第23話 考察

 ミウラの顔から余裕の色が消え、焦りと怒りの色が見えてきた。反対にソロモンの顔は落ち着いている。


 ヴィクトルは被っている仮面の向こうから眼球無き眼を光らせ、僅かな動きも見逃すまいとミウラを凝視し防御体勢を維持。現状は双方決め手を欠いて膠着状態。


 壁となっているヴィクトルの後ろで、ソロモンは少し後退して距離を取りながらミウラの能力の考察を続けていた。


 俺の傷口からすると近距離は見えない刃だろう。遠距離は衝撃波だな。こちらの攻撃は全てすり抜けてる。手応えは全く無い。


 プレイヤー自身は魔法を使えない筈。プレイヤーに与えられている能力は一つだけ。どんな能力だ……。この攻撃技を使えて、こっちの攻撃をすり抜けるのは何故だ? どんな能力ならこんなことが出来る?


 幻術の類いで躱しているわけじゃない。それならとっくにヴィクトルが見破って有効打を与えているし、攻撃技が幻なんてありえない。


 幻術や精神攻撃を一切受けないヴィクトルの特性だ。


 見えない刃……持っている物を見えなくする能力なら武器や魔装具を隠して使う事は可能だ。それだと攻撃がすり抜けた事に説明がつかない。


 見えなくした武器……例えば剣やナイフで斬りかかったにしては鎧に当たった時の音が小さすぎる気がするし、ブロジヴァイネを振った時に武器に触れた感覚も無かったから除外。


 瞬間移動で回避は無いな。それなら背後に回って斬り掛かってくる筈だし、衝撃波を飛ばせるとは思えない。


 サイコキネシス、違うな。まさか攻撃と防御で別々の能力なんてことはないよな?


 正解が出ない、見つからない。必ず弱点と攻略法があるのに辿り着かない。


「埒があかねぇな。他のプレイヤーも甘ちゃんじゃないってか」


 ミウラはヴィクトルへ走り出した。ソロモンはすぐにその理由に気付いた。


 俺狙いか。ヴィクトルをすり抜けて来るな。距離を取って遠距離攻撃じゃ、俺達を倒せないと踏んだか?


 ――それは十分離れれば負けない、遠距離攻撃の威力が低いという証拠ではないか。威力が高いのは近距離攻撃だけという事ではないか?


 予想通りミウラは真っ直ぐソロモンへと走ってきた。


 近距離攻撃への対応……賭けか!


 近づく敵、自分を殺しに来る敵。ソロモンは薄く積もった雪を力強く踏みつけて前へと進む。自分へ向かってきた事が予想外だったのか、一瞬動きが鈍ったミウラに右手の魔剣を振り下ろす。


 この一振りもすり抜けるがソロモンは足を止めずにミウラの背後へ。見えない刃の予備動作の途中で、攻撃範囲の外へと逃げる。振り向いたヴィクトルの横を過ぎて、先程と同様にヴィクトルを盾にする位置へ移動。


「危ねぇ危ねぇ」


 荒くなった息を吐き出しながらヴィクトルの陰に隠れた。怒りで顔が歪みそうなミウラが振り返る。


「空気みたいな体だよな。面白いくらい簡単にすり抜けるぜ」


 挑発とも取れる言い方で強がってみせるソロモン。ヴィクトルの後ろに隠れながら言っているので、若干の腰抜け感が出ている。


 ――――――空気?


 閃き。それが再び思考を加速させていく。


 体が空気もしくは気体に変化したなら攻撃はすり抜ける。見えない刃が射程の短い風の刃で、衝撃波が実は『空気砲』とかならば……。


 空気や気体が能力に結びつく。攻撃と防御の共通点としては有り得るな……。


 勝つ為にやれるだけのことはやってみるか。


「フン、次で終わらせてやる」

「それはどうだろうね。アンタの能力が分かったから、どうなるかは分からないよ?」

「……ハッタリだな」


 言葉で揺さぶりを掛けた。ミウラの言う通りこれはハッタリである。


「無敵と噂の能力の正体。体を気体に変えて攻撃を防ぎ、カマイタチのように風の刃で斬り掛かり、衝撃波か空気砲で遠距離攻撃……」


 揺さぶりを続けながらミウラの反応を見る。正解か不正解か。それともどちらともいえないのか……。


「自身が風になる能力で周囲に風を起こせる、か? それとも空気に干渉する能力で、自身も気体に変わる特性がある、とかか?」


 ミウラの表情が大きく変化していく。それを見逃さなかった。


「そのツラ……風か気体関連の能力で間違いないらしいな」

「どうかな」


 平静を装っても焦りの色を隠しきれていない。ハッタリは確信に変わった。


 ソロモンは後ろからヴィクトルに耳打ち。


「一か八かで勝負に出るぞ」


 ヴィクトルはミウラから目を離さずにゆっくりと頷いた。

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