やきそば

 海の家でアルバイトを始めたのは間違いだった。

 時給が高くて楽そうだ思ったのは間違いでタダでさえ地味な顔が日焼けするしチャラチャラした人が多くて合わない。

 仕事中なのに店長と一緒に女の子をナンパしている男を横目に焼きそばを炒める。この時間はお店も混んでいるけど配達の注文も入る。今作っているのは近くの別荘からの注文。ビニール袋に焼きそばを詰めて海沿いの道を歩く。どうやら別荘のお客さんは相当な美人のようで男の子のアルバイトの間では配達の仕事は取り合いになっていたみたい。

 お客さんに変なことをされると困るので私に仕事が回ってきたようだ。海の横の別荘に遊びに来ているのに焼きそばをわざわざ頼むなんて相当に浮かれている馬鹿な女に違いない。派手なメイクでビール片手に微妙な男を連れていそう。

 

 大きな門の別荘に入る。廊下を進んで庭に出る。騒がしい音楽もバカ騒ぎも聞こえてこなかった。静かな庭の真ん中にひとつのパラソル、嬉しそうな顔を覗かせたのはお嬢様という表現がぴったりな子。サラサラのロングヘアと白い肌に目が奪われる。

「海の家の焼きそば!」

 嬉しそうな声で自分が配達に来たコトを思い出した。

「お代は既にいただいてますので」

 すぐに一緒に渡した割りばしを使って美味しそうに食べ始めている。心の中で思いっきり馬鹿にしようと思っていたのにイメージとは違いすぎた。

「それでは」

 帰ろうとすると後ろから呼び止められる。海外製のお洒落な冷蔵庫から瓶入りの飲料を渡される

「いえいえ、悪いです」

「いいの、暑い中来てもらったから」

 こんなに暑いのに薄手の長袖を着ている。体が弱いのかもしれない。

「じゃあ、ありがたく頂きます」

 

 帰り道、瓶に口を付けて飲み干す。上品な味なのだろうけど水分が抜けた体では正確な味は分からなかった。

 お店に戻ると店長に次も注文があったら自分が行くことを伝えてキッチンに戻る。

 あんなお嬢さんはこの店の男どもには勿体ない。

 思わぬところで楽しみが出来てしまった。

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