第15話 刺青

 30日‥‥経ちました。


 風神様に向かい、30日前と同じように姿勢を正して頭を下げる。

「私に、魔法陣を刻んで下さい。」


「‥‥‥‥分かりました。コウ様が真摯に向き合って来た事は見ておりました。しかし、今の体力でも2つが限界です。それでも宜しいですか?」


「はい。よろしくお願いいたします。」


「では、準備をお願いします。」


「はい。何を行えば宜しいですか?」


「まずは狼たちの食事を準備してください。コウ様が動けない間は私が代わりに彼らに食事を与えましょう。準備できたら身体を清めて下さい。刻む場所は決めましたか?」


「はい。背中にお願いします。腰の上辺りにお願いします。」


「何故?その場所ですか?」


「戦いで傷つくとしたら、急所周辺ではないかと。狙うとしたら、頭、首、胸、動きを封じる四肢が狙われるかと。そう思いました。」


「そうですか。では、その周辺を念入りに清めて下さい。」

 風神様の口角がちょっと上がった気がした。


 最初に魔法ネットでドックフード20㎏x5種類x2袋ずつ計10袋200㎏を購入して他に風神雷神様用の酒やつまみも準備した。

 付け届けは大事だよね。

 後は消毒用のアルコールや脱脂綿、一応包帯なんかも準備した。

 このアルコールは絶対に飲まないように念を押した。

 メチルは目が潰れちゃうよ!と脅かしておいた。‥‥雷神様を。


「準備出来ました。」


「では、中で着て居るものは脱いで下さい。刻む陣は決まっていますか?」


「はい。収納魔法と鑑定魔法をお願いします。」


「では、コレを咥えておいて下さい。」

 太い草の茎の様な物を渡された。

 言われた通り、咥えて俯せに寝て枕の位置を直したら、枕元に木刀が置かれた。


「何か握りたくなったら、コレを握って下さい。」

 これも素直に肯いて、直ぐ取れる位置に置いた。


「では、始めます。」

 その声を聴きながら、意識が混濁してるのを気が付いた。

 この咥えてる草の茎が麻酔作用があるのかな?なんて考えていたが‥‥


「ぐおぉ!!」

 人の声とは思えない声が出た!

 痛いなんてもんじゃない!

 直接神経を啄まれているような激痛が続く‥‥


 この後はどれだけ続いたのか意識が無い。

 唯々、激痛との闘いで、草の茎を食い千切り、木刀を握りしめていた。


 身体が熱い。

 全身、汗びっしょりで気持ちが悪い。

 しかし、身体はピクリとも動かない。

 もう、このまま死んでしまうのかと死の恐怖も襲ってくる。

 そのまま、意識は沈んでいく‥‥


 トイレ行きたい!‥‥意識はトイレに向かうが、身体は動かない。

 何か身体を冷たいモノが過ぎると、スッキリ軽くなる。

 何が起きてるのか分からないまま、また意識は沈む。

 身体が熱くて暑くて、喉が渇いてまた意識は浮上するが、冷たいモノが過ぎていくと、すーっと楽になり意識は沈む。


 そんな事を何度か繰り返してるうちに、また意識は浮上してきた。

 ぼんやりと目が開けられたら、透明な水色が目の前に居た。


 名前:ライム君

 種族:エンシェントスライム

 ・・・・・・・・・・


 他にもLVや体力や細かい情報が表示されてるようだが、朦朧としていて認識出来ない。

 ああ、ライム君が看病してくれたのかぁ‥‥

 ライム君ってエンシェントスライムって種族なのかぁ‥‥


 そしてまた意識は沈む‥‥


 次に起きた時は、良く寝たな~って感じだった。

 起き上がろうとしたが、

「うっ!身体が上手く動かねぇ‥‥痛てぇ‥‥」


 暫く、もぞもぞとやっていたが、少しずつ動くようになってきた。

 意識もちゃんと戻って、自分の状況も思い出した。


「どれ位意識を失ってたんだ?」

 周囲を確認すると、寝てた毛布は汗でドロドロになっていて、もう使い様がなさそうである。

 もう周囲にスライムは居ない。


 取り合えず服を着て、川に行って身体を洗いたいと思う。

 ドロドロになった毛布を持って車から出てみると、小太郎が走ってきた。


 名前:小太郎

 種族:フェンリル

 ・・・・・・・・・・


「うお!こ、これは?‥‥そ、そうか、鑑定魔法か。」


「ご主人~!大丈夫?もう起きて平気なの?」


「ああ、小太郎。心配かけたな。もう大丈夫だ。」


「良かった~!これ以上意識戻らなかったら、覚悟しなさいって母様が言うから~!良かった~!」


「小太郎。泣くな!もう大丈夫だからな。悪かったな。」

 泣く小太郎を抱きしめてワシャワシャしてやる。

 それにしても、そんなに意識無かったのか?


「小太郎、俺はどれだけ意識失ってたんだ?」


「ん~と、今日で7日になるよ。」

 マジか!

 まる1週間意識無かったのか?

 よく生きてたもんだ‥‥

 食い物は兎も角、1週間も水分すら取って無ければ命に‥‥


 あ!?

 ライム君か!

 あの意識朦朧の中で見たライム君は、本当に看病してくれてたんだ!

 も、もしかして?‥‥下の世話も?

 何度か排泄してても不思議じゃないが、毛布には排泄の後は無かった。

 と言う事は、全て処理してくれてたって事か?


 やべぇ。ライム君に感謝しても、し切れないぞ。

 段々とどんな状況だったかを把握してきたら、唯々感謝するばかりだね。


 毛布は捨てるのも何なので、木の枝に吊るして干した。

 解体の時にでも使おうと思う。

 後は身体が気持ち悪いので、川で行水をする。

 ちゃんと小太郎にも見張っててもらうので安心である。


 鑑定魔法は、見たもの勝手に鑑定してる様だったが、慣れてきたら鑑定したいモノだけ鑑定出来る様になった。

 樹や草や色んなモノを鑑定するのが楽しくてしょうがない。


 河原の石も、ミョウバン石が分かるようになったし、色々見たらお宝発見出来るかもね?

 川を見ながら、何となく対岸の淵を見ていたら、


 名前:----

 種族:河童

 ・・・・・・・・・・


 ビクッとした。

 しかし、カッパは何をするでもなく暫くこちら見て、川に消えて行った。

 やはり、自分が勝手に妖怪認定して恐れていただけで、この世界では当たり前の生き物なのかな?そう考えると、怖がってた自分が妙に滑稽で、川で一人声を出して笑ってしまった。


 車に戻ると、

「おう、やっと生き返ったか!?一時は本当にダメかと思ったぞ?」

「ご無事で何よりです。その様子だと、魔法は定着したようですね。」


 風神雷神様が出迎えてくれた。

「湯行寺功、無事に生還いたしました。魔法も使えるようになりました。本当にありがとうございました。」


「「うんうん。」」


「今夜はまだ、思うように動けません。しかし、明日には大丈夫だと思いますので、明日の夜は細やかながらご馳走させて下さい。」


「うむ。」


 その日はハイエースの中を清掃して、早々に寝ることにした。

 明日からはまた、ランニングから始めようと思いながら、小太郎に抱き着いてゆっくりと眠りについた。




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