第25話 ゲームは続く

 雪が降る中をソロモンとヴィクトルは進む。馬車が使えなくなることは想定済みで、方位磁針を持ってきていた。勿論魔力ランタンで灯りも問題なし。


 方角を確認して歩けば途中で城と町を結ぶ道を見つけることが出来た。後は道に沿って歩くだけだ。


 馬車が通らねぇかな。そしたら乗せてくれるかもしれないのに。


 日は沈みきり一層寒さが厳しくなってきた。こんな時に好き好んで町を出ようとする者は居ないだろう。ましてやこの道は山の上の城へ続く道、賢明な者なら日が沈む前に越えようと時間を調整するだろう。


 方角はあっている。道からは外れていない。町の光はまだ見えないがこのまま歩き続ければ町まで着く。そこまで遠いわけじゃない。


 雪の中でも足取りは軽い。静寂の中に、雪を踏みつける音が規則正しく消えていく。


「寒いなぁ。あ……風が吹き始めてきたなぁ」


 余裕があった。寒さも耐えられないほどではなかったし、歩き続けていれば気にならなかった。ヴィクトルは元々寒さなど問題じゃない。


 だが二人を待っていたのはある意味他のプレイヤーよりも厄介な敵だった。


 暴風雪ブリザードである。瞬く間に天候が変化。全身を斬り刻むような強風が、狂った様に平地を駆け回る。雪は灯りの光を掻き消してしまう程の量になり、体力を容赦なく奪っていく極寒がまとわり付いていく。


 完全に想定外だ。俺の認識が甘かった。ミウラの方に意識を向けすぎてて、天候不順を考えていなかった。まさかこんなことになるとは……。


 心が弱り精神力がジワジワと削られていくのを感じた。


 避けられた災害だったかもしれない。運が悪かっただけかもしれない。けれど後悔しても時は巻き戻らない。


 足取りは鉄の塊でもくっついたかのように重くなり、やがて全身が動かなくなっていった。意識が遠く、消えていく。


 太古から存在する自然の驚異。何人にも平等に襲い、数多の人間を震え上がらせ、恐怖のどん底に落とし、命を奪ってきたであろう力。


 無慈悲。ただただ無慈悲。ヴィクトルは動き続けられるが、この悪天候の中では明らかに鈍い。ソロモンは遂に足が止まり倒れ込んだ。


 ゲームオーバー……天に見放された……か……。いや……俺のミスだ……な……。

 意識が昏い闇の向こうへ沈んでいった。


 

 沈んだ意識が再び浮かんできたのは、次の日の明け方近くだった。ベッドの上で目が覚めたソロモンの視界に真っ先に入ってきたのは、覗き込む骸骨の顔だ。小さな間接照明に照らされて少々不気味な雰囲気を見せる。


「あ……ヴィクトルか……」


 相棒は一度だけ頷いたら足早に部屋を出て行った。分厚い布団と暖房でむしろ熱いくらいの部屋にはソロモンだけだ。


 どうやら俺はまだ生きているらしいな。


 薄暗い室内、窓は外から風が叩いているようだ。


 ヴィクトルは男を一人連れてきた。彼は医者で話を聞くと、ここは病院でヴィクトルがソロモンを背負って町まで帰ってきたらしい。


 左腕の負傷はきちんとした治療が施されており、凍傷は軽度でもう少し休めば問題なしだ。


「またヴィクトルに助けられたな。全く……俺はお前が居ないとダメだなぁ」


 ヴィクトルは首を横に振った。

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