同居人
「二木さんってカレシと同棲してるってホントなの!」
新設されて間もない食堂、いや大学側は堂々とラウンジと宣言しているのでラウンジと呼ぶことにする。そのラウンジで質問してきたのは友達の女の子。ラウンジのテーブルには私の友人を中心に様々な学部の人間が座っていた。友人はサークル関係で人間関係が広い。私も友人の友達のひとり。
「ううん、高校の時の友達」
質問してきた子はクリーム色の可愛らしい髪の毛を大きく揺らして残念がっている。私、カレシと同棲しているなんて言ってないのにどこで尾ひれが着いたのだろう。
「なんだぁ、てっきりカレシかと思ったのに」
この子が勝手にそう解釈しただけだった。
「うん、ここらへん家賃高いでしょ」
「そうなんだ、でもそれだとカレシとか作りにくくない?」
そういうものなのか。あんまり考えたことが無かった。確かにふたりの知らない人は部屋には呼びにくい。
「まあね…」
テキトーに頷く。
「でも、このお弁当も作ってくれてるし」
様々な話がぴたりと止まる。
「え、同じ大学生でしょ?」
「すごい同居人だね」
「カノジョみたい」
同居人にお弁当を作ってもらうのは普通じゃなかったみたい。大学生というのは自由だと言っても社会に出る最後のモラトリアムという側面がある。私だって周りとズレているという自覚はある。同居人がお弁当まで作ってくれるのはおかしいのか。
ラウンジを出てからも考える。
同居人は高校の時から仲が良い、それに一緒に部屋を借りて住もうと言ってきたのも同居人から。卒業式が見えてきた時に誘われたことを思い出す。あの時、何かを言いたそうにしていて言いかけて辞めて同居の話を伝えてきた。もしかしたら言いたかったことは同居のお誘いでは無かったのかもしれない。
スカートのポケットの中のスマホが振動する。イチバン上に常にいる同居人からメッセージが送られていた。
今日はいつくらいに帰ってくるの?
いつも通りの時間で帰るよ
今日はハンバーグ作るからお腹あけといてね
やりとりが終わる。私たちの関係を確認してみようか…。メッセージを打ち込んで送る前に指が止まる。何だかとてもマズい気がする。ここで確認してしまったら今まで通りには行かない気がする。
今はとりあえずハンバーグが楽しみだ。それだけで良い気がした。
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