第23話 助けに来た少年
「使えない男だ!!」
手紙を読み終わったであろうベルダー議員は、この場にいない人物に怒鳴った。茹で蛸のように顔を真っ赤にして乱暴に手紙を破り捨てる。
「援軍や支援の準備をしているのかと思えば……あの役立たずめがッ!! この国の未来の為に戦おうという気は無いのか!! これだから対話派の議員はクズなんだ!! 我々が入り口を押さえるのにどれだけ苦労したと思っているんだ!」
それなりに広い部屋に反響する大声で罵詈雑言を吐き出す。
うわぁ面倒臭そうな人だ。何を書いていたのかは知らないが俺にとばっちりはやめてくれよ。
「おい、バーレクスは何か言っていたか?」
「……外交問題が起きると心配していたようです。人質を取るやり方は良くないと……」
「うるさい!」
俺にキレられてもな。
「我等に協力しない王子など所詮は無能! この国が良くなれば周辺国は助かるのだから有力者は協力しているんだ!! 悪いのはこちらの要求を聞き入れずに戦闘を継続する王と軍隊なのだ!」
人質を協力者というか、この議員さんは。
ベルダー議員は靴を激しく床に叩きつけて、狂った様に不満を吐き出し続けている。ソロモンがまだ室内に居るのにお構いなしだ。
このおっさんめんどくせーわ。捕まってる皆さんの居場所を聞くのは止めとこう。ここに来た目的は有力者の解放、臨機応変にいこう。
俺は帰りますね、と一言を置いて退室した。怒りが収まらないのか聞こえていない様子である。
あの様子じゃあこの戦い、議会派が劣勢のようだな。入り口を押さえて援軍待ちか。軍が城下町にしか居ないなんて事は有り得ないだろうし、援軍を止められている可能性があるな。治癒魔法が存在しないこの世界では、病院を押さえて治療行為を妨害というのは有効な手段なのか。
人が居そうな一階の部屋へ向かう。その途中、トイレから出てきた参加者を見つけたので話しかける。
「すいません聞きたいことがあるのですが」
なんだ? と返してくる参加者に、
「他国の有力者が協力していると聞いたんですけどね。会ってみたいのですが」
「協力? 監禁の間違いだろ。地下の倉庫に居るだろ。勝手にすればいいだろ」
興味が無いのか、機嫌が良くないのかその場から立ち去っていく。ソロモンはその背中を眺めつつ心の中で笑った。
地下の倉庫か。情報をありがとう。
一階の床面に視線を向けながら少しゆっくりと歩く。壁や柱に案内板でも無いかと探してみる。時々廊下を歩いている参加者を見るが、皆元気が無さそうだ。
結局自力では見つけられなかった。しかし包帯を取ってきてくれ、と頼んできた参加者から地下の倉庫への行き方を聞き出せたので問題無し。仲間だと思われたようだ。
包帯は一階の部屋にあったので、適当な数を治療所に持って行く。ついでに中の様子を窺うが、負傷者はかなり多い。
あれは戦力外、動ける人が少なければ俺は動きやすい。
頭の中で整理しつつ地下へ向かう。一応周囲を警戒しながら移動するが、見張りがおらず地下まで素通しだった。
圧迫感のある石の壁、僅かな灯りだけの通路。扉ではなく鉄格子で仕切られた規則正しい並びのスペース。積まれた木箱や雑に置かれた麻袋等が占拠している。今回の戦いの為に大量に運び込んだのだろう。
スペースは広いが構造自体は複雑じゃない。迷うことはないな。さて……お目当ての皆さんはどちらかな。
少し歩く速さを落とし周囲に目を凝らす。下り階段からちょっと歩いた先に、目が留まった。そこだけ明るくて目立っている一角がある。薄暗い地下で浮かんでいるようにも見えた。
その場所へ向かって進んでいく。ハッキリと影が見える明るさの中、鉄格子の向こうに目的の人達を発見した。ソロモンに視線が集中する。
手足を拘束されているし、格好も捕虜になった兵士には見えないので確定だ。中には何人も捕まっていた。
一応周囲を見渡して見張り巡回が居ないことを確認してから、
「捕まった有力者の皆さんですね。助けに来ました」
「遅い! 早く余を助けるのだ!」
拘束具の鎖を鳴らして要求する男に、
「はいはいちょっと待って下さいよ」
自称が余か。この人、ラグリッツの王子様か。自分の事を余っていう人リアルで会うのは初めてだね。
鉄格子を開けようとして気づく。鍵が付いていた。元から付いていたようだ。倉庫なので窃盗対策だろう。
錠前か。番号が書いてあるがこれは鍵の事だな。ま、元より鍵は持っていないし探す必要も無いんだけども。
「出番だブロジヴァイネ」
漆黒の剣を抜く。その刃を錠前の細い棒の部分に当ててゆっくりと引く。豆腐を切るかのように刃は金属の中へと入っていく。
「よーしいいぞ。流石は問題児、今日も絶好調だ」
大量の魔物から血を吸い取った問題児は、僅か数秒で金属を切断してしまう。
取り敢えずジャラジャラうるさい王子様からにするか。
拘束具を外しに掛かった。
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