第25話 未来で出会った人

 ブロジヴァイネの前に南京錠など無意味。あっさりと鉄格子を開けて、女性陣を縛る拘束具を外しにかかる。召し使い達も捕らえられていたようだ。


 再会を喜ぶ声が石の壁に反響する。その中でソロモンは一人の女性を見ていた。ガルガヴァルの宝玉が視せたあの女性だ。


 金髪のショートヘアーで値が張りそうなドレスを着ている。上品な雰囲気を纏う大人の女性だ。心配そうな顔をした男性を励ますように笑っている。


 大きな影響を与える人……か。自分を救う人なのか殺す人なのか。妻になる人? それとも親友になる人? 敵か味方か、良い方向になのかその逆なのかすら今は分からない。


「あのご婦人が気になるのかな?」

 ロアロイトだ。どうも一人で来ていたらしく、再会を喜ぶ輪の中には入っていなかった。


「ええ……まあ……」

「中央大陸の南から来ている大商家の奥方様だよ。名前はミレイユ、隣で話しているのがご主人のマーケス。当方のお得意様でね。良い取り引きをさせて貰っているんだ」

「大商家の奥方様ですか」


 ここより更に南からとなると、そもそも俺と接点が出来なさそうに思える。出会うのは今でも、実際に何かがあるのはもっと先か? 分からないな。


「残念そう、というよりは不思議そうな顔だね」

「そう見えますか?」

「ああ。口説こうとした美人が、人妻で残念そうにするかと思ったんだが」

「一目惚れとか口説こうとかそういうことではないんです」


 ガルガヴァルの宝玉のことは、口外しないでおく。


 口を閉ざすソロモン。こちらの視線に気がついたのかミレイユ夫人が近づいて来た。


「ご無事で何よりです」

「ええ、バーレクス議員と其方の方のおかげですわね。ありがとう」

 目を細めるミレイユ夫人。目が離せなくなる妖艶な美しさではなく、眩しくて目を逸らしてしまうような美しさだ。磨かれた宝石のような容姿は貴婦人と呼ぶに相応しい。


 ソロモンは大きく頷いてから、

「ではここから脱出する打ち合わせをしましょう」

「そうだ! こんなカビ臭い所など居られん! すぐに出るぞ!」


 王子が機嫌が直らない様子で割り込んできた。ちなみに部下も召し使いも連れて来なかったらしく、ボッチな上に女性陣からも声を掛けられないという不憫な状況である。


「ただ問題がいくつかあるんです。負傷者が多いからなのか建物内はかなり手薄でした。ただ出口に陣が敷かれていて、数十人が詰めています。建物の外に出ようとすると彼等に捕まってしまいます」


「小僧が連中を全て倒せば良いではないか」

「無茶言わないで下さいよ王子。一人であの数を相手には出来ません」


 無茶振りはおやめ下さい。


「それと町の外への出口が議会派によって押さえられています。彼等に門を開けさせないと出られません。更にもう一つ、馬車は一台しか無い上にそんなに大きくはありませんので、ここに居る全員を一度に運べないんです」

「つまり三つの障害が有る訳だな」

「その小僧が全て薙ぎ払えば良いだけではないか」


 喜びの波が引き不安な空気が流れてくる中、王子は強気に無茶を振ってくる。


「ソロモン君は突破方法についてどう考えている?」

 ソロモンは少しの間黒髪を掻いた。


「正直なところこの建物から出るところが最大の難所じゃないかと。町に入ってくる時に親友に会いに来たと言ったので、ごまかして門を通ることはできそうです。馬車は町の外に隠しているし、守っている奴の腕は確かですから大丈夫かと。一度に全員が乗れなくても、フラスダと何往復かすれば時間は掛かりますが運べると思います。町の外で何時間も待つのは辛いでしょうが、最悪歩いてフラスダまで戻りましょう」


「成る程な。ここから出るまでが大変か」

 各々が考え込んでいるようで、暫く静かな時が訪れた。


「正面の出口以外から外に出られないか?」

 口を開いたのはロアロイトだ。


「どうだろうな。余が考えるに、窓がある一階の部屋は連中が全て使っているのではないか? 廊下からは出られそうな所はなかったと思う。いくら手薄とは言え流石に裏口には見張りを立たせているだろう」

「二階から上は窓があっても降りるのは危険だな。どうしたものか」

「そこの小僧が正面突破するか囮役で敵をどかせばよいぞ」


 無茶振りから頭を離せよ王子。


 黒髪を掻きながら少し沈黙の後、

「待てよ……あそこからなら出られるか……。多分見つかる可能性はほぼ無いかもしれない」


 ソロモンの発言に注目が集まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る