第2話 縁側で猫を抱きながら

「縁側で猫を抱きながら死にたい」

 アザラシがシャチに一飲みにされる映像を二人で見ていたら、あんな死に方だけはごめんだとマキちゃんが云ったから、じゃあどんなふうに死ぬのが理想なのと尋ねたら、そんな答えが返ってきた。

「黒猫?」

「色なんて何でもいいよ。でもあんまり大きいのじゃ嫌だね。重いから」

「子猫じゃかわいそうだよ」

「まあ猫云々の前に、縁側を用意しないといけないけどね」

「本家にあるじゃん、縁側」

「あそこじゃ都会過ぎるでしょ。なんていうの? 木々の隙間から光が差し込んで、小鳥がぴーちちちちとか鳴いて飛んでるようなのがいいんだから。雰囲気台無しだよ」

「難しいなあ」

「それにあそこは、死んだ後に行くところだしね」

「そうなの?」

 そう口にしてから、ああ、そう云われればそうかと思い直す。

 みんなあそこでお葬式をするんだ。死んだら、わたしの死体もマキちゃんの死体も、あそこに行くんだ。

 ぽん、とマキちゃんがわたしの頭に片手を乗せる。

「まあでも君には、まだまだ縁のない話かな」

 そしてその勢いのまま立ち上がる。弾みでソファがぽよんと揺れた。

「さて、コーヒーでも淹れてあげよう」

「ココアがいい」

「じゃあカフェオレで」

 間を取って、とマキちゃんが云う。

「それは牛乳との間にあるんじゃないの?」

「ちゃんと砂糖は入れてあげるから」

 台所に立ったマキちゃんが豆を挽く地響きみたいな音と、コーヒーの甘い香りが一緒になってリビングに流れ込んでくる。

 瞼が下がってくる。体を倒して丸くなると、なんだか自分が猫にでもなったような気分になった。なかなかいいアイデアじゃないかと、わたしは満足して目を閉じる。

 カフェオレができたら、マキちゃんが起こしてくれるだろう。

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