日替わりランチ
お昼時はいつもてんてこまい。学食は楽そうという理由でフリーターにしては安易なイメージでアルバイト先を選んだことをいつも後悔する。
スープをお湯で溶かして茹でていた麺と混ぜれば完成だ。楽しそうに待っている学生に渡して愛想笑いをする。
……楽しそうだな。
私だって数か月前までは大学生だったけどサボり癖のせいで留年することになってそのまま退学した。
「これ、お願いします」
げげ、めんどくさい女の子が来た。
野暮ったい眼鏡の女の子は他の大学生と違っていつも飾り気のない服装で難しそうな本を持って食堂にやってくる。めんどくさいと思っている理由は頼むメニューがめんどくさいからだ。
食券をちらりと確認する
日替わりランチ……。
ラーメンみたいな簡単に作れるものじゃなくて毎日おかずが変わるイチバンめんどくさいメニューを毎日頼むのだ。
「はい……」
手が空いているのは私しかいない。食券を嫌々受け取って作り始める。らーめんの数倍の時間がかかって、パートのおばちゃんに今日の日替わりランチを確認していない事を怒られながら完成する。
「……ありがとうございます」
女の子はだるだるになったカーディガンを揺らしてトレーを受け取る。
・ ・ ・
一五時になれば締まるのが学生食堂の良いところ。
モップを持って掃除に行くフリをして厨房を抜け出す。本当は綺麗に拭き掃除をしないといけないのだが多少やらなくてもバレないので行わない。遠くに一人だけポツンと座っている例の女の子。
あ、まだいるよ……。
猫背で本を読んでいる。日替わりランチは食べ終わっているようでお水を机に置いて本を読んでいる。
「あの、もう閉めるんですけど……」
「ひゃっ……あ、すいません」
眼鏡が大きくズレるくらいに驚かせてしまった。慌てている女の子にとりあえず話題を振ることにする。
「いつも日替わりランチ頼んでますけど、そんなに好きですか?」
「えっと、お腹一杯食べれてイチバン安いので……」
なるほど、そういうことか……。
だるだるになったカーディガンが悲しく弛んでいる。苦学生ということだろうか。親のお金を無駄にした挙句に退学した自分と違って立派な子で気まずい。
「えっと、じゃあそれでは」
「はい……」
食堂から出て行ってしまった。
次の日の日替わりランチは肉野菜炒め。昨日はメニューを確認していなくて怒られたので今日はしっかり覚えている。
「これ、お願いします」
あの子が来た。食券を受け取る。
肉野菜炒めを盛り付けてこっそりと隣の棚に置かれている唐揚げを肉野菜炒めに混ぜる。心の中でめんどくさい女の子と呼んでいたことに対する罪滅ぼし。
めちゃくちゃ喜んでくれたりしてね……。
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