第21話 無敵の力
吹き飛ばされた荷台の木片がソロモンの頬をかすめた。冬の冷気を浴びた頬に熱を持った血が垂れる。咄嗟に腕で頭を庇ったのでダメージは小さい。
「悪知恵はいくらか働くらしいが、こうなればもうぶつかり合いだな」
番えていた矢が真ん中から折れていたのに気付き投げ捨てた。ミウラは人差し指をソロモンへ向けていた。
ヴィクトルも無事だったようで大破した荷台から飛び降りた。着地の衝撃で薄く積もった雪が少しだけ舞う。馬車は走り出しこの場を離れたが行き先を気にする者はいない。そもそも止めることが出来ない。
「スケルトンを連れているって話だがお前か?」
ヴィクトルに気が付いたミウラは人差し指を向ける先を変えた。攻撃はヴィクトルの方が早い。盾の裏側に取り付けられた銃口を素早くミウラに向け、引き金を引く。
十メートルと少しの距離。ヴィクトルの腕と武装の性能ならまず外さない距離。
発射された弾丸は真っ直ぐにミウラの胸の真ん中を貫いた。発射音でソロモンは攻撃を仕掛けた事を把握する。
致命傷になってもおかしくない。にも拘わらずミウラは平然としている。それどころが衝撃波を人差し指の先から発射し、ヴィクトルへ反撃した。
回避も防御も出来ずに直撃を貰う。衝撃で吹き飛ばされるがヴィクトルは無言で立ち上がった。
「チッ、タフだな」
ミウラは直撃に耐えたヴィクトルから目を離さない。一見すると無防備の体を、ソロモンは魔装弓で狙う。鍛錬の積み重ねを乗せて射る矢は、ミウラの体を通り抜けて自然に着陸。直後発射された衝撃波がヴィクトルを襲う。今度は盾で防ぎ僅かにノックバックしただけで耐える。
成る程、無敵の能力と言われるだけあるな。さっきヴィクトルが撃った弾もすり抜けたらしい。
額にほんの少しの汗が滲み出る。
攻撃が通らない防御型の能力だとは予想していた。予想外なのは攻撃技だ。異世界人だから魔法は使えないし、見た目で魔装具の類いでない事は明らかだ。
無敵の能力は攻めと守り両方か。厄介だな、流石に一筋縄ではいかないか。
だから策を立てたのだ。情報収集と装備の調達、頭数が一つ多い利点を生かした奇襲狙い。手紙を受け取ってからの行動も迅速だった筈だ。
結果はアドバンテージを取れなかった。町から離れたので周囲を気にせず戦えるが、これは相手にとっても同じでありプラスにはならない。
無敵なんて有り得ない。ゲームバランスを重視する運営だ、何か攻略法があるに違いない。それを見つければ勝てる。
距離を置いて様子を窺うソロモン。ヴィクトルは反対に突撃。細身の槍で突き技を仕掛ける。ミウラは回避を一切しない。槍は体をすり抜けた。
「至近距離ならどうだ」
指をヴィクトルの首元へ向ける。後退しようとしたヴィクトルの首が風切り音と同時に切断された。頭部を切り離された体は背中から倒れる。
「血が出ねぇな。やっぱりコイツがスケルトンか。何か頭が落ちても動き出しそうだな。主人を倒さなきゃならないってか?」
薄ら笑いを浮かべてミウラは攻撃目標を移す。ソロモンは睨みつけながら頭をフル回転させる。
弱点はあるはずだ。絶対に。攻撃技まであるなんて強すぎだ。攻略不可能な能力なんて運営は許可しない。
遠距離攻撃も近接攻撃も効かない。何か有効な攻撃手段があるのか。思いつくのは攻撃魔法だが……。
ミウラが人差し指を向ける。咄嗟に横方向へ走り出した事が吉となり、衝撃波を回避できた。ミウラの周りを反時計回りに走り、付かず離れずの距離を保つ。動き回る相手には狙いを付けにくいのか、次発が飛んでこない。
しかし走り続けても勝ちにはならない。体力が無くなれば餌食になるのは必然である。
時々矢を射るがやはりすり抜けていく。有効打はゼロだ。
走りながら魔装弓を仕舞いブロジヴァイネを抜いて接近戦へ切り替える。衝撃波を食らうリスクは承知の上。生き物の血を啜る魔剣なら、無敵と呼ばれた能力に届きそうな気がしたのだ。
衝撃波を撃たれる前に魔剣の刃は振り下ろされた。矢と同じくすり抜け届かない。
手応えが全く無い。まるで何も無い所を斬ったみたいだ。意外に武器による攻撃が効かないだけかもしれない。
「思ったより動けるらしいが効かねぇんだよなぁ。俺にはよ」
指先で線を引くように腕を動かす。ヴィクトルの首を斬り飛ばした技。放たれるのと同時に体当たりをしたソロモンは、ミウラの体をすり抜けて背後へ移動したことで幸運にも直撃を避けることが出来た。
「てやッ!!」
蹴り技、これもすり抜ける。相手の首と頭部を狙って剣を突き出す。すり抜ける。
どれもダメか……。弱点の部位が有るわけじゃないな。攻撃魔法の類いか? ヴィクトルの魔装具は厳密には攻撃魔法じゃないから試せねぇ。
魔力で弾丸を飛ばす武装なので、実体弾の射撃攻撃だ。
思考を分析に回した事でソロモンの動きが一瞬止まる。それが回避行動の遅れに繋がってしまう。
振り向くと同時に放たれた攻撃で、ソロモンの体が斜めに切り裂かれた。
「当たりだ」
ミウラは勝ち誇った顔で笑う。
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