第19話 戦闘準備
エウリーズ達は『ヴィクトルちゃん武装強化計画』と銘打って、限られた資材と設備で装備の制作を行った。出来栄えを見て欲しいと連絡を受けてソロモン城研究所に向かう。 朝からやってる魔物狩りは休憩を兼ねて一時中断だ。
「これが例の盾ですか?」
テーブルの上に大型の盾。ヴィクトルが使っていた物を改造する、という話は聞いていた。試しに持ち上げてみれば結構な重さで、鍛えた両腕にずっしりくる。
「盾自体がちょっと大きくなってますよね」
「そうそう防御面を考慮してねぇ。なるべく大きくしてみたのよ。裏側も確認して頂戴」
「おっ? これか」
長い金属筒、異世界式ハンドガンの銃身を長くした物で発射装置も取り付けてある。
「発射装置を少し大きくしたから威力は上がったし、銃身が長いと当たりやすくなるっていうから伸ばしてみたわよぉ」
「弾は五発作れました。既に装填されています。木材を加工した模擬弾で試し撃ちしてもらいましたが、調子は良さそうですよ」
説明を受けながらチェックをする。
「流石に仕事が速いね。イメージ通りだよ。予備の武器としてナイフも二本付いているし、後はヴィクトルが使いこなせるかだけど」
重すぎて持てないとか、持ち上げるだけで精一杯とかだと使い物にならないからな。
「問題無さそうよ。重量の調整は気を使ったからねぇ」
ヴィクトルはソロモンの両手から盾を持ち上げた。左手で取っ手を握り上腕部に固定する為のベルトを締める。そして盾を九十度回転させるように腕を上げ、裏側の銃口を誰も居ない壁に向けた。一連の動きは練習していたのかスムーズだ。
「盾が重くなると、腕への負担が大きいという問題が避けられないのじゃがな。此奴なら問題なかろうよ」
銃口を前に向けながら走り出す。素早く構え直し防御態勢を取りながら前進。見えない相手を殴るように腕一本で振り回す。
「いいね!!」
親指を立てるソロモンに同じ動作で返すヴィクトル。
その後もヴィクトルの動きを見つつ装備の調整などを行った。防具まで手が回らなかったので、鎧やグリーブ等はそのまま。メインの武器は今まで使っていた細身の槍。サブでダガーを一本、利き手である右手で扱えるように右腰の背中側に取り付けた。
後はシェイラさんからの情報待ちか、な。エウリーズさん達は限られた設備と資材で良くやってくれたんだ。流石にこれ以上は望めない。
領地内での魔物狩りでブロジヴァイネも調整できたし、シェイラさんの情報が来れば今回の手札は揃う。懸念材料は相手の能力と薄ら雪が積もった足下か。
この辺りは雪が多い地域でこれから本格的に降るらしいしな。テレビで見た東北や北海道の映像みたいになるのかな。
東京で生まれ育った俺にとって雪は慣れていない。防寒対策はしている。でも『雪国』で動き回るのは初めての事だ。
相手も同じならいいんだがな。ま、今日は魔物肉を食べて体を休めておくか。
暖房が効いた部屋から一歩でも廊下に出れば、全身を突き刺す寒さが待っている。吐く息を白くし、流した汗を凍らせる。この城で暮らす者全てに等しく容赦が無い。
「東京の比じゃねぇな。山の上だから尚更か」
暖房設備の調子には気をつけよう。ヴィクトル以外は死活問題だ。
夕食に並んだ焼き魔物肉を適当に作ったソースを掛けて食べ、早めにベッドに入った。疲労感が睡魔を引き寄せ、冬用布団一式が招き入れる。
夢を視る事も無く次の日の朝を迎えた。最近ヴィクトルが適当な時間に暖房のスイッチを入れてくれるので、寝起きで震えることはなくなった。無防備な睡眠中でも動き続けるヴィクトルは本当に便利だ。
最後の手札が配られたのはお昼過ぎ。シェイラが持ってきた手紙だ。
「城主様、大地の勇者が貴方のことを探っていたようですよ。この手紙を渡してくれとウチの者に言付けたそうで」
「向こうも狙いを付けていたか」
手紙の封を雑に破り中身を取り出す。
『イスラエルの王へ。この世界に転生でもしたんですか?』
文は日本語で書かれていた。ソロモンは小馬鹿にするように笑った。
名前で当たりを付けてきたか。
「シェイラさん、コイツはどういう人物か出来る限り教えて下さい」
「私は会ったことは無いけど、部下に聞いたら三十代前後の黒髪の男だったそうよ。名前は『ミウラ』。中央大陸の方から渡ってきたようね。無敵の能力の詳細は不明。金使いは荒いみたいで、よく酒場や娼館に出入りしているらしいわ」
「収入源は?」
「護衛業と盗賊の討伐で稼いでいるそうよ。最近南の方の治安が悪くてね。ラグリッツからの移民が多くて、その一部が盗賊になったって」
「あの国、政治的に揉めていたからな。ケステンブールに飛び火していたのかな。数ヶ月前に行った時は大騒ぎだったけど今は置いておく」
今大事なことは大地の勇者を名乗るプレイヤーと戦い勝つことだ。
「ミウラに仲間は居ますか?」
「多分居ないわ。最近渡ってきたから帝国内に支援者は居ないと思う」
「よし、いいぞ! 後はミウラの居場所だけど」
「場所は知っているわ。返事があるなら届けてくれと言われている。帝国側の最寄りの街で、宿を取っているそうよ」
「分かった。それじゃあ返事を書くとしようか」
ペンを借りて手紙の下に書き足す。封筒には入れずにそのまま渡すように頼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます