僕は魔女
コオロギ
第1話 マキちゃん
「やっぱりマキちゃんはマキちゃんの生まれ変わりなんじゃないかな」
「飛躍しすぎです」
手を組み肘をつき、ナノさんがじっとこちらを見つめてくる。
僕は汗のかいたグラスに視線を逸らす。カラフルなストローでカラコロとアイスコーヒーをかき回す。
「ほらね」
「なんですか」
「そうやってかき回すでしょ」
「誰だってやるじゃないですか」
「ブラックなのに」
時刻は午後二時を少し過ぎたところ。地下にある店内は薄暗い。四角い四人掛けの席が三つ、その壁にろうそく型のランプが等間隔に並んでいる。まるで夜汽車のようだと、毎回思う。
カウンター席の奥でトースターがチンと音を立てた。焼けた焼けたとナノさんがそそくさと立ち上がる。
「今日はねー、焼きとうもろこしサンドだよー」
ざく、とトーストを切る音。
「おまたせ」
白い皿の上にきれいな三角のホットサンドが二切れ、人の字に載っている。中には黄色い粒が覗き、香ばしい温かな香りが立ちのぼっている。
「いただきます」
「ほらね」
「またですか」
「そうやってちゃんと手を合わせるんだマキちゃんは」
云いながらナノさんは僕の前の座席に座りなおす。
「さぼってていいんですか」
「マキちゃんしかいないからいいんですー」
「メジロさんに叱られますよ」
「オーナーの買い出しは長いから平気ですー」
そして両手に顎を乗せて、じっと僕を見る。
「食べづらいなあ」
「あ、半分手伝うよ」
マキちゃんは小食だからねと何か取り違えているナノさんはさっさと残りの一切れに手を伸ばす。
異論を唱えようとも思うけれど、ナノさんの奢りである手前食べるなとは云いづらい。
「準備は順調?」
さっそく黄色の粒をぼろりと零しながらナノさんが尋ねる。
「ああ、まあそうですね」
「いいねえ、学生って感じするね」
「準備なんて、前日くらいしかないと思ってたんですけどね」
「いやいや、こういうのはむしろ準備してるときが一番大事なんだって」
文化祭の出し物が喫茶店と決まった時は、まさか休みの期間中毎日のように登校することになるとは思わなかった。
「それにマキちゃんも毎日律儀に着てきてるじゃん、それ」
自身の胸元に視線を落とす。青いリボン。さらに下は濃紺のプリーツスカート。今時学校指定の服なんて珍しいから、これは母から借りたものだ。
レトロ喫茶をやろうとするのはいいとして、それでどうしてこんな仮装をすることになるのかは全く分からなかったけれど。
「まあ、母が喜ぶので」
この姿で会いに行くと、似合うーと云いながら爆笑するのだ、母は。
「マキちゃんにはやっぱりセーラーが似合うよねえ」
ナノさんはいつも通り、懐かしそうな目をして笑った。
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