第9話 恋心
合宿 5日目
「おはようございます! 間宮先生! ご一緒していいですか?」
「おはようございます、藤崎先生。えぇ、勿論です」
藤崎が食堂で謝罪した日から、間宮は夕食の席では招かれた席で生徒達と食事をしているのだが、朝食の時は小さなテーブルで食事をするようになっていた。
その事にいち早く気が付いた藤崎は、間宮の向かい側の席が埋まってしまう前に、なるべく早く食堂へ向かい一緒に間宮と食事をする事が、何よりの楽しみだった。
朝食を済ませた藤崎は、淡い期待を胸に抱き、この朝食の流れについて間宮に質問を投げかけてみる事にした。
「あ、あの、以前は生徒達と食事をしていた間宮先生が、何故一人で食事するようになったんですか?」
「それは、藤崎先生を待っているからですよ」
「え、え、えっ!? そ、それって……」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきそうな程、藤崎は緊張した面持ちで間宮が言った言葉の意味を問う。
「講義が始まる前に、同じ教科の藤崎先生と打ち合わせが出来ますからね」
ニッコリと微笑み、そう答える間宮に藤崎は溜息をつく。
「……ですよねぇ」
「はい?」
「……いえ、何でもありません」
拗ねたように口を尖らすと、間宮はキョトンと首を傾げてた。
(私がここまでモーションを起こすなんて、今まで一度もなかったというのに……鈍いにも程ってものがあるわよ!まったく……)
「そういう事なら、僕もこのテーブルに交じる資格はありますよね?」
不意にそう声をかけられて、間宮達のテーブルの前に感じた気配を辿るように視線を上げると、そこには村田がトレイを持って立っていた。
「おはようございます! 間宮先生、藤崎先生! 僕もご一緒させてもらってもよろしいですか?」
「おはようございます、村田先生。勿論ですよ!」
間宮が村田を受け入れようとしたのが気に入らない藤崎は、村田の同席を阻止する為の言い分を瞬時に考え付く。
「あ! でも、このテーブルには椅子が2脚しかありませんし、テーブルもこれ以上はトレイを置くのも窮屈ですし……」
確かに藤崎が言うように、椅子が足りない上にテーブルも大きくはなく、3人で食事をするには無理があった。
それに空いている席といえば、長机のテーブル席に所々に空席があるだけで、間宮達が座っているテーブルのような少人数のテーブル席は満席の状態だった。
これで間宮との朝食を邪魔されずに済むと藤崎が安堵した時、隣にある4人用のテーブルを使っていた生徒達が食事を終えて席を立ってしまった為、お誂え向きのテーブルが空席になってしまったのだ。
「あぁ、それなら丁度あそこのテーブルが空いたので、そこに移動しましょうか」
村田の同席を歓迎している間宮がこの状況を見逃すはずはなく、あっけなく藤崎の野望は打ち砕かれる結果になる。
2人が席から立ち上がり隣の席へ移動を始めた時、村田と藤崎がすれ違い際に「お邪魔してしまってすみません」と村田が小声で話しかけてきた。
「いえ、村田先生が悪いわけではないので」と藤崎も小声で返事をした。
そうだ!何も事情を知らない村田でさえ、すぐに空気を読んで謝ってきたのに、肝心の間宮が鈍いのが悪いのだと藤崎はまた溜息をつきながらも、せめてこれだけはと、間宮の隣の席だけは死守して席に着いた。
「早速なんですが、Bクラスの今日の単元で、お2人の意見を聞かせてもらいたい事がありまして」
「はい、なんでしょうか?」
村田が今日の単元に関する資料を2人に手渡した。
「この単元についてなのですが……」
村田の顔は真剣そのもので、昨日までとは打って変わり生徒達を主体に考えている質問内容だった。
その質問に対して間宮がアドバイスをしていると、講義の事となると3人での食事を渋っていた藤崎も、いつの間にか熱く意見を交わしていた。
3人のそんな光景を目の当たりにした他の教科担当の講師達は絶句した。
確かに以前天谷に言われたように、争っているのは講義の結果だけであって、周りの講師の全てを否定する必要はないという言葉は理解出来た。
だが、その唯一競っている講義そのものを共有するのは、有り得ない事だと考えるのは当然だった。
そんな視線など気にする素振りを見せずに、熱の入った意見交換を続ける3人を見続けていた講師達は、あの3人の真似は出来そうにないが、少し羨ましいと微笑んで眺めていた。
◇◆
合宿も5日目ともなると、精神的にも肉体的にも慣れてきたのか、生徒達の集中力も増して、受験勉強も凄く捗っているようだった。
そんな生徒達に呼応するように、各教科の講師達の熱も日を追うごとに増していき、まさに講師と生徒の一体感が生まれて充実した合宿が行われていた。
騒動を起こしてしまった村田も、翌日から人が変わったかのように生徒達に気を配り誰一人として突き放す事もなく、まだぎこちない感じはあるものの、真剣に自分が展開する講義を理解してもらおうと努めている。
この一体感こそが、天谷が目指した自慢の合宿だと言う由縁なのだろう。
日中の講義を終えて夕食を済ませた後も、瑞樹はいつものようにルームメイト達と自主学を時間いっぱいまで行い、自室であるコテージに向かって歩いていた。
歩きながらタブレットを開いて、皆で問題を解いたりと本当に勉強一色の生活だったが、不思議と誰1人としてこの生活に嫌気がさす者はいなかった。
そんな仲間達と充実した時間を過ごしているというのに、瑞樹の望まない人物が突然目の前に現れた。
「み、瑞樹さん!」
瑞樹と一緒にいた同室メンバー全員が、瑞樹を呼ぶ声がした方に振り返ると、そこには緊張した面持ちの佐竹が立っていた。
「あっ! 佐竹じゃん!」
「こ、こんばんわ……加藤さん」
加藤と佐竹のやり取りを見ていた瑞樹は、嫌な想像を巡らしながらも親しそうに佐竹と話す加藤に話しかける。
「な、なに? 愛菜って佐竹って人と知り合いなの?」
「え? あぁ! うん! 3年になるまでゼミが同じ曜日でさ! 早く講義が終わった日とかに、時々勉強を教えて貰ってたりしてたんだ」
「へ~、そうなんだ」
瑞樹は益々嫌な想像を膨らませていると、加藤は再び佐竹に視線を戻した。
「それで? 志乃に用事?」
「あ、あぁ……うん。そうなんだ」
加藤は瑞樹の肩にポンと手を置き、ニヤリと笑みを浮かべる。
「だってさ!」
「う、うん」
加藤の顔が物凄く気に入らなかったが、その加藤と知り合いだというのなら、何時ものようにバッサリと断る事が出来ない為、どうやって断ろうかと思案していると、加藤が勝手な判断を下した。
「おっけ! もう後はお風呂に入って寝るだけだったから、志乃はここに置いていくね!」
「は? ちょ、何言ってるの! 愛菜!」
瑞樹の意志を無視して、勝手な事を佐竹に告げた加藤の返事を否定しようとしたが、加藤は慌てる瑞樹の耳元に顔を寄せて呟く。
「まぁまぁ! 前にアプリで送ったと思うけど、前から自由時間になる度に志乃の事をあちこち探し回っていたみたいだし、話を聞く位いいんじゃない?」
加藤はそう話してから、瑞樹の返答を待たずに軽く背中を押した。
「あ、あのね! 愛菜! 他人事だと思って!」
瑞樹はすぐに振り返り加藤に文句を言ったのだが、当の本人は既に他のメンバー達の背中を押して、コテージに向かって歩き出していた。
「ちょっと! 愛菜!」
加藤は瑞樹の呼び止めにも足を止める事なく、手をひらひらと振って立ち去ってしまった。
(愛菜め!明日起こす時、問答無用で脇腹くすぐってやるからね!)
瑞樹は加藤の背中を恨めしそうに眺めながら、小さな復習を誓った。
チラリと取り残された佐竹を見ると、照れ臭そうに後頭部を掻きながら俯いている。
瑞樹は観念したのか、溜息をついて佐竹と向かい合った。
「それで? 何か用ですか?」
瑞樹はご機嫌斜めな気分を隠す事なく、露骨に感情を顔に出しながら立ち尽くしている佐竹に改めて用件を尋ねた。
「あ、うん……疲れている時にごめんね。あの……ここはまだ人通りが多いから……その、中庭までいいかな?」
佐竹は中庭のデッキチェアがある方向を指さして、瑞樹を誘った。
「人がいると困る事をするつもりじゃないでしょうね!」
「ま、まさか! そ、そんな事するわけないじゃん!」
佐竹は顔を真っ赤にして、全力で瑞樹の疑いを否定した。
誘った返事を待たずに佐竹は中庭へ歩き出した為、瑞樹も渋々佐竹の後ろをついていく事にした。
佐竹の後を追って中庭に出た瑞樹は、近くにあったデッキチェアに腰を下ろす。
遅い時間だった為、夕刻の時より風が少し冷たく感じたが、相変わらず気持ちの良い風が吹き抜けている。
その柔らかい風に、瑞樹の綺麗な髪がまるで踊る様に揺れる。
満天の星空を見上げている瑞樹の顔が、月明かりとランタンの優しい灯りに照らされて、まるで美しい絵画のような神秘的な雰囲気を漂わせる。
長い髪をそっとかき上げる仕草が妙に色気を放ち、佐竹の心を鷲掴みにして離さない。
そんな瑞樹に魂を抜かれたように立ち尽くして、佐竹はただ見惚れていた。
何も話さない佐竹に不信感を持った瑞樹は、少し口調を強めて話しかける。
「用があるのなら、早くしてもらえませんか? 私も早く休みたいんですけど!」
瑞樹にそう言われて、ようやく我に返った佐竹は慌てて用件を話し出す。
「あ、はは! 相変わらず冷たいなぁ……あ、あのさ! 7日目の夜に行く祭りの事なんだけどさ……約束してくれた通り、一緒に回ってくれるんだよね?」
「……は? お祭り? 約束って?」
瑞樹は佐竹の言っている意味が解らずに、首を傾げて思考を巡らせるが、全く思い当たる節がない。
嫌な予感しかしない……。
瑞樹はそう直感した。
下手に肯定すると取り返しがつかない気がした瑞樹は、無難に質問を質問で返す事にした。
「えっ? この間一緒に帰った時、電車で誘ったの覚えてないの?」
やはり嫌な予感は的中したようだ。
どうやらO駅で間宮を目撃して、同じ電車に乗ってからも全神経を注いでいた時に誘われたらしい。
佐竹の話を全く聞かずに適当に相槌を打っていたら、会話が成立してしまったようだ。
(そもそも合宿中に祭りがあるなんて、たった今知ったばかりなのに……。
そういえば、スケジュール表は初日と最終日だけチェックして、後は毎日同じスケジュールだと思い込んで、ろくに見ていなかった気がする)
佐竹の話によると、7日目の夜はイベントとだけ記載されているのだが、1~2年生は肝試しを行い、3年生は施設のマイクロバスで移動して地元の夏祭り見物をする事になっているのだそうだ。
その後は施設に戻り1~2年生と合流して花火大会を開催するのが恒例になっているらしく、佐竹は去年も合宿に参加していた為その事を知っていて他に先を越される前にと、事前に一緒に祭りに行こうと誘ったらしい。
……さて、どうしたものかと、瑞樹は眉間に皺を作り思案する。
どう誤魔化そうかと考え込んでいると、ふとさっきの加藤とのやり取りが頭の中を過る。
(愛菜のあの態度って……)
「あ、あの瑞樹さん?」
「え? あ、はい!」
「もしかして無理になった……とか?」
「いや……ていうか」
瑞樹はこれは誤魔化すのは無理だと、ふぅと息を吐いて諦める事にした。
「あの……言い難いんですけど、あの時は他に気をとられていてですね……その……佐竹さんの話を聞いていなくて相槌を打っていただけで……」
瑞樹は観念してあの時の事を正直に話すと、佐竹は少し驚いた顔を見せたが、直ぐに苦笑いを浮かべた。
「……うん。なんとなくそんな気はしてたんだよね」
「……ごめんなさい」
いつもの良く知らない男共なら、気にもしなかったところだっただろう。
でも、加藤と仲が良い知り合いと聞かされてしまっては、流石にそんな事をするわけにはいかず、とりあえず素直に謝る事にした。
佐竹は何も言わずに俯いてしまって、気まずい沈黙が流れる。
「じゃ、じゃあさ! 改めて祭りに誘いたいんだけど……いいかな?」
佐竹は仕切り直しと言わんばかりに、祭りの日に瑞樹の時間を確保しようと試みる。
「……ごめんなさい。一緒には行けないと思います」
「そ、そう……うん……わかったよ」
再び佐竹の顔が曇っていく。
また沈黙が流れてしまうと身動きが取り辛くなるからと、瑞樹は足を一歩後退させる。
「それじゃ、部屋に戻りますね」
「う、うん。時間とらせてごめんね……おやすみ」
「いえ……おやすみなさい」
瑞樹は立ち尽くしている佐竹を、中庭に残してその場を立ち去った。
◇◆
自室であるコテージに戻るとまだ全員起きていて、シャワーを順に浴びていて、皆一階のリビングで各々にリラックスしているようだった。
ただ、辺りを見渡してみても加藤の姿だけ見当たらず二階に上がってみると、1人で荷物の整理をしている加藤の姿があった。
瑞樹の目には加藤の後ろ姿が寂しそうに映る。
物音を立てずに加藤に近づいて遠目から覗き込んでみると、加藤の表情は暗く落ち込んでいるようだった。
「愛菜!」
不意を突く様に突然声をかけると、加藤の体がビクッと跳ねてすぐにこちらに振り向いた。
「し、志乃!? ビックリするじゃん! おかえり、佐竹とちゃんと話してくれた?」
「まぁね、ホント愛菜は強引なんだから!」
「はは……ごめんね。それで……さ、どうだった?」
「ん? どうって?」
加藤は何を知りたくて、何を気にしているのか気付いていた瑞樹だったが、わざと加藤の口から話をさせる為に訊き返す。
「だから……お祭りの……事とかさ」
加藤は少し拗ねた顔を見せて、視線を落としながら呟くように話す。
「佐竹君には申し訳なかったけど、一緒にお祭りに行くのは断ったよ」
「そ、そうなんだ」
俯いていて表情が見えにくい状況だったが、断ったと話すと加藤の口角が上がったのを瑞樹は見逃さなかった。
「ねぇ、愛菜」
「なに?」
「今からする質問に、正直に答えて欲しいんだけど……いい?」
瑞樹はこの寝室に2人以外誰もいない事を確認して、加藤に詰め寄って真剣な眼差しを向ける。
「う、うん」
加藤はいつになく真剣な瑞樹に、少し逃げ腰でそう答えた。
「これは私の推測ってかカンなんだけどさ、もしかして佐竹君に私の事を煽ったのって愛菜じゃない?」
「え? ち、ちが……!」
瑞樹の質問を咄嗟に否定しようとした加藤だったが、瑞樹の目が確信を得ているように見えて、隠そうとした事を観念したように溜息をついた。
「違わない……ね。うん、そうだよ」
加藤が佐竹を煽った事を認めると、瑞樹はどうしてこんな事をしたのか尋ねると、加藤は辛そうな表情で煽った経緯を話し出した。
佐竹とは2年の頃からゼミの受講日が同じで、よく話したり勉強を教えて貰ったりと仲が良かった。
だが、佐竹の口からはよく『瑞樹』という名前が出て来ていた為、3年になって合宿参加者の募集が掲示された時に、そんなに好きなら合宿の祭りに誘えと提案した。
その際、盛り上がっていれば告白すればいいとも、加藤は佐竹に発破をかけていたらしい。
そんな事があったから、バスで瑞樹に話しかけられた時が直接顔を合わせたのは初めてだったが、本当は瑞樹の事はよく知っていて、仲良くなれば佐竹の役に立てるかもしれないと考えたのだという。
「何でそんな事したの!」
「……本当にごめんね。私って最低だよね……」
瑞樹がそう加藤を責めると、加藤の顔色がどんどん悪くなり掠れる声を絞りだして謝罪した。
「そうじゃなくて! 何で好きな人を他の人に所にいかせようとしたのって訊いてるの!!」
加藤は瑞樹の言っている意味がすぐには理解出来ずに、一瞬思考が停止してから徐々に顔が赤く染まっていく。
「……え? す、好き?」
好きと口に出すと、更に加藤の顔が赤く染まっていく速さが加速していく。
「な、何言ってるかなぁ……私が佐竹をって? な、ないない! あんな情けない奴!」
加藤は瑞樹の言っている事を否定したが、瑞樹は何も言わずにジッと加藤の目を見つめている。
「……わ、私なんかじゃ無理じゃん? だってあいつの好きな子って志乃なんだよ? 逆立ちしたって勝てっこないじゃん……」
瑞樹の無言の圧力に負けて、加藤はボソボソと本音を漏らしだした。
「そんな事ないと思うけど? 何で愛菜が自分の事をそんな悪く言うのか理解出来ないんだけど」
「そ、そんな事あるじゃん! わ、私なんて全然可愛くなんてないし、スタイルだってダメダメだし! それにそれに……」
「愛菜ってさ!」
加藤が自分の事を全否定していると、瑞樹はそれを途中で遮って優しく微笑んだ。
「愛菜って鈍感さんだから気付いてないみたいだけど、周りの男子からすっごく人気あるんだよ? 色んな男子に加藤って付き合ってる奴いるのかって訊かれたもん!」
「う、うそ!?」
「ホントだよ! そんな嘘つくわけないじゃん!」
自分は実はモテている事を始めて知った加藤は、暫く信じられないといった感じで固まっていたが、我に返るとすぐに反論を続ける。
「でもでも! 少なくとも佐竹は私の事をなんとも思ってないもん! だってずっと志乃が好きだって聞かされてたんだよ?」
「そうかなぁ。今の私ってこんなだから説得力ないかもだけど、そんなぶっちゃけ話が出来るのって、愛菜にそれだけ気を許してるって事にならない?」
「……でも」
「少なくとも、佐竹君にとって愛菜は、唯一素直な気持ちを話す事が出来る女の子なんだと思うよ? それって凄く特別な存在って感じしない?」
「……」
瑞樹の話す事に説得力があったのか、反論を続けていた加藤だったが、とうとう無言で俯いて話を聞くだけになっていた。
加藤は頭の中で、瑞樹の言葉を1つ1つ噛み砕いて、自分の脳に擦り込むように目を閉じて、本当に小さい声で復唱していく。
「……分かった。志乃がそこまで言うなら、ダメ元でやってみるよ」
瞼を開けた加藤は、真っ直ぐに瑞樹を見つめて宣言する。
瑞樹もそんな加藤の目を見つめて、口角を上げた。
「ま、まぁね! あいつってば志乃に見事にフラれて凹んでるだろうから、特別な存在らしい私が励ましてやらないとね!」
「うん! 佐竹君はきっと愛菜を待ってると思うな」
加藤の気持ちを聞いて、瑞樹は嬉しそうに笑顔を見せる。
「ていうか、凹ました本人にそう言われるのって、不思議感が半端ないんですけど?」
「あ、ご、ごめん……」
慌てて謝る瑞樹に冗談だと笑う加藤は、「行ってくるね!」と告げて瑞樹に拳を突きつける。
瑞樹も加藤の拳に自分の拳を突く当てて「頑張れ!」と応援している気持ちを伝えると、加藤はニッコリを白い歯を見せて玄関のドアを開けてコテージから出て行った。
瑞樹は加藤が出て行ってから、一階へ降りていくとリビングで寛いでいた神山に加藤の行き先を聞かれたが、知らないと答えて加藤が向かった方向にある窓の外を眺めた。
「次、カトちゃんの番だったんだけど、先に瑞樹さんシャワー浴びる?」
「あ、うん! じゃあ代わりに浴びさせてもらうね!」
瑞樹は風呂の支度を整えて、脱衣所へ入って「よし!」と気合を入れる。
今晩は愛菜が戻ってくるまで、何時まででも待っていよう!
大切な友達の、大切な恋が上手くいくことを願いながら……。
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