第22話 みやび

 まず、九尾様はここ数年で体力を削られています。

 長い年月掛けて削られたものは、同じような月日を掛けなければ戻りません。

 それを数日で治すには、ドーピングしかありません。


「は?そのドーなんとかやらを使えば直ぐに治るのですか?」


「いいえ、治りません。」

 明かにガッカリしてますね。ゴメンよ?

「ちゃんと直すのには、同じような年月が掛かります。ただ、一時的に力を使いたい時は、そんな方法があるという話です。それに、これには相当なリスクが在る事も知っていて下さい。

 そんな説明を繰り返して、本人たちで消化できる範囲の事を擦り合わせて行った。


 取り合えず皇帝液飲ませて、ご飯は半生から徐々にカリカリに移行できるように段階を踏んでいく。


 ただ、半生が目茶苦茶美味かったらしくて、一部のキツネさんが暴走。

 鎮圧は簡単だったけど、罰は一週間抜き!‥‥要するに準備された飯は食えないと言う事ですね。

 今更ながら罰を聞いて死にそうな顔をしてたけど、自業自得ですよね。


 ちゃんと罰にも制限掛けました。

 罰則期間中に俺が用意した飯を食ったら、永遠に禁止としよう。

 これには皆震えあがってた!どんだけドッグフードが美味いのやら!?

 つか、キツネさんもドッグフードで良いのか??



 2、3日して俺が居てもしょうが無くなった頃に、当分の食料を置いて帰った。

 ここで食料を供給してると、俺がキュウビの下で食料供給係に見られてきたから。命に別状ないなら、俺が面倒みる必要は無い。


 この世界では、好意でやったことも、立ち位置の上下でやって当たり前になる。

 上の立場でも、その行為によって下に見られる事を学習した。


 ぶっちゃけ小太郎の態度もそう言う事だ。

 俺がご主人様だったのが、この世界に来て分からないから教えを願う。

 教えを願うのは下の者の態度。

 上位の者は、報告及び連絡しろと命ずる。

 お願いじゃない。命令をするんです。


 だから小太郎は増長した。

 一度付け上がった奴を正すのは容易じゃない。

 飼い犬がご主人様に頼られて、教えを乞う。

 この世界の事、魔法の事、戦い方、そして今回のキツネの事。

 移動も背中で喚いて怖がって‥‥情けない姿を晒す。

 そりゃ付け上がるよね。


 ダメダメも良いトコで威厳もくそも無い。

 日本人の悪い癖、絶対的な立ち位置は変わらないと思ってる。

 馬鹿でしょ?能力ない奴が上司に居ても馬鹿にされるだけなのに上司だからと根拠の無い上位意識を持つんだよね。

 それに、直ぐに謝る。悪くないのにすいませんごめんなさい。

 下手、下手に出てすいません。ごめんなさい。通じるの日本人だけだから。

 日本人でも今じゃ通じないか。それにここは異世界。俺って本当に馬鹿だろ!?


 色んな指示だって、反論されたら?覆されたら?追い越されてる事実を分かってる?

 だから小太郎はキツネのトコに行ったとき、人化して中心となり話を進めた。

 作法から対応まで、何の説明も無く独断で走って、俺が切れた!

 キツネと刀を交える事態になってしまった。


 それでもキュウビはあくまでも俺が主人である事に終始したので無事に収まった。

 小太郎はその事態で自分の増長に気付いた。

 しかし、キュウビが俺を上位として扱わなかったら、俺は小太郎の召使になっていただろう。


 そんな事態に切れた俺は、下手したら全員皆殺しの事態に?‥‥だからキュウビは俺を上にして納めたのかな?それを小太郎も気付いたのか?


 改めて、ここは異世界。

 日本の常識や考え方は通じない世界。

 ちゃんと考えろ!小太郎の下になる様な行いじゃ‥‥死ぬぞ。


「では、帰ります。今回の対価は雷神様だけじゃなく、遊行寺功に対する隷属と言う事で宜しいですね?」


「はい、間違いありません。あと、この娘を連れて行って下さい。」


「は!?」

 年の頃は14、15歳の巫女服を着た娘がお辞儀をしている。

 キツネ耳のキツネ尻尾の娘さん。

「どういう事?」


「はい。私の跡取りとして修業をしてた娘です。他に3人居るのですが、この娘だけがコウ様に就いて行きたいと申しまして、コウ様のお許しが在ればと思いました。」


「ああ、修行100年の間、違う世界も見てみたいと思ったのか‥‥」

「俺は遊行寺功と言う。お前の名は?」


「はい。私の名はみやびと申します。」


「俺の所に着いて来たいのか?」


「はい、まだ修行の残る身なれど、コウ様の武と知を拝見いたしました。そのお姿からは想像出来ない身技に、凡庸な私を鍛えて戴けたらと考えました。」


「他に3人居るんだろ?そいつらは良いのか?」


「他の者の考えを伺い知ることは出来ません。」


「お前、女の子だろ?小太郎と同じ扱いするけど良いのか?」


「一向に構いません。まだ夜伽をすることは出来ないので、そこは申し訳なく思います。」


「夜伽?‥‥」

 一瞬、何を言ってるのか分からなかった。

 真っ赤な顔して言っているので、ようやく察した。


「ああ、それは気にするな。風神様に言って女の子の扱いを聞いてみようか。」


「はい。よろしくお願いいたします。」


「小太郎もそれで良いな?」


「はい。畏まりました。」

 小太郎も態度を反省したようなので、深く追及するのは止めておこう。


「キュウビ、一旦帰ってまた様子を見に来よう。それと‥‥頼むぞ。」


「はい。畏まりました。お心遣い、痛み入ります。」


「雅、お前は小太郎と一緒に走れるのか?」

 雅は小太郎を見て、鼻で笑った。


「私が小太郎様に後れを取るなんて、考えた事も御座いません。」


「そうか、小太郎そう言う訳だ。」

 小太郎は噛み締めて反論を堪えている様だ。

 偉いな。ちゃんと学習出来てるじゃないか。


「小太郎、俺を乗せて、優雅にぶっちぎって見せろ。」


 小太郎は一瞬だけ、ビックリした目を向けたが、

「御意。」

 やる気ある態度を見せてくれた。


「じゃあ、勝者にはコレをやろう。」

 それは狼たちの至高の一品!

 豚骨を美味しく柔らかく煮詰めた「骨っこ」これを出した瞬間に、狼全員がクンクン甘えながら強請ったと言う一品。


 キツネさんにコレが通用するのか分からなかったが、匂いで察する事が出来るようで、涎を垂らしたのは見逃さなかった。


「勝者には、この骨一本では無く、1袋丸ごとやろう。因みに6本入っているな。」


「主!宜しいのですか?その骨は至高の一品!是非我が頂等御座います。」

 もう、小太郎はテンパっちゃって主呼びになっちゃったし、何言ってるか分かってないでしょ?


 一方、雅は‥‥口空いてるよ?涎ダラダラだよ?

 食べた事の無い極上の食い物は、予想以上にやる気に火を点けたようで、こちらも主呼びになって、漲って来たようだ。


 ‥‥じゃ、帰ろうか?

「「はっ!!」」


「小太郎、お前が先に着いても俺を忘れてるような走りだったら雅の勝ちだからな?」


「はい。重々心得て御座います。」


 良し。GO!!!

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