第23話 変化

 森の中を走るように跳ぶ。飛ぶように走る。

 生きた心地がしない。

 心臓が口から飛び出しそうだ。


 でも叫ばない、騒がない、喚かない。

 眼は閉じない。前を見据えて、次は何処を足場にするのか?どっちに跳ぶのか?

 考える。予想する。じっと耐える。


 雅の姿は見えない。

 偶に音がするが、離れる。近づく。並びそうで並ばない。

 まだ姿は見えない。


 最初の渓谷‥‥飛んだ! ・ ・ ・ ・ 渡った。

 その一瞬、時が止まる。

 噛み締める。眼を閉じるな。

 キンタマが縮み上がる!クソッ!心の中で悪態を突く。


 次の渓谷‥‥‥踏み込みで枝が折れた!!

 一瞬、体制を崩す。

 が、もう一歩、最後に踏み込め!


「小太郎ぉぉ!!気張れぇぇぇ!!」


「!!!」


 谷の上、下の方に川が流れる。綺麗な川だ。


 樹の上には届かない。

 枝に、枝に何とか、何とか、届け!届け!届け!


「小太郎ぉぉぉ!!掴め!掴め!掴めぇぇぇ!!」


 小太郎の爪が空振りそうなのを、足で小太郎を抱え、全身を前に伸ばし・・・



 ・・・・・掴んだ!!!

 掴んだ枝を思いっきり引っ張る!小太郎の爪が掛かった!枝から樹の幹を上り、太い枝の上で止まる。


 息が、息が切れた。

 緊張と絶叫で、喉がカラカラだ。

 収納から水を出して飲む。


「ふ~!焦ったぜい。ほれ!」

 小太郎にも水を出してやる。


「主~‥‥ごべんなざい~。。。」


「泣くな!馬鹿。水飲んで落ち着け。」

 皿に水を出したのを前に置き、頭をクシャクシャっと撫ぜる。


 小太郎の足が震えてるのを見て、ああ、一瞬覚悟したよな。って気付いたら、俺の足もガクガク震えている。

 ちょっと可笑しくなって、


「おいおい小太郎、俺らの足ガクガクだぞ!怖かったなぁ。」

 小太郎は半泣きの顔で、自分と俺の足がガクガク震えてるのを見て、泣き笑いになった。暫し2人で笑った。泣きながら笑った。


「あは、アハハ、うん。怖かった。主ぃ怖かったよぉ。」

 泣き笑いしながらも水を飲んで、ちょっと落ち着いたようだ。


 そこへ、雅が戻ってきた。

 てっきり先に行ったと思ったんだが、遅いから心配したのか?


「‥‥良かった。‥‥落ちたと思った。‥‥死んじゃったかと‥‥ふぇ、ふぇ、ふぇえええぇぇぇぇん!‥‥‥‥」

 盛大に泣き出した。


 少し後ろを跳んでいて、枝が折れたのが見えた!もう一歩踏み込んだのも分かった。‥‥飛んだ軌道が下がって行って、樹の影で見えなくなった。

 そして俺の絶叫!!


「掴めぇ!!」の後は聞こえなくなった。

 渡ってから、どうしたら良いのか分からなくなった。

 戻った方が良いのか?先に伝えに行くべきか?下に探しに?‥‥そんな怖い事は出来ない。動けなくなって、どうするか悩んでいたら笑い声が聞こえた。

 来てみたら、足が震えてるって笑ってる。‥‥私の足もブルブルと震えてた。


 安心して、我慢できなくなって泣いちゃってた。‥‥恥ずかしい。


 皆で水を飲んで落ち着いた。


「小太郎、ここからどれ位で着く?」


「跳んで、10分くらいです。」


「歩いたら?」


「一時間ってとこですね。」


「そうか、歩いて採取しながら帰るか。」


「はい。主、‥‥雅、返事は?」


「あ!は、はい!すいません。」


「じゃあ採取しながら帰ろう。小太郎は分かってるが、雅は初めてだな。キノコや木の実や山菜なんかを採取しながら歩いて帰るんだ。食える物が有ったら教えてくれ。それと、襲ってくる奴が居たら殺っちゃえ!持って帰って解体するんだが、なるべく傷が少なく、キレイに殺ってくれ。」


「は、ハイ。‥‥分かりました。」

 キレイに殺すってどういう事だろう?肉を取るのに‥‥ああ、毛皮を採るのかな。


 この時の予想は確かに間違いじゃ無かったが、後になって大いに驚くのである。



 歩きながら周囲を色々見て回る。

 お?キノコ発見!手当たり次第に採っていく。

 収納してから鑑定して仕分ける。

 毒キノコかぁ。

 それでも使い道があるかも知れない。

 毒も薬になるかも知れない。


 勿体ないお化けがいっぱい立ち上がってくる。

 こうなると採ったもの全てが捨てられなくなる。

 その事に気付くのは、もう少し先である。


「主、獲ってきました。」


「おお、小太郎、ご苦労。」

 小太郎から角の生えたウサギを受け取り、収納する。


 後ろから、ドサッと何かを落とす音がする。

「あ、あの、お、御屋形様?」


「なんだ?雅?俺の事はコウで良いぞ。」


「主、いけません。雅、主と呼びなさい。」

 小太郎が何だか執事か従者のようになって来たな?


「は、はい。主様?」


「ああ、雅、それで良いぞ。んで、どうした?」


「実は、先ほどまで気付いていなかったんですが、主様は収納魔法をお使いになられてるのですか?」


「何か肩っ苦しい言葉遣いだな。もっと普通に喋っていいぞ。」


「あ、すいません。」


「だから、謝らなくても良いって。大丈夫だから、小太郎だって普通だろ?」


「いえ、主は敬うべきお方なので、雅が正しいかと‥‥」

 コイツ、今迄、舐めくさった態度だったくせに‥‥


「小太郎?」


「はっ。何でしょうか?」


「オレ、お前の弱いトコ知ってんだよな?」


「えっ!?な、な、何を?」


 飛び掛かって押さえつけてくすぐってやった!

「あひゃあひゃあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


「そんな畏まった言葉じゃ無く、普段通り喋れ!!」


「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


「返事は?」


「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


「返事は?」


「主様、主様、もう小太郎様は虫の息です。」


「ひゃ‥‥‥ひゃ‥‥‥ひ‥‥‥」

 ちょっとやりすぎたようだ。




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