第22話 折れない闘志
激痛が体を走る。本能的に歯を食いしばって耐えようとする。左腕から生暖かい血が垂れていく。無意識に相手から離れようと後ろに下がる。
「一撃必殺……とはいかなかったか。フッ……鎧か。準備がいいことだ」
切り裂かれた防寒服の中に鈍い光沢。胴体を致命傷から守った防具。
一発食らったが幸い左腕を負傷しただけだ。傷はそこまで深くは無いから動くし、利き腕は無事。まだ戦える。
――このまま戦い続けても勝ち目が無いけどな。こっちの攻撃が効かなければジリ貧だし。
衝撃波が飛んできた。今度のは躱せない。防御も半端で吹き飛ばされる。薄く積もった雪が舞い上がる中で、ソロモンは全身に響く衝撃に耐えていた。
全身から力が消えたような感覚。意識はハッキリとしていても体が言うことを聞いてくれない。
それでも考え続ける。頭は動かし続ける。弱点は何かを。どうすればダメージが入るのかを。
まだ負けてはいない、勝負は付いちゃいない。そう自分に言い聞かせて折れない闘志を燃やし再び体を動かす。痛む左腕と無事な右腕で上体を起こす。ミウラを睨みつけ、戦闘続行の意思を見せる。
「まだやる気か。無駄だ」
舌打ちをして衝撃波を放つ。押し出されるような力で仰向けに倒す。それでも再び立ち上がろうと全身に力を入れる。
「耐えるなぁ。そういえば気になったんだけどさぁ。お前、本名はなんていうんだよ」
余裕の表情でゆっくりと近づきながらミウラは問う。ソロモンは眉を吊り上げて、
「
一言だけ放ち剣を握る手に力を込め直す。ミウラは一瞬止まってから、またゆっくりと近づいて来る。
その体から槍の穂先が飛び出した。貫いているのに血が出る事も無くすり抜けた槍。自己再生が終わったヴィクトルが背後から攻撃したのだ。
「復活したのか?」
振り向くと同時に、腕を斜めに振り上げる。ヴィクトルの首を落としソロモンに手傷を負わせた技だ。冷え込んだ戦場に金属音が鳴る。鎧に当たったようでヴィクトルは無傷。
盾を構え半身になるヴィクトルとミウラが正対する。ミウラは続けて攻撃を放つが、首元を守るように防御の体勢をとったヴィクトルには有効打になっていない。
至近距離からの衝撃波に切り替えても、ヴィクトルは腰を深めに落として踏み止まる。
ミウラは舌打ちをしてソロモンへ向き、衝撃波の照準を合わせた。
「いい加減ムカついてきたぜ。そろそろくたばれよソロモン!」
ソロモンは回避行動を取る。撃ち出された衝撃波は、体当たりでミウラの体をすり抜けて前に出たヴィクトルに当たった。至近距離での直撃にヴィクトルは体勢を崩しかけたがすぐに立て直す。ソロモンを守るように二人の間で盾を構えた。
「ご主人様を守ろうってか? スケルトンの癖に生意気だな」
「良い相棒だろ。名前はヴィクトル。メイドインゴエティアの悪魔特製だ。羨ましいか?」
「気味が悪ぃだろ、そういうのは倒される雑魚モンスターって相場が決まってるもんだ」
ソロモンは堪えるように小さく笑った。
「最初は俺もそう思ったよ。いや、気味が悪いとは思わなかったんだけども。でも貰った能力がスケルトンで良かったと今は思ってる」
五回の強化でスケルトンイオタと呼ばれるようになり、まだまだ強化の余地が残っている非生物の相棒。今まで何度も助けられてきた。未知の世界に放り込まれても心強かった。
この瞬間にも無敵と呼ばれた能力を前に、臆する様子を見せずに壁となって立っている。
「アンタの能力よりも強いし便利だ。そうだろう? 大地の勇者さんよ」
「そんな訳あるかよ」
再び衝撃波。ヴィクトルは背後のソロモンへ通さない。
「アンタの能力、大体分かってきた。少なくとも俺とヴィクトルを倒せる攻撃力は無い。そうだろ? 遠距離攻撃は直撃しても致命傷にならないし、近距離でも手傷を負っただけで、そもそも鎧を貫く訳じゃない」
攻撃パターンが二種類しかない。致命傷になり得るのは近距離攻撃の方だ。両方ともヴィクトルは対応できている。
ヴィクトルの背後で応急手当をしながら考える。左腕から垂れた血は左手の指先近くまで来ていた。一気に吹き出したわけではないのでまだまだ余裕がある。
今はまだ拮抗状態だがヴィクトルなら致命傷を食らわない限り長期戦で有利。もしアイツの弱点が、能力の発動時間に制限だとすれば粘り勝ちを拾える。
――そうさ無敵の力なんて有るはずがないんだ。
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