第20話 草庵の乱
今、小太郎の背中にしがみ付いている。
右へ左へ上へ下へ‥‥3次元の動きに、下手に声を出すと余計に消耗する。
口を開けると舌を噛みそうだし、戻したくなる。
学習して黙ってしがみ付く。目をつぶると動きが分からないので余計に怖い!
ちゃんと先を見て、どっちに曲がるか?どこで飛ぶか?自分ならどうするか?
見ながら学習してる内に余裕が出来てきた。
「小太郎、あとどれ位?」
「もう一回飛んだら直ぐだよ~!」
飛ぶ?何処かで飛んだか?回数が多すぎてどれを言ってるのか分からない。
「ご主人~飛ぶよ~!」
「!!!!!!!!!WOッ・・・・‥‥‥‥」
飛んだ‥‥
断崖絶壁から向こうの崖の上まで!
間は40~50mはないか?下は‥‥雲で見えない。
小太郎って飛べるんだ!?‥‥‥
全身全てが縮み上がったが、辛うじて洩らさなかった。
ここでも尊厳を守ったぜい!
そして到着した。
どうやらあんな渓谷を2回飛んだらしい。
そりゃ人間の足じゃ着かないよね。
「ご主人~こっち!」
「お!ごめん。」
小太郎の後に黙って付いていく。
着いた所は、普通の森の中なのだが、途中から雰囲気が変わった。
空気が変わった?というのだろうか?周囲の世界自体から変わった気がする。
まるで、伏見稲荷神社に来たような錯覚を覚えながら、その先にはキツネさんが待っていて、只今、案内が迎えに参りますので、少々お待ちください。
・・・・・・・・・・・・
「お待たせいたしました。ご案内いたします。」
「‥‥よろしくお願いいたします。」
一本道を200~300m進んだら竹藪に門が付いていた。
そこに多分、最初に来たであろうキツネさんが待っていたが、今一区別がつかない。
「お待ちしておりました。直ぐに九尾様に謁見できるように、人払いも済んでおります。」
「うん。先ずはこれ、父様から~」
例の『命の種』をいきなり渡していた。
「はい。受け取‥‥‥こ、これは!!」
「そう。今日来たのはそう言う事~!‥‥『コウ様』に敵対するなら‥‥ね?」
「あわわわわ‥‥‥しょ、少々お待ちください。」
『命の種』を渡したら、慌ててキツネさんは下がっていった。
見た途端に慌てていたし、相当に凄いものだとは分かるが、慌て方が尋常じゃない気がする。
俺が思ってる効果以上の物があるのかな?しかし、随分と待たせるね?
そんな事を考えていたら、キツネさんが戻ってきた。
‥‥あれ?ちゃんと着物を着て、さっきとは違うキツネさんか?
「先ほどは大変失礼いたしました。之よりは最上の礼を持ってお迎えさせて頂きます。」
「うむ。苦しゅうない。速やかに案内せよ。」
突然、隣から尊大な声が聞こえる。
は!?誰!?
眼を向けると、15、6歳の偉丈夫が姿勢をキリっと正して立っている。
え!?‥‥こ、小太郎?‥‥さん?
偉丈夫は、ニッコリ笑って、
「ご主人様、私が補佐を務めますので、どうかご心配無きよう‥‥」
余りの驚きで声も出せないままに、キツネさんに案内されて進んでいく。
いつの間にか、竹藪の中の草庵と言われる場所に着いた。
「九尾様にはお伝えしてあります。どうぞお入りください。」
案内されて建物に入るが、中は草庵どころか立派なお屋敷だった。
今度は巫女服を着た綺麗な方が出迎えてくれる。
「お待ちしておりました。我が主に代わりまして、御礼申し上げます。
どうぞこちらに。」
巫女さんに案内されて、平安神宮の中ってこんな感じなのかなぁ~?なんて考えていた。朱塗りの橋や柱に白塗りの壁、周囲の建物を見てもお寺ではなく神社。そう稲荷神社だよね。
周囲をキョロキョロしてる間に目的地に着いたようだ。
応接室の様な場所に通された。
直ぐに治療を!なんて考えてたから拍子抜けである。
ここでも暫し休憩?・・・・・・・・・・・
長い・・・・・・・・・・・・
長いぞ・・・・・・・・・・・・
「お待たせいたしました。ご案内いたします。」
返事する元気も無く、黙って付いていく。
「主様、コウ様とコタロ様がお見えになりました。」
「こちらへ‥‥」
襖が開かれ、奥にかかる御簾の向こうに居る様だ。
小太郎が何か決まった口上を述べる‥‥
それを向こうの侍女が主の言葉を聞いて伝える‥‥
内容の何もないその繰り返しにイライラしてきた。
「小太郎。この茶番はいつまで続ける?」
周囲は凍り付いた。
「ご主人様?作法を説明する間もなく、大変申し訳なく思います。」
「ああ、作法大事なのは分かるよ。でも一時を争う重篤な怪我じゃ無かったのか?こんなダラダラしてて良いなら慌てて来る必要無かったんじゃねぇか?」
「「「「‥‥‥‥」」」」
誰も口を聞かない‥‥
「そんな余裕があるんなら帰るぞ。小太郎は種を渡したんだろ?この余裕じゃ他に必要無いだろ?」
「ご、ご主人‥‥‥」
周囲の余りにもダラダラ感にいい加減ブチ切れた。
手助けを望むから慌てて来たのに、先に進まない。
間、間の待ち時間だって、どれだけあったやら。
そう、最初に着いたとき、キツネが迎えに来た後、着物キツネに代わる時‥‥
それぞれたっぷり待たされた。
1時間以上はそれぞれ待っている。
それで此処の主に会う訳じゃ無く、カーテンだか暖簾だかの向こうで姿も見せない。意思疎通は侍女?を通して。
こっちがお願いに来たんじゃない。頼まれて来たのにその態度か!?
如何にも現代人っぽい理由でブチ切れた。
怪我だか何だかで来てみたらこの扱い。
昔、接待したクソ女にこんなタイプが居たなぁ。なんて思い出してもいた。
結局、我が侭言うだけ言って、こちらの都合はどうでも良い奴。
それでこっちの希望は一切聞かないなんて、よく有る話だ。
そんな事を思い出しながら、
「小太郎、帰るぞ。」
一言言って、きた道を戻る。
小太郎が来ないならここまでだ。
屋敷の中は複雑だが、来た時に右に左に何回曲がってどう来たか?
色んなビルの中を初見で歩く時の癖みたいなもんで、ちゃんとトレース出来るように訓練してるのが、思わぬところで役に立った。
この先の直線で玄関だなって所で、甲冑を着た輩が立ち塞がった。
「狼藉者!御屋形様の屋敷をなんと心得る!?」
鎧武者が3人立ちはだかり、玄関の向こうには弓を構えた輩が多数。
「なるほど、呼び寄せて打ち取るつもりだったんだな‥‥あの種もそんな意味か?
‥‥ふぅ~‥ここまでかぁ、だったら全員道ずれに、殺れるだけ殺ってやるよ。」
収納からバールを出しながら走り込み、鎧武者にフルスィング!
刀で受けようとするが、受けた刀を圧し折って真ん中と左の鎧武者2人を吹っ飛ばした!
いきなりの奇襲で、鎧武者たちの陣形は崩れた。
懐に入り込んでるので弓隊は射る隙が無い。
初撃の返す刀(バール)で右端の鎧武者にも同じようにフルスイング。
右の鎧武者は後ろに下がろうとして、玄関の段差で体制を崩す。
腹を打ち抜くはずが、右肩の大袖を破壊して、関節を粉砕する。
倒れた鎧武者の無事な左腕を捩じ上げて立たせ、弓の盾にする。
弓武者たちに走り込んで、行こうとするその時!
「止めい!!!!」
女の声が響く!
十二単の様なゴージャスな着物を着た、切れ長な瞳の女が走り寄り、玄関の土間側に降り立ち手を着いた。
「申し訳ありません。どうか、どうかお怒りをお沈め下さい。」
「お前たち!いつまで武器を構えておる!控え居ろう!!」
鎧武者たちは全員、手を着いて頭を下げた。
腕を捩じり上げてた武者も開放してやったら、女の後ろに下がって手を着いたが‥‥痛そうだ。
「ご主人様、私の説明が足りずにご不快な思いをさせてしまいました。この罰は何なりとお受けいたします。申し訳ありませんでした。」
「小太郎様の不備ではなく、こちらの配慮が足りませんでした。更に刀を向けるご無礼まで‥‥この償いは、命を持ってお詫びいたします。」
後ろでは、小太郎と通訳をやっていた侍女や似たような女たちが、廊下で正座をして頭を下げている。
前では、かぐや姫?みたいな女と鎧武者たちが、正しく土下座をしている。
‥‥こ、これは気まずい。
ちょっと短気を起こし過ぎた。
「話を聞こう。頭を上げてくれ。」
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