かんちがい

 私のカノジョは人気者。

 日陰者の私と付き合いたいなんて間違ってると思ったけど本人はそこが良いみたい。わざわざ花の無い私を選ぶなんて変態なんだろう。

 

「おまたせー、掃除で遅くなった」

「遅い、掃除でそんなに遅くならないでしょうが」

 コイツのことだから掃除が終わってから他の子とお喋りをしてきたんだろう。私もコイツも部活はしていない。なのに集まる時間がこんなにもズレるのは人気の差なのだろう。

 

 木の影に隠れるように待っていた私は今度はコイツの影に隠れて歩き出す。

「ねえ、ちょっとさ、あっ」

「……何よ」

 なんだろう、コイツが言いたいことを我慢するなんて珍しい。何でもないと言うので再び歩き出す。

 

 薄暗いトンネルに入ると肩を掴まれる。

 え……。

 真剣な顔で上から見つめられる。顔がどんどんと近くなる。親戚のお姉ちゃんがキスの話をしていたことを思い出す。こんなにも急なのか。

 目をぎゅっと閉じる。

「じーっとしててね」

 してるだろ……。

「はい、大丈夫」

 目を開ける。唇にはまだ何も接触していないはず。

「え、ちょっと何したの?」

「髪の毛に小さな虫がついていたから取っただけだよ。嫌いでしょ虫」

 確かに蜘蛛の巣が付いただけで大騒ぎしたことがあった。私だけ淫らなことを考えていたんのか。赤面する顔を見られたくなくてお礼も言わず歩き出してしまった。

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