第4話 魔女

 すべての事が済んだあとで、病院から『その後お変わりありませんか』というメッセージが届いているのを見つけ、これは直接会って挨拶をしようと予定を取り付けた。

 すべての事、のほとんど全部、マキちゃんが自分で済ませてしまっていたから、わたしがやったことなんていうのは、本当に僅かな後始末と阿呆みたいな頼まれごとだけだった。

 親孝行をさせてくれてもいいのじゃないかと責めたらきっと、わたしはお前の親じゃないと突っぱねられただろうし、親代わりみたいなものじゃないかと粘ったところで、親らしいことなんてしてないと返してきただろう。それに、マキちゃんが他人にあれこれ世話を焼いてもらう姿なんていうのはさっぱり想像できないのだから、これはこれで親孝行だったのかもしれない。

 ほぼ時間ちょうどに着いて、すぐにマキさん、と診察室の扉がスライドされた。

「こんにちは」

「こんにちは。ごめんなさいね、こんな中途半端な時間で」

「いいえ」

 マキちゃんの担当医だった彼女はかちり、とボールペンをノックして、その後調子はいかがですか、とカルテに視線を落とした。

「ええ、退院後は自宅に戻って、一人で悠々としてました。足は相変わらずで難儀していたはずなんですけど。それで、先々月、宣言通り百歳を迎えまして」

「云ってましたね」

「悲願だったみたいです。それで、そのあとすぐ、先月に亡くなりまして」

 先生がふっと顔を上げてわたしを見た。それから、ああ、そうなの、とゆっくりと深呼吸をするように呟いた。

 長い間大変お世話になりましたと頭を下げると先生は笑って、大してお世話はしていないわと首を振った。

「そう。魔女がいったのね」

 カルテに顔を戻した先生は、そこにていねいな字で昇天、と書き足した。

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