待合室
バスから降りて急いでホームの待合室に急ぐ。
四月も後半だが盆地の朝はまだまだ寒くて急ぎ足になってしまう。
結露で曇った窓ガラスの向こうに人影が見える。またあいつが待っているのかと思うとため息が出そうになる。
歪んだドアは力を入れないと開かない。苦戦していると内側から力が加わってドアが勢いよく開く。
「………おはよ」
「おはよ、今朝は特に開きにくかったね」
私より頭ひとつ分高い背の女子。艶のある黒髪が体の動きに合わせて左右に揺れている。
こいつは田舎では珍しい私の幼馴染。
親同士が仲が良くて小さいときから一緒だけど私はあまり顔を合わせたくない。
こいつが着ているのは綺麗なシワひとつない紺色のセーラー服、金色のネクタイ。
これは私が着たかった制服。
私が着たい制服を着ることが出来なかったのは単純な理由で試験で落ちてしまったから。つまり私がバカだからだ。幼馴染のこいつは私より勉強が出来てもっと上の高校も選べたはずなんだけど私の受験する高校を選択してきた。
未だに何で私の志望校に替えてきたのかは分からないまま。私だけ落ちたなんて恥ずかしくて顔を合わせたくはないけど田舎の路線は本数が本当に少ない。乗り遅れないためにもホームには早めに着いておかないといけない。それにバスの時間の関係もある。
私が向かいの席に座ると向こうからとなりの席に移動してきて一方的に話しかけてくる。
とりとめのない話がすらすらと口から出てくるけど学校の話はほとんど出てこない。こいつなりに私に気を使ってくれているのかもしれない。
流石にもう四月も終わりかけている。私だっていつまでも受験に落ちたことを気にしていると思われたくない。
「ねえ、部活とか入った?」
ふたりで学校見学に行った時に入りたい部活があるって言っていたような気がする。
「……入らなかったよ」
「なんで? 入りたかったんじゃないの」
笑顔が困り顔に変わって何やら考えているようだ。
「文芸部は一緒に入りたかった…だからいいんだ」
「そうなんだ……」
さっきまで笑顔で話していたはずなのに急に悲しい顔をするんだからたまらない。私がいなくても気にしないで部活くらい入ればよいのに。本当に何を考えているのか分からない。
「まあ、週末出かけるって話だったよね」
話の繋がりがおかしい気がするけど無理やりにでも前の話に戻す。
さっきの話で週末に出かけることを誘われていたはず、断ろうと思っていたけどこうなっては仕方ない。
さっきまでの悲しそうな顔は吹き飛んで笑顔が戻る。
「予定空いてるの? じゃあ行きたいところあるんだけど」
勝手に話は進んで行く。とりあえず週末はダラダラ過ごすことが出来なさそうだ。
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