第7話 秋の日
この世界に来てから本格的に始めた料理。基礎的な部分は料理のレシピ本を見ながら学んだが、料理の発想は元居た世界の経験が基礎となっている。
例えばラーメン食べたいから始まって麺料理を作り始めたパターン。この世界で麺料理は未確認だがパンが主食の文化が世界全土に広がっているらしく、小麦粉だけは安価で大量に手に入る。勿論元の世界の職人が打った麺や、専用の機械で量産された麺とは違うだろうが、繰り返し試して近い物は出来た。
麺さえ作ることが出来れば汁と具材でバリエーションが増やせるし、ソース次第でパスタにもいける。
試しにミートソースのパスタを出したところ、ベルティーナは見たこと無いと言った。初見で食べるのに手間取ったようだが大好評だ。
こんな調子で朝昼晩と違うメニューを提供するソロモン。具材や味付けを変えるを含めればレパートリーはそれなりの数になる。ベルティーナはどれも美味しそうに食べた。
ベルティーナが来てからいつも決まった時間に食堂で食卓を囲む。味の感想を聞いたり料理の説明をしたりするが、会話はそれだけだ。
彼女は一日中自室で本を読んで過ごしていて、図書室と食堂しか出歩かない。馬車があるから町へ行きたければ御者をすると伝えても、行きたくなったら頼むと言うだけだ。
ソロモンは料理以外は普段通りの生活を続けていて、ベルティーナと会う機会は食事の時だけ。
そんな生活が三週間続いたある日の夜、執務室で定期的に届く報告書の山を眺めながらソロモンは溜め息をついた。ヴィクトルは執務室の一角に用意された彼専用の机と椅子を使って読書中。一日のお勤めを終えた後は朝まで読書をして過ごすのが今のライフスタイルだ。
「あーダメだ。やっぱ一朝一夕で領地経営は出来ねぇわ。難易度がベリーハードってレベルじゃねぇぞ」
足下のゴミ箱にはクシャクシャになった紙が溢れそうになっている。
「学校には真面目に通ったが領地経営の授業なんて無かったしなぁ。準備も無しに文化も歴史も違う世界にやってきて、たかだか四ヶ月の俺じゃ土台無理だってーの。この状況で上手くやって発展させられる奴なんざ居る訳ねーよ。居たら見てみてぇわ」
頬杖をついて書類の山を見やる。中身はエルドルト行政官から届いた領地の調査報告だ。必要な人員と費用は、エルドルト行政官の働きかけでレンドンの行政府から出してもらっている。これは支援の一つで調査報告から計画を練る事になっているが、それが全く進んでいない。
領地内に致命的な問題が見つかったのだ。調査がまだ途中なので、正確に言えば致命的な問題が解決できるか分からない、だ。
「……今日はもう寝るかな。疲れたし眠くなってきた……」
ゆっくりと立ち上がり寝室へ向かおうと歩き出した時だった。隣の部屋のドアがゆっくりと開いた。その方向へソロモンとヴィクトルが視線を向ける。
その向こうから覗き込むように顔を出したのはベルティーナだ。真下の部屋に直通の階段があるので、そこを上ってきたようだ。
「夜分に失礼します。ちょっとお話があるのですがお忙しいでしょうか?」
「いや、大丈夫。座りなよ」
ソロモンは部屋の隅から椅子を一つ持ってきた。元々この部屋に置いてあった物だ。
「ありがとうございます」
部屋着に上着を一枚羽織ったベルティーナは、少し安堵したような表情を見せてから座った。ソロモンもさっきまで座っていた椅子に座って正対する。
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