不透明な感情

 いつもはチラリと確認するのも嫌いな玄関の鏡を今日はじっと見る。

「変じゃないよね……」

 新しくした眼鏡は流行りの細いメタルフレームだ。眼鏡なんて気にしていなかったけれどアキちゃんにはダサいと思われたくない。


 教室にゆっくり入って視線を泳がす。クラスの中心にいる人気者のアキちゃんは私に気が付くとスキップで近づいてくる。


「おはよっ!」

「うん、おはよう」

 アキちゃんはすぐに私の眼鏡に気がついてくれる。

「アレ、眼鏡変えたでしょ、お洒落じゃん」

 言われたことのない褒め言葉に硬かった顔が緩む。

「うん、ありがと。店員さんに似合うって言われてね」

「……へーそうなんだ」

 私の勘違いだろうか。アキちゃんのテンションが落ちたよように見える。その後すぐにクラスの中心に戻ってしまったので確かめられなかった。


 ・ ・ ・


 お昼休みにトイレの鏡で眼鏡をもう一度確認する。

 もしかしたらこの眼鏡が変だったのかな。

 眼鏡を戻して明瞭になった視界にはアキちゃんがいた。

「わわ、いたんだ」

「うん」

 アキちゃんは顔を近づけてじーっと眼鏡を睨んでいる。

「あのさ、この眼鏡は私が似合うって最初に言ったことにして」

 どういうことだろうか。

「えっと、それってどういうことなの?」

「……とにかく眼鏡は私が似合うって言って勧めたことにしてね」

 圧のかかった表情で言われては頷くしかない。クラスの中心にいるときにはしないワガママな表情をしている。


 これって嫉妬なのかな?

 一瞬考えてすぐ違うと気がつく。だってアキちゃんが私に嫉妬する理由なんてないからだ。

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