制服が馴染む前に

 馴染んでいないブレザーの上から新入生代表の原稿を撫でる。

 先輩、ちゃんと聞いててくれたかな。

 恥ずかしくて言ってないけど新入生代表ということはトップの成績ということだ。廊下から見える桜も私を讃えてくれているように見えてきた。

 先輩に褒めてもらいたいな。

 

 勝手に褒められる自分を想像するとそれだけで廊下を走ってしまいそうだ。

 先輩は高等部でも生徒会に入ったことは知っていた。明るい性格で人気者の先輩は推薦されて仕方なくという感じなんだろう。

 私が高等部に無事進学出来ることが決まったときにした電話。先輩は生徒会室で待ってると最後に言っていた。恋愛小説の一節みたいで恥ずかしい。

 でも私は早歩きをして生徒会室に急いでしまう。

 

 西洋造りの廊下の突き当りにあるドアをノックする。中から返事はない。ドアノブに手をかけると内側に引っ張られた。

「アレレ、お客さんかと思ったら見慣れた顔の後輩じゃないか」

 体勢を崩した私を華麗に支えてくる。先輩のこういうところが私は大好きだ。

「……お久しぶりです。先輩」

「うん、そのまえに自分の足で立ったら?」

 慌てて先輩の手を借りて体をまっすぐに戻す。

 

「まさか、外部生を抑えてイチバンなんてやっぱりスゴすぎる後輩だったんだね」

 演技くさい動きが懐かしい。

「先輩だって成績優秀って知ってますから」

「私は頑張ってもせいぜい一〇位くらいが精一杯だよ」

 先輩のイイトコロは勉強なんて基準では測れないから私としてはどうでも良い。

「ところで、今日は何か用事かな?」

「……先輩、生徒会室で待ってるって言ったじゃないですか」

 急にボリュー厶が増した私に驚いた先輩は一歩後ろに下がる。私は一歩前に動く。

「いや、アレは生徒会に入ってほしいって意味なんだけど」

「え、私に会いたいってコトじゃないんですか?」

 足元から頭の上まで湯気が出そうになる。

 はずかしい、私だけ舞い上がってしまってたなんて。

 

「あーもう、かわいいな」

 先輩が飛びついてくる。今度は私が先輩を支えている。

「生徒会、やってくれないの?」

 ずるい、先輩は断れないのを知っているんだから。

「いいですけど、みんなが選んでくれるかは知りませんけど」

 先輩の手が強く絡まる。

「な、なんですか生徒会室ですよねここ」

「後輩の制服が柔らかくなる前に楽しんでおこうと思っただけ~」

 先輩はちょっとだけ変態っぽい。

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