ネコもどき

 休憩室の窓から連絡通路を渡ってくるぴっちりとスーツ着ている女の子を目で追う。

 エミは相変わらず背筋がイイナ。あ、あと顔もリスみたいで可愛い。

 そんな感想を浮かべながら缶コーヒーを傾ける。鋭い酸味と単純に苦いだけの水。つまりマズい缶コーヒーだ。

「せんぱーい、ここの自販機って微妙なの多くないですか?」

「まあ、そうだけどね」

 林檎ジュースを飲みながら後輩の女の子が文句をぶつぶつ言ってくる。確かにこの休憩室の自販機はマイナーなメーカーの微妙な品揃えだ。

 缶コーヒーの表面に印刷されたネコもどきのキャラクターを爪で弾く。

「でも、可愛いでしょこのキャラ」

「先輩、センスがゼロですね」

 後輩に馬鹿にされて悲しいが私だってネコもどきは可愛いと思っていない。

 

「あ……」

 短い悲鳴が入り口から聞こえてくる。エミが小さな可愛い財布を取り出しながら休憩室に入ってきたようでばったりと出くわした。

「エミ、久しぶり」

 嘘を付く。毎週末、お泊りをしている。

「あら、いいわね、後輩と一緒に休憩なんて仲が良くてー」

 アレ、なんだか怒っている?

 エミはそのまま休憩室を抜けてしまう。

 

 休憩室に後輩を残してエミを追う。コツコツと鳴っているハイヒールの音が不機嫌な証拠みたいで恐ろしい。

「ちょっと、ちょっとナニ怒ってるの?」

 エミはジロリと睨みながら小声でつぶやく。

「会社で話しかけて来ないでって言ったでしょ、私がいつも使ってる休憩室で可愛い後輩とお茶してればいいでしょ」

 あちゃー、怒ってる完全に怒ってる。

「違うから、ほらこれ」

 スマホに貼り付けて置いたポイントシールをエミの手の甲に貼り付ける。集めるとネコもどきの限定アイテムが貰えるのだ。

「これ、集めてたでしょ私のコーヒーと後輩の林檎ジュースの分を貰っておいた」

「そう……」

 急に大人しくなったエミの頭を撫でようとするとパチリと跳ねのけられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る