第14話 特訓

 一晩じっくり考えた。

 昔の勇者様の事や、刺青の事。


 透明な刺青で、外観からは分からないと言う。

 体力的、精神的に刻めるのは1度に3個までだと‥‥大きさとかは聞かなかったな。

 傷付いたらダメって事は、傷付き難い場所が良いだろう。

 やはり胸と背中がベストなのかな?


 ここまで考えて、既に刺青を入れる気になってる自分に気が付いて、思わず笑ってしまった。

 覚悟決めて入れてもらおう。

 昔の八九三の方々の気持ちを知ることになるとは思いもしなかった。


「ご主人~!おはよう~。」


「おう。小太郎おはよう!」


「今日から修行するでしょ~?」


「へ?」

 やべ!すっかり忘れてた。

 小太郎がキラキラした目で見つめてくるので否定出来なかった。


「あ、ああ。朝飯食ったら始めようか。」


 朝飯は時間も無い事だし、皆さんカリカリを食している。

 所謂ドックフードだな。

 先に小太郎と風神雷神様のステンレスボールにザラザラとドックフードを入れてやる。

 カリカリなだけに喉が渇くらしく、水用のボールにもなみなみと汲んでおく。


 先に俺たちが朝飯を食べる。

 最初は気になったが、序列というのは大事だと言うので、従っている。


 次に狼たちだが、自分たちでアルミ皿を出して来て、横一列に並んで自分の前にアルミ皿を置いて、お座りして待っている。

 なんて賢い子たちなんだ!

 これも狼たちの中での上位陣、後に女子供と下位の狼が続く。


 ドックフードの20㎏袋を抱えた俺が彼らのアルミ皿へ、カップ1杯入れてやる。

 全員に配り終わり、俺がイタダキマス!と言うと一斉に食い始める。

 ヨダレを垂らしながら懸命に待ってる姿は、可愛くってしょうがない。



 朝飯も片付けも終わって小太郎と遊ぶ?


「ご主人~掛かって来て良いよ~。バールと魔法も使ってね!」

 そう!魔法!魔力を流すって事を懸命に練習したおかげで、小太郎から教わった4属性は使えるようになったのだ。

 簡単な奴だけね。


 その魔法を打ったり、バールを振り回して挑むのだが、これが、軽くあしらわれて話にならない。

 直ぐに息が上がって、足腰ガクガクである。


「小太郎‥‥タンマ!ち、ちょっと待て‥‥もう40も超えてんだぞ?もっと丁寧に扱え‥‥」


「え~?ご主人、若くなってるのにもうオシマイ~?」


「当たり前だのクラッか‥‥へ?お前、今なんつった?」


「もうオシマイ~?」


「い、いや、その前だ。」


「ん~?なんだっけ?」


「俺は若くなってるのか?」


「え~?今更なの?」


「えっ?じゃ、何か?此処に飛んだ時に若返ったのか?」


「うん。母様が何かしたのかな~?よく分からないけどね。」


 慌てて車に戻り、ルームミラーを自分に向けてみる。

「おお!ホントだ‥‥」


 バニティミラーを開けて再度確認してみるが‥‥

「ホントに若返ってるぞ!」


 改めて自分の体をアチコチ確認するが、皮膚の張りも筋肉の感じも全然違う!

 今まで、そんな事を考える余裕が無かったので、まったく気付かなかった。

 もう元気が無くなって来てたムスコさんも直ぐに漲ってきそうで、慌てて落ち着かせる。


「道理でヒト型の風神様の裸でビンビンに反応する訳だな。」

 理由は判明したが、この若い身体じゃ直ぐに性欲を持て余すだろうから、鍛えようと思った!そんな事を考えられない程に動く事にしよう。


「小太郎!続きをやろう!」

 車から飛び出して、小太郎に襲い掛かる!


「ご主人~?イキナリやる気になったね~?」


「当たり前だ!折角若返ったんだ!ここで鍛えないでどうする!?」

 魔法を打ちまくって、バールを振り回す。

 攻撃の隙と、足さばきや棒の振り方などを指摘されて転がされる。

 ボロボロになって、魔力も尽きると同時に力尽きる。


「こんな体力振り絞ってる感覚は学生の時以来だな~。」

 改めて感じる若さの充足感である。


 昼からは日課になったお供え物の解体と毛皮の処理。

 探索は周囲だけに留めておく。

 もっと鍛えるのと、刺青を入れてからだな。



 夕飯の時に風神様にお願いをする。

 姿勢を正して、正面を向いて頭を下げる。

「俺に魔法を刻んで下さい。」


「‥‥分かりました。しかし、条件があります。」

 風神様は鋭い目で俺を見据える。

 心まで見通せそうなその目に吸い込まれてしまいそうだ。


「コウ様はまだ体力が在りません。この状態で刻んだら恐らく身体が持たないでしょう。だから、体力も魔力も鍛えて下さい。そう、コタロと渡り合えるくらいに。期間は、そうですね、30日間くらいですか。こちらの世界に来てまだ10日かそこらですね。だから明日から30日間、鍛えた状態でまたお話しましょう。」


「はい。分かりました。よろしくお願いします。小太郎!そう言う訳だ。よろしく頼むな。」


「うん。でも、ご主人~、負けないよ~?」


「おう。望むところだ!」


 翌日から、薄暗いうちからランニングを始めた。

 川で汗を流すついでに、足場の悪い川の中で素振りをする。

 その為の重い木刀も魔法ネットで買った。

 大量に買うドックフードで付いたポイントで買ったんだけどね。


 川やランニングは、ちゃんと小太郎に付いて来てもらう。

 河童や他のナニカが出たら怖いから‥‥


 朝飯の後は、小太郎と特訓をして、昼食を取って休憩。

 風神雷神様も狼たちも昼は食わない。

 何処に行ってるかも分からない。

 ただ、いつの間にかお供え物が供えて在って、ライム君が働いている。


 午後の仕事を一通り終えたら、軍曹のブートキャンプを3セット。

 と言っても、まともには出来やしない‥‥


 寝る頃はボロ雑巾の様な状態で、全身プルプルさせながら泥のように眠る。

 何時寝たのかも分からない。


 そして朝、5時には起きてランニング。

 そんな生活を続けている。

 身体の見た目も少し締まって来た。

 出来る事も増えてきた。

 結果が出てくると面白くなる。


 ランニングは背負子の籠に吸血担当のスライムたち(ライム君1匹じゃ無理な時があるので増やした。)を積んで負荷を掛ける。

 お散歩感覚らしくて、大喜びで籠の中で跳ねたりするので、最初はそれで転んだりしてたが‥‥


 素振りは魔法ネットで買った負荷用の腕輪を付けて振る。

 大リーグボール養成ギブスを探して見たけど、在る訳無かったね。

 負荷用腕輪を足首にも付けて普段から負荷を掛けようと思ったのだが、これがメチャメチャ邪魔だったんで諦めた。


 小太郎との乱取りは‥‥勝てない。

 武器はバールから素振り用の重い木刀に変更。

 渡り合う?無理無理!あの図体で、なんであんなに動けるのか?後ろに目ぇ付いてるのか?って動きをするし、魔法の不意打ちも躱される。


「ご主人、分かりやすいんだよ~。」

 うん。俺には分からない‥‥

 目線とか筋肉の動きとか重心移動とか?分かんねぇよ!


 ブートキャンプは、1セットは出来る。

 2セット目は厳しい、3セット目はグズグズである。

 これが熟せる頃には軍曹の様な身体になる?‥‥嫌かも。


 そして、30日経った。


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