壊れてしまったボールペン

「コミちゃん、これ使ってね」

 本当は名前にさんを付けないで呼ぶのは校則違反だけど誰も見ていない今は良いだろう。差し出したボールペンはお父様の知り合いに頂いた舶来品のボールペン。真鍮で出来ていてずっしりと重い、頂いた品なので何となく使っている。

「あ、ありがと」

 この学園だとちょっと浮いている雰囲気のこの子は生徒会長のコミちゃん。入学式でぎこちない動きをしていた時に私が話しかけて仲良くなった。

「これ、高そうなボールペンだよね」

 大事そうに持っている。

「値段はまあ、結構すると思うけど私が買ったわけじゃないから」

 コミちゃんはボールペンをひねる。ツイスト式の軸からはにゅっと芯が飛び出る。

 

 パキり。

 静かな生徒会室に嫌な音が響く。どうやらグリップ部分の樹脂が割れてしまったらしい。

「……ご、ごめん壊しちゃって」

「ううん、もともとずっと使ってたから」

 私にとっては重い疲れるボールペンが壊れてしまって丁度よいと思ってるくらいだ。これを理由に軽いプラスチックのボールペンに替えよう。

 壊れたボールペンをブレザーのポケットには戻さずに棚の上に置く。

「それ、捨てちゃうの?」

「うーん、そうだね。もう修理するより買ったほうが安いだろうし」

 何だかソワソワしているコミちゃん。まだ申し訳ないと思っているのだろうか。気にする必要なんてないのに。

「修理しようよ、私そのボールペン使ってる姿好きだし」

 思いもしない言葉に珍しくドキドキする。後で捨てようと思っていたボールペンの表面を撫でてから胸ポケットに戻す。

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