カワイイって言われたい

 ふたりで部活の片付けを終えて鍵を返しに行く。

 文集を出し終わった文芸部にはやることは無いのだけど自然と部員が集まった。部長は私のおかげだと言ってくれた。部長は自分より人気のある私に嫉妬している。私は美人な部長に嫉妬しているのだけど、自分の美貌には気が付かないようだ。


「さよならが少なかった」

「え、さよなら……ですか?」

「そう、タミちゃんは1年生全員からさよなら言って貰ってた」

 思い返してみる。確かに部長は会釈しかしてもらってない。部長の美貌は妙な距離感を生んでしまい後輩からは怖がられているのだ。

「みんな私のこと根暗だと思ってるんだ……」

 部長のネガティブが始まってしまった。文芸部に集まっている子なんて似たりよったりだと思うけれど。

「えーそんかコトないですよ、部長ってキレイじゃないですか」

「……キレイじゃなくてカワイイが良かった」

 めんどくさい人だな。

 カバンからヘアピンを取り出す。友達が子供っぽくてダサいからと貰ったものだ。

「部長じーっとしててくださいね」

 手を引いて立ち止まらせて前髪に取り付ける。端正な大人っぽい顔に子供っぽいヘアピンが何ともアンバランス。だけれども顔を隠していた前髪がどかされて印象がぐっと明るくなる。


「それ付けてればカワイイって言って貰えますよ」

「えっホント!!」

 からかったつもりだったのに気に入ったようだ。窓ガラスに反射させて微笑んでいる。

 いつもその笑顔だったら人気者なのにな。キリリとした表情も好きなので黙って見るだけにする。

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