第6話 ソロモンの料理

 その日の夜、本館の食堂にベルティーナはやってきた。隣の調理場を覗く彼女は、鍋をかき混ぜているソロモンを見つけた。


「やっぱりお食事はソロモン様がお作りになるのですね」

「ああ、町から離れすぎて気軽に外食も出来ないしね。それに自炊してると安上がりなんだよ。魔物の肉とかは食べられるの? 今日は入れてないけど、食べられるなら明日は魔物肉のスープにしようかと思うけども」

「牛に似た魔物の肉なら何度か頂いた事があるので、抵抗はあまりありません。解体した後は家畜の肉とあまり見分けが付かないと聞きますし、ソロモン様にご用意して頂いた料理を無下にはできません」

「そうかい? それなら良かった。もうすぐ出来るから食堂で待ってて」


 お嬢様は魔物の肉を食べないのかと思ったけど案外そうでもないのか。まあ市場には割と流通しているらしいし、食糧不足になってくると大規模な狩猟活動をやることもあるって聞いたしな。


「よーしスープはいいぞ。ヴィクトル、パンの焼き加減はどうだ?」


 親指を立ててこちらを向くヴィクトルの左手には、こんがり焼き上がったパンが並ぶトレーが。


「今日もバッチリだな。それじゃ運ぼう、お嬢様がお待ちだ」


 今日のメニューはじっくり煮込んだ鳥肉と野菜の具沢山スープ、ソロモン特製の栗入り焼きたてパン。ベルティーナが待つ食堂のテーブルに手際よく並べる。


 食堂は五十人は楽に入るほどの広さがあるが、食堂への廊下の近くに長テーブルと簡素な椅子がいくつか並んでいるだけだ。


「あまり豪勢な料理じゃないんだけど味にはちょっと自信があるんだ。冷めないうちにどうぞ」


 ベルティーナの向かい側にソロモンが座った。


「ありがとうございます」


 ベルティーナはまずスープに口を付けた。汁を一掬い口に含み、次に具を食べた。その様子をソロモンとヴィクトルが窺う。


「……味はどうかな?」


 ベルティーナはニッコリと笑って、

「とっても美味しいです」

「それは良かった。お替わりもあるからどんどん食べてね」


 ソロモンの背後でヴィクトルがガッツポーズ。


 そこからはお互い無言で食事を続けた。今日の料理は好評だ。空の鍋と食器を片付けて今日は早めに休む。


 次の日の朝、食堂のテーブルに座るベルティーナの前に朝食が並ぶ。主食は大きめに焼いたパンを半分に切ってくり抜き、その中にとろみがあるシチューを流し込んだ物。具材は細かくカットした魔物肉と二種類の根野菜だ。くり抜いた中身はマーガリンかジャムを付けて食べた。


 そのまま齧り付くソロモンに対して、ベルティーナはナイフとフォークを慣れた手付きで使う。育ちの違いがよく現れている。


「美味しい」

 ベルティーナは柔らかい表情で小さく笑う。ソロモンは手を止めた。


 自分が生きる為の料理だった。同じようなメニューが続くと飽きるから、という単純な理由で有り余る時間を費やした結果。不味い食べ物が許せない一心で、何度も失敗しながら調理場に立ち続けた。たったそれだけのことだ。


 この顔が見られるなら、もっと頑張って料理を作るのも良いかな。

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