はじめての恋人

 珍しく帰宅ラッシュなのに座ることが出来た。終点まで乗る私にとって座れたのは大きい。

 高校時代のオタク友達から届いていたメッセージを確認する。大学生活に慣れたか、変わったことあるかという内容。

 とある告白を一度、打ち込んで消した。

 何もないよと嘘を返す。

 本当は人生で初めての恋人が出来ていた。オタク友達相手に大学に行ったらモテモテだからと調子に乗って言っていたのに隠すのは相手が女の子だからだろうか。

 

 最初は意味不明だった。私は普通に男の子が好きだったし、告白してきた女の子は私と同じくらい地味だった。大学に入ってもオタク趣味を捨てきれなかった私は眼鏡率が半分を超えているサークルの新歓に参加した。そこでずっと私を見ていた女の子と仲良くなって講義が本格的に始まったくらいに告白された。

 イチバン驚いたのは地味なこの子が告白をしてきたということ。今まで告白なんてしたことが無かった私は同性に告白する勇気をふり絞ったという事実に圧倒されてしまった。

 そのままはっきりしたことを言えない私は付き合うことにした。

 頃合いを見て離れよう、自然に消滅するだろうから。

 しかし、ついこの間のデート……というかお出かけの際にキスをされそうになってしまった。

 夜景が見える公園。他にもカップルはいたけど距離が離れていた。

 私がふざけてキスするシーンみたいだと言おうとして夜景からあの子に視線を移すと冗談を言える顔をしていなかった。

 顔を近づけてきたあの子を私は押しのけて逃げてしまった。

 

 スマホが振動する。

 心臓がドキリとする。通知にはあの子の名前が表示されている。急いで確認するとキスをしようとしたことに対する謝罪だった。

 私の中に罪悪感がにじむ。告白された時に付き合うと言ったのだからキスしたいと思うあの子が正しい。なのに私はあやふやなまま逃げてしまった。通過待ちで駅に停車していた電車から抜け出す。終点の駅からひとつ進んだ駅のホームで電話を繋ぐ。電話に出たあの子に真っ先に伝える。

「この前は逃げちゃってゴメン! 私もしっかり考えてちゃんとするから」

 国語は得意だったはずなのに支離滅裂な宣言をしてしまった。戸惑っている声がスピーカーから聞こえてくる。相変わらずの弱々しい声を可愛いなと思ってしまう。

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