第20話 会敵

「大地の勇者様ですね? ソロモン様からの返事をお持ちしました」

「おっ、思ったより早いな」


 ミウラは中年男性から手紙を受け取った。手紙の下に付け足された文は、この世界の文字で書かれていた。


『異国の文は読めなかった。しかし私は貴殿に興味がある。我が城に招待しよう。迎えを出しているから今から来てくれたまえ。歓迎の用意は出来ている』


 ミウラは二、三回読み返した。


「考えすぎだったか……。まあ歓迎してくれるというなら無下には出来ないなぁ。招待を受けよう」

「外に馬車を待たせていますのでどうぞ」


 ミウラは荷物を纏めて宿をチェックアウトした。その間に手紙を届けた中年男性は外の馬車まで移動。


「招待に応じるようです。今準備しているところです」

「武器は何を持っていましたかね?」


 箱型の貨物用馬車の御者席に座る御者は少年の声で問う。


「ナイフを一本ぶら下げていたみたいですが、他は分かりませんね。魔法を使える人間かもしれませんよ」

「魔法を使うか。そんな筈はないんだけども……ぶっつけ本番か」


 厚手のコートとフードとマフラーで身を包んだ御者は、ポケットに手を突っ込んだ。


「協力してくれてありがとう。ここまででいいよ」


 掌には取り出した銀貨が五枚。


「では失礼します」


 中年男性は差し出された手から銀貨を受け取って街の喧騒へ歩いて行った。時間は午後五時、空にはもう月と星が雲の切れ間から覗いていた。


 それから十五分程経った後、大地の勇者ミウラを乗せて馬車は出発した。街へ入る馬車達を横目に、人間の営みが放つ光から遠ざかっていく。


 御者席に座るミウラは腕を組んで、魔力式ライトが頼りなく照らす先を見ていた。


「なぁソロモンって城主はどんな人なんだい?」

「分かりません。直接お会いしたことがありませんので」


 素っ気ない返事をしつつ御者は僅かに進路を変える。


「勇者様は無敵の力をお持ちだとか。城主様は大層興味を持ったようです」

「ああ地の神バイラックの加護があってな。これが証拠だ」


 左手の甲に浮かんだマークを見せる。山の下に谷を表す長方形。地の神バイラックの紋章だ。


 話を振って気を逸らしつつ、御者は僅かずつ進路を変えていく。

 その後も適当な話を振っていたがミウラは突然腕を組んだまま返事もせずに黙り込んだ。


「……やっぱり変だよなぁ」


 ミウラは急に走行中の馬車から飛び降りた。御者は慌てて馬車を停止させるが、急減速中に反対側へ飛び降りた。


「道から外れて進んでいるように思うんだよな。城に向かってるとは思えねぇし、歓迎しているにしては城主らしくない迎えの馬車だしよぉ」


 御者は答えなかった。馬車の陰に隠れるように移動し荷台を叩く。二回、一拍置いてもう二回。中で隠れている相棒へ、戦闘開始だ不意討ちを狙えの合図。


「俺に含むところでもあるのかい? 金品目当てなら止めといた方がいいぜ」

「バイラックの加護がある、とか嘘ついてイキっている異世界人がいるらしいから、退場してもらおうと思ってさ」


 御者は魔装弓を起動させ光の弦に矢を番える。


「テメェ……プレイヤーか」

「サポーターがその筋の悪魔でさ。古代イスラエルの王様の名前を名乗らせて貰ってる」

「イキりはテメェもじゃねぇか」


 お互い敵だと認識した瞬間である。


「城主が他のプレイヤーじゃねぇかと思っていたが、まさか探りの手紙を出したその日に戦うことになるとはな」


 ソロモンは番えた矢に力を入れながら射撃のタイミングを計る。


 ヴィクトルはまだか。合図には気が付いているようだが。


 箱型の荷台の中からは、微かに何かが動く音が聞こえる。ヴィクトルの不意討ちに合わせて攻勢に出る算段だ。


 しかしそれは馬車が吹き飛んだ事でご破算となった。均衡状態が崩れ、馬車を引いていた馬は驚いて逃げ出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る