第24話 解放

 金属を簡単に切断してしまう吸血剣ブロジヴァイネのおかげで、拘束具を外すのは簡単だった。刃を入れる角度にさえ気をつければ、肌に傷一つ付けず綺麗に切断できたからだ。


 ちなみに鍵が掛かっていたのは王子の拘束具だけだった。他のはボルトの様な部分を手で捻ってロックするタイプで、ブロジヴァイネは必要なかった。作業中に簡単な自己紹介と経緯を説明した。


 非公開な上に証明する物を持っていないので、自分が帝国貴族であることは言わないでおく。不要な揉め事の種にならないようにだ。帝国出身の護衛業の男に、バーレクス議員が救出を依頼したという話にした。


「議会派にも真っ当な人間が居るというのに、余の家臣達は助けにも来ないで何をしておるのだ!」

 気持ちは分かるけど八つ当たりはやめてね。


「名前……ソロモンだったな」

「はい」

 名前を確認してきたのは二十台半ばの青年。ラグリッツ王子とそんなに歳が変わらない。


「自分はロアロイト・ケステンブールという者だ。……ソロモン君、ここには一人で来たのかな?」

 ケステンブール? 帝国の港湾都市と同じ?


「いやもう一人、ヴィクトルという名前の相棒がいます。今は町の外で待機していて、馬車を見ています。脱出できればそれでフラスダまで逃げられますよ」

 解放された人々から安堵の声が漏れた。ただ王子は機嫌が悪いままで、ロアロイトは腕を組んで何やら考え込んでいる。


「あの……帝国の港湾都市と同じ姓ということは……」

「自分は帝国貴族ケステンブール家の一人だ」

 誇りを宿す目で真っ直ぐにソロモンを見て、

「港湾都市ケステンブールの統治者の息子だよ」

「貴族様でしたか」

 俺にとっては最重要人物だ。


「帝国貴族のところには使えそうな小僧が来たのに、あの将軍共は全く使えん! 帰ったらクビにしてやる!」

 王子は相変わらず荒れていた。


「ソロモン君、ご婦人方は解放したのかな?」

「いえまだです。他にも捕まっている人がいるのですね?」

「いる、助けに行こう。そんなに離れてはいない」


 ソロモンを先頭に一同は移動を開始。ロアロイトの記憶を頼りに薄暗い地下を進む。


 ソロモンは不意に立ち止まった。どうした? という背後からの問いにすぐには答えずに通路の先を見つめている。


 ソロモンは再び歩き出す。先程とはゆっくりと歩を進める。


 石の壁、薄暗い通路、所々に灯り。靴が床を叩く音に、金属が擦れる微かな音が混じる。


 既視感が。俺はここに、この場所に、来たことがある……。


 少し歩いた後横を見る。鉄格子だ。その向こうに人がいる。一人や二人ではない。十人は居るだろう。


「やっと来ましたわね。女性を待たせるものではありませんよ」

 鉄格子の向こうから話しかけられた。金髪の女性だ。手足を鎖で拘束されている。


 鉄格子の向こうにいるのは皆女性で、男性陣を見て安心したのか小さく笑っている人がいた。


 ここは……ガルガヴァルの宝玉で見た場所で……あの人が……俺に大きな影響を与える人か……。

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