?」


 息を切らす程、力いっぱい加藤を引き剥がしたせいで、すっかり目が覚めてしまった瑞樹は現状を把握する為に辺りを見渡てみると、テーブルの上には食べ物や飲み物のゴミが散乱し、テーブル周辺のソファーにこの部屋のメンバーが雑魚寝していた。


 (そうだった……結局電池が切れるまで、喋りつくしてそのまま寝ちゃったんだった……)


 昨夜の出来事を思い出した瑞樹は、深い溜息をついて全員起きたら朝食前に大掃除を覚悟していると、出窓から光が差し込んできた。

 窓から外を見てみると、芝生に降りた朝霧が朝日に反射して辺り一面をキラキラと輝かせて、幻想的な風景を作り上げていた。


「すごい! 綺麗な景色!」


 この綺麗な景色をもっと見ようと、瑞樹は他のメンバーを踏んでしまわない様に注意しながら、寝室へ向かった。

 7月下旬ではあるが、高原の早朝は肌寒く感じる為、薄手のジャージにパーカーを羽織って外に出た瑞樹は、鮮やかな朝日に照らされながら、肺いっぱいに空気を吸い込むと、朝霧の水分を含んだ空気が肺を満たしていく。

 肺に取り込んだ空気を、ゆっくりと時間をかけて吐き出す。


「空気が美味しい! すっごく気持ちいい!」


 瞳を輝かせた瑞樹の足は、自然と本棟のロビーを向けて施設の敷地外に出たところで、体をグッと伸ばしながら「そういえば」とワクワクした気持ちで歩みを進める。施設の外周にハイキングコースがあったのを思い出したのだ。


 ハイキングコースを暫く歩いていると、小鳥の囀りと木々の葉を揺らす音が瑞樹の心を和ませてくれた。

 約半周した所に休憩スペースだと思われる場所があり、そこから見える景色に瑞樹の目が更に輝かせる。


「うわ~! 綺麗! こんな景色東京じゃ絶対に見れないよ!」


 眼下には少し霧がかかり、幻想的な城ケ崎海岸が広がっていた。


 ここに何日も滞在していたのに、この景色を今になって知った事を後悔していると、コースの上の方から軽快な足音が聞こえてくる。

 こんな早朝に誰だろうと、絶景の景色から足音の方に視線を移すと、スポーツジャージに身を包んだ女性が坂を下りてくる。

 スレンダーな体型に、軽くウェーブがかかった髪を1つに纏めてキャップを深被りしたその女性は、走り慣れている感じでリズム良く気持ち良さそうに走っていた。


 (こんな時間からランニングしてるんだ!かっこいいなぁ)


 瑞樹はランニングしている女性に憧れの視線を向けていると、その視線に気が付いた女性が声をかけてきた。


「あら? 瑞樹さんじゃない! おはよう、早いのね」

「え? 藤崎先生?」

「そうよ? 瑞樹さんもロードワーク?」

「あ、おはようございます! いえ、私はたまたま目が覚めたから、外が気持ちよかったので散歩してただけです」

「そっか、本当にここ気持ちいいよね!」

「……はい」


 藤崎も瑞樹の隣で景色を眺めながら、気持ち良さそうに腕をグッと頭上に伸ばした。化粧を一切していない藤崎の顔から、朝日に反射してキラキラと綺麗な汗が零れ落ちていく。

 そんな藤崎の横顔を見ていると、昨日の夜の事を鮮明に思い出した。


「毎日走ってるんですか?」

「大体ね! 日頃からロードワークはルーティンになってるから、合宿に参加しているからってサボってると、何だか気持ち悪くてね」


 藤崎は片目を閉じて、舌を軽く出して笑った。


 (努力を惜しまない、こんな綺麗な人が私のライバルなんだ……)


 昨日までの瑞樹ならば、もしかしたら自信を無くしてしまっていたかもしれない。


 だが、加藤達の気持ちに応えると決心した瑞樹は、俯く事なく真っ直ぐに前を向いていると、藤崎が何かを思い出したように手をパンッ!と叩いて口を開いた。


「そうだ! 瑞樹さんに聞きたい事があったんだ!」

「え? なんですか?」

「今日の講義の事なんだけど、何故間宮先生の講義じゃなくて、私の講義を希望したの?」

「何故って……正直に言うとstory magicをもう一度受けたいって気持ちはありましたけど、間宮先生の講義で何故英語が苦手だったのか理解できた気がしたから、もっと知りたいって欲が出たんです」


 受験勉強と色恋沙汰は別の話だ。


 瑞樹は藤崎にそう含みをもたせるように話してから、今現在考えている自分の将来の事について話し出した。


「勿論、志望している大学が英語が必須科目になっているのもありますが、将来国際的なお仕事がしたいって考えてて、その為にも今は先を見据えて少しでも英語力を伸ばしたくて、藤崎先生を希望したんです」


 瑞樹は藤崎の目を真っ直ぐに見つめて、そう力強く話して聞かせた。


「……そう、それは素敵な夢ね。いえ、今の瑞樹さんなら夢ではなくて、目標と言ってもいいかもね」


 藤崎は将来の展望を真っ直ぐに話す瑞樹に、優しく微笑んだ。


「でも……フフッ 間宮先生の言う通りだったわ」


 藤崎がそう言って含み笑いを浮かべていると、間宮の名前が出てきた途端、瑞樹の目つきが変わった。


「間宮先生が、何か言ってたんですか?」


 藤崎は昨夜中庭で、間宮に自分の講義を瑞樹が希望している事を話した時の事を、苦笑いを浮かべながら話して聞かせた。


「そうですか……間宮先生がそんな事を」


 藤崎からそう伝え聞いた瑞樹は、嬉しそうに頬を赤らめて口角を上にあげた。


 そんな瑞樹を横目に、体を捻り筋肉を伸ばし始める。


「さてと! 私はもう少し走ってくるね! それじゃ、また後で!」


 そう言って再びコースへ戻ろうとした藤崎に「あ、待って下さい! 今日の最終講義も宜しくお願いします!」と瑞樹はそう言って頭を下げた。


「了解! 間宮先生にも宜しく言われてるからね! まかせて!」


 藤崎はウインクして、また軽快な足音を響かせて走り去っていった。


 今は何をやっても、藤崎に勝てる気がしないと、1度は落胆の顔を見せた瑞樹だったが、すぐに真っ直ぐ前を向く。


 今は追う立場でも、いつかは人間としても、女性としても必ず追い付き追い越してみせると、走り去る藤崎の背中に強く誓いを立てていると、突然ポケットに入れていたスマホが震えだした。


「あ、いっけない! もうこんな時間! 早く戻って皆を起こして部屋の掃除をしないと!」


 セットしていた時間になり、アラームが作動した事を確認した瑞樹は、慌ててコテージへ小走りで駆けて行った。


 ◇◆


 瑞樹達が大慌てで部屋の掃除に奮闘している頃、いつもの時間に起床した間宮は、自室で淹れたホットコーヒーを手に持って、美味しい空気を吸おうと中庭に向かっていると、施設の通路から中庭に出ようとした時、お気に入りのデッキチェアに先客がいる事に気付き足を止めた。


 (はぁ……やっぱりフラれたか……しかもフラれた原因が間宮先生とか……キツイよ)


 中庭でデッキチェアに腰を掛けて、溜息をついている先客は奥寺だった。


 奥寺は苦悩する。

 それは藤崎にフラれた事自体ではなく、講師としても男としても憧れの気持ちを持っていた間宮に、これからどう接すればいいのかと悩んでいたのだ。


「おはようございます、奥寺先生」


 奥寺がブツブツと呟いていると、不意に聞き覚えのある声に話しかけられてビクッと思わず座っていた椅子から立ち上がり、慌てて声がかかった方に振り向くと、湯気が上がる紙コップを手に持った間宮が立っていた。


「お、おはようございます……間宮先生」


 奥寺は悩んでいた張本人の顔を見て、気まずそうに挨拶を返す。


「隣よろしいですか?」

「あ、あぁ、どうぞ!」


 奥寺は隣のチェアに手を向けて、自分も腰を下ろした。


「ありがとうございます。失礼します」


 いつものように、柔らかく微笑んで椅子に腰を下ろした間宮は、手に持っていた珈琲を一口飲んで一息ついた。


 奥寺は何か話題をと思考を巡らせていると、間宮が持っているカップから湯気が立ち上がっているのに気付いた。


「夏場でもホットなんですね」

「ええ、朝の珈琲だけは季節関係なくホットなんですよ。アイスコーヒーだとジュースみたいに一気に飲んでしまって、リラックス出来ないもので」


 間宮は珈琲の表面をじっと見つめながら、そう答えて珈琲を口に含んだ。


「何となく分かります。確かに朝は時間に追われる事が多いですが、それでも気持ちを落ち着かせたいって時ありますよね」

「そうなんですよ。だから忙しい朝でもこの時間は大切にしたいので、極力早く起きるようにしているんですよ。眠くて辛い時もありますけどね」

「僕は少しでも寝ていたいので、真似できそうにないですね」


 間宮と奥出は顔を見合わせて、苦笑いを浮かべ合う。

 それから暫く沈黙が流れたのだが、すぐに決意した顔つきになった奥寺が沈黙を破った。


「あの……間宮先生。少しだけお話聞いて頂けませんか?」


 組んでいた奥寺の両手にグッと力が入った。

 間宮は横目でそんな奥寺を見て、少し間を取ってから口を開く。


「お話とは、藤崎先生への告白の件ですか?」

「え!? 何故それを!」


 驚いて立ち上がった奥寺に、間宮はあの現場に偶然出くわしてしまった事を説明した。


「盗み聞きするつもりはなかったのですが……すみません」


 間宮は申し訳なさそうに、頭を下げた。


「そうでしたか……でも、そうか……あの見苦しい玉砕現場を見られちゃいましたか」


 奥寺は自虐的な笑みを浮かべた。


「玉砕? 断られたんですか?」

「え? あの時の会話を聞いてたんですよね?」

「奥寺先生の告白は聞いていましたが、藤崎先生の返事まで聞いてしまったら、本当に申し訳ないので返事が返ってくる前に、タイミングを計ってあの場を離れたので結果は知らなかったんですけど」


 自分が早とちりした事を知って、恥ずかしそうに間宮から目を逸らした。


「そ、そうですか……それは余計な事を喋っちゃいましたね。お恥ずかしい限りです」


 恥ずかしそうに俯いている奥寺に、間宮はゆっくりと立ち上がって奥寺の前に立った。


「何が恥ずかしいんですか? 奥寺先生の告白凄く格好良かったですよ! あんなに真っ直ぐ気持ちを伝えられた奥寺先生を、僕は羨ましいって思いました」


 (羨ましい……か)


 それは奥寺が間宮に抱いている気持ちだった。


 藤崎に好意を抱かれている奴が何を言ってと、奥寺の口からそう言葉が出て行こうとした時、間宮が先に続けて話し出した。


「年齢を重ねる度に、色々な柵が邪魔して真っ直ぐに人を好きになれなくなってきているんです……だから僕は……あの時の奥寺先生を本当に羨んでたんです」


 奥寺は柔らかい笑顔でそう話す間宮の目の奥に、深い悲しみの色が見えた気がした。

 きっと間宮には間宮の事情があり、羨ましいと言った言葉にも深い理由があるのかもしれないと悟った時、奥寺の口から発せられた言葉は変わっていた。


「……そう言って貰えたら、何だか救われた気分になりますね」

「別に弁護したつもりはありません。本心を言わせて頂いただけですから」


 やはりこの男に憧れる。


 嫉妬なんてしてる場合じゃない。


 少しでも、この人に追い付きたい。


 そう決意を固めた奥寺は「ありがとうございます」と握手を求めた。


 間宮は何も言わずに、差し出された奥寺の手をガッシリと握って笑顔を向けた時、不意にガラス製のドアをノックする音がして、間宮と奥寺はノック音がする方へ振り向いた。


「何を朝っぱらから、そんな所で男同士で手を繋いで見つめ合ってるんですか? 生徒達が見たら変な噂がたっちゃいますよ!」


 そこには夏らしい水色のワンピースに、白のサマージャケットに身を包んだ藤崎が苦笑いを浮かべて立っていた。


「おはようございます、藤崎先生」

「おはようございます! 間宮先生、奥寺先生」


 間宮は柔らかい笑顔を藤崎に向けると、藤崎も2人に笑顔で挨拶を返した。


「お、おはようございます。藤崎先生……け、今朝は何時にも増してお綺麗ですね」


 奥寺は気まずさを誤魔化そうと、今朝の藤崎の容姿を褒めようとしたのだが、やはり昨日今日では無理があったようだ。


「ありがとうございます。今日は東京へ帰るので、いつもの恰好だと流石に恥ずかしいですからね」


 その気まずさを払拭させるように、藤崎は言葉を選びながらも、普段通りに奥寺と接するように努めた。


「そ、そうですね……今日で皆さんとお別れなんですね……何だか寂しいです」


 最終試験で合格すれば、何人かとは今後もゼミで顔を合わせる事になる。


 だが不採用になった講師とは、今日で別れる事になるのだ。


 合宿が始まった当初は、毎日が必死でそんな事を考えている余裕はなかった。


 というより、自分以外はライバルで蹴落とさないといけない相手だったのだから、気にする必要がなかったのだ。

 だが、そんな流れを目の前にいる間宮が大きなうねりを作り、藤崎がその新しい流れを整えた。

 この2人は似合い過ぎていて、自分が割り込める隙間なんて皆無なんだと、今更のように痛感した。


「ホントですね。ここに来た時は、正直皆さんとこんな仲間意識を持つなんて、想像もしてませんでしたから」

「藤崎先生なんて、間宮先生にいきなり睨みを利かせてましたもんね」

「うぅ……それを言われると……ふふ!」

「ははは!」


 奥寺と藤崎は、告白する以前のように笑い合った。


 (これでいい!)


 間宮と藤崎がしてきた事を実感出来た今なら、フラれた事にもスッキリと納得できる気がした。

 今するべきことは、最後まで気を抜かずに講義を完結させて正規雇用を勝ち取り、恐らく採用されるであろうこの2人に追い付く為に、ゼミでも頑張り続ける事なんだと、奥寺がそう決意表明を自分の中で立てていると、藤崎が「で!」と言いながら隣のデッキチェアでそっぽを向いて、珈琲を飲んでいた間宮の頭に肘を乗せた。


「いて!」


 コツンと頭に乗せてきた、肘の持ち主である藤崎を見上げた。


「間宮先生? 私今日はこんな格好でもいいですよね?」


 間宮のリアクションを楽しむように、ニヤリと笑みを浮かべた藤崎は、自分の服装に理解を求めた。


「はい? 何故その事に僕の許可が必要なんですか?」


 間宮にキョトンと首を傾げられて、質問を質問で返された藤崎の目つきが鋭くなっていく。


「はぁ!? 間宮先生に人気取りみたいな恰好してないで、もっと生徒達の事を考えろって叱られたから、翌日から目立たない恰好をしてたんじゃないですか!」

「えぇ!? 間宮先生! 藤崎先生を叱ったんですか!?」


 少し剣幕に抗議している藤崎を見て、奥寺が驚きの声を上げたが、当の本人は頬をポリポリと掻いて苦笑いを浮かべていた。


「あ、あぁ……そんな事もありましたね。すみません……忘れてました」


 間宮の返答に、流石の藤崎もカチンときて声の音量が上がる。


「あのね! ま……」

「――でも」


 藤崎は思い切り文句を言ってやろうと、左手を腰に当て右手の人差し指を間宮に突きつけて口を開きだした時、間宮は途中で藤崎の言葉を遮った。


「翌日からの藤崎先生の生徒達の対応と、講義が素晴らしかったので、初日の藤崎先生の事を忘れてたんですよ」

「……え?」

「でも、今日の藤崎先生も綺麗で素敵ですよ」


 間宮の台詞を聞いて、人差し指を突き付けたまま暫く固まっていた藤崎は、ゆっくりと手を引っ込めて両手をモジモジと絡ませた。


「そ、そうですか? 気に入って貰えて嬉しいです……ありがとうございます」


 間宮に総口撃を仕掛ける勢いだった藤崎だったが、間宮の一言で虎から子猫へ変貌させられた。


 (はは!あの藤崎先生がここまで振り回されるなんてな……それにこの人は彼女を叱ったのか……敵わないわけだ)


 2人のやり取りを目の当たりにした奥寺は、苦笑いを浮かべて完全敗北を受け入れて、真っ直ぐに2人を見て声をかけた。


「間宮先生! 藤崎先生! もういい時間ですし、このまま朝食にしませんか?」


 奥寺に声をかけられた藤崎は、乙女モードになっていた事に気付きコホンと咳をして、慌てて気持ちにリセットをかけた。


「そ、そうです! その事をお2人に言いに来たんでした! 最後くらい講師達全員で一緒に食べようって誘いに来たんですよ」

「お! それはいいですねぇ! 間宮先生もいきましょうよ!」


 間宮は残りの珈琲を飲み干して、ニッコリと微笑んだ。


「そうですね。では食堂へ行きましょうか」


 3人は仲良く談笑しながら食堂に向かうと、もうすでに生徒達が元気に朝食を摂っていた。


「この光景も、今日で見納めなんですね」


 間宮は賑やかな食堂の光景を眺めながらそう呟くと、藤崎と奥寺は「はい」とだけ告げて、生徒達に目を細めていた。


 朝食をトレイに受け取り、他の講師達が待っているテーブルに合流した。


 その席では投票制の結果や、最後の講義の内容、それにこれまでの講義を行ってきた傾向と対策等、色々な情報交換を行いながら、講師全員が顔を合わせながら朝食を摂った。


 この合宿が始まった頃からは、考えられない光景だった。


 藤崎や奥寺だけではなく、ここのいる講師達は自分が生き残る事だけを考えていたはずだったからだ。

 しかしこの流れをぶった切ったのは、くだらないと批判した間宮だった。

 そんな間宮から大きな影響を受けた講師達は、気が付けば敵としか見ていなかった講師達と、こうして向かい合って食事をしている。


 この合宿に間宮を同行させた、天谷の狙いはこれだったのかもしれない。


 間宮の存在が講師達の良い刺激になり、いつの間にか講師達の視界が広がった。

 そんな講師達の一致団結した流れを作ったのは、間違いなく間宮だ。


 間宮のstory magicに感化された講師達は、生徒達の事を考えたプランニング、講義の質の向上、講師自身の向上心を徹底的に高めて、今ではどこのゼミに出しても、恥ずかしくないハイレベルな講師に成長を遂げていた。


 そんな講師達の間で、生徒達が作ったstory magicとは別に、新たに『間宮イズム』という名称が生まれいた事を間宮は知らない。


 間宮イズムを習い、講師達の熱い討論を見ていた周りの生徒達は、本当に心強いとこの合宿で関わった講師達を誇らしく見つめるのだった。

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