第21話 九尾
「話を聞こう、頭を上げてくれ。」
まだ、命が繋がった事に気が抜けて、玄関の段差に座り込んでしまった。
「寛大なお言葉、痛み入ります。」
「ああ、その前にお前とそっちの2人、怪我しただろ?悪かったな。先に治療してもらえ。」
「はい。ありがとうございます。その者たちは治療を。」
3人は侍女たちに連れられて下がっていった。
「改めまして、私はここ九尾庵の主、キュウビで御座います。この度は大変ご不快な思いをさせてしまい、申し訳御座いません。お詫び申し上げます。」
「あ~、こちらも短気を起こして申し訳なかった。しかし、一時を争う重篤な怪我と聞いてやって来たんだ。その辺は大丈夫なのか?」
イライラがちょっと残ってるのか、敬語にならない。
「はい‥‥小太郎様がお持ち下さいました、命の種のお陰で、まさしく命を繋ぎ止める事が出来ました。御礼申し上げます。」
「ご主人様、それについてお伝えしていない事が在りまして‥‥」
「小太郎‥‥なんで毎回毎回伝え忘れがあるんだよ!?説明足らな過ぎだろ?」
「も、申し訳ありません。」
「まあ、この場じゃなんだから場所を変えよう。玄関先でする話じゃ無いだろ?」
「「「あ!も、申し訳ありません。す、直ぐに場を整えます。」」」
キュウビと侍女たちが慌てて奥に引っ込んで行った。
それと同時に、鎧武者たちも改めて片膝で礼をしてから散って行った。
移動して場を整えてる間に、小太郎をちょっと叱ってやった。
コイツは自分が解かってることは、人も解かってると思いがちで説明が足りない。
「ご主人、ごめんよ~。」
この応接室?で初めてお茶が出て、喉が渇いていたので美味しかった。
キツネに化かされてしょんべん飲まされてたなんて無いだろうな‥‥?
さっきとは違って、ほんの30分もしないうちにお呼びがかかった。
「お待たせいたしました。改めましてキュウビと申します。数々のご無礼、誠に申し訳在りませんでした。」
「遊行寺 功と申します。こちらこそ短気を起こしまして申し訳ありません。」
「いえ、武にも優れている所を拝見させて頂きました。それについてもこちらの落ち度でございます、どうかお気になさらずに。当家の者たちにもコウ様に対する態度を徹底させておりませんでした。真に申し訳ありません。」
「では、本題に戻しまして、今回の怪我のお加減は如何なんでしょうか?」
「はい。先ずは、事の起こりからお話いたします。」
話はこう言う事だった。
この世界には様々な種族が住んでいる。
人間から始まり、魔物、妖精、精霊、
そんな場所で、人間との些細な諍いを納めに行ったところ、不意打ちで呪いの太刀を受けてしまった。
その人間も仕留めきれずに、逃がしてしまって呪いが残った。
仕留めていれば呪いは消せたのだが、予想以上に強力な呪いで命に係わる事態になってしまった。
今更、呪いの太刀を振るった人間を特定する事も出来ないし、解呪も難しい。
そこで、犬神様に縋ったと。
「話は分かりました。そこで小太郎の持ってきた命の種で治す事が出来たと言う事ですね?」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥ん?」
「ご、ご主人様‥‥実は。」
こいつ、また肝心な事話してないな?
俺の小太郎に対するイラッとした気持ちを感じ取ったのか、
「コ、コウ様、実は今回頂いた命の種なんですが‥‥こ、これは減った生命力を種の主が肩代わりしてくれるものです。私の命が削られた分、犬神の大神様の命が削られる事になります。‥‥‥み、見返りとしては、私、九尾は隷属となります。」
「!?‥‥と、言う事は?雷神様の生命力が呪いを解くまで削られると言う事?」
「‥‥はい。そして隷属と言うのは‥‥私は稲荷神社の神です。全ての稲荷神社が犬神様の隷属となります。‥‥そ、その決断が出来なくて‥‥今回、大変お待たせした事に繋がります。」
「っ!?‥‥‥」
予想以上に重かった。
そんな重大な決断を迫ってる時に、俺は短気を起こしたのかよ‥‥
「私が死ねば呪いは成就されます。今はまだ、後継が育っておらず、こうしてお見苦しい姿を晒しています。九尾を継承すれば、命の種を返還する事が出来ます故、今は何卒お時間を頂ければと思います。勝手なお願いでは在りますが、よろしくお願いいたします。」
「………分かりました。そんな重大な局面とは知らず、こちらの都合で無理を通しました。真に申し訳ありません。」
「後継の方を育成してるとの事ですが、後何年ぐらいの見込みですか?」
「‥‥後100年を見込んで居りましたが、どれくらい縮められるか検討中です。」
やばい、時間の間隔が人間の俺とは桁違いだった。
「生命力はどれ位削られるんでしょうか?」
「そうですね、私の生命力で3年で尽きるでしょうか?」
「!?呪いを受けたのはいつ頃ですか?」
「‥‥2年と半年?‥‥いえ、10ヵ月位前でしょうか。」
結構ヤバい状況だったんじゃないですかぁ!
「小太郎、雷神様だったらどんくらい持つんだ?」
「はい。10年以上は余裕で持つと思います。特に最近はコウ様の食事で、かなり漲っている様子ですから。心配無いと思います。」
まぁ、それは良かったかな。滋養強壮、もう少し気を使ってやろうかな。
「呪いは成就しないと消えないのですか?」
「いえ、身代わりや呪い返しなど様々な手法があります。今回犬神の大神様から頂いたのは、身代わりの一つです。呪い以上に強大な生命力があれば、呪いなんて気にする事は無いのですが、今回は思った以上に呪いが強力で‥‥」
「甘く見ててこうなった訳ですね。」
「はい‥‥お恥ずかしい限りです。」
「雷神様、自分が勝手に呼んでるんですが、彼は自分が居る限り大丈夫です。いえ、大丈夫にします。幸い、彼の食事は自分が面倒見ているので、呪いなどに負けない様に体力を付けるようにします。」
俺が雷神様の食生活を賄っていると聞いて、今回一番ビックリしたようだ。
「こういうのは、まず気持ちで負けちゃダメなんです。根拠の無い空元気も困りますが、雷神様が気持ちで負ける事は無いでしょう。体力も自分がコントロールすれば、呪いで削られる位が丁度良いかも知れませんね。」
「そ、そんな事が出来るのでしょうか?」
「それでは試して見ますか?」
「え!?こ、ここでそんな事が出来るのですか?」
キュウビは、信じられないという顔をしてコウの顔を見つめた。
コウは美人に見つめられて、勘違いしちゃイケないと、ドギマギしながらも、綺麗な女だなぁ~と、お気楽な事を考えていた。
表向きはキリッとしてるだけに質が悪い。
これも長年サラリーマンをやって来たスキル何だろうが‥‥
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